たとえ僕達が生まれ落ちたこの狂った世界がどんな地獄だとしても 




※戦争ネタ、昭和転生







「それじゃあ、行ってくるよ」

俯く私の頭に手を乗せて、彼はそう言った。

「……総司、さん……」

ああ、駄目だ。今にも泣いてしまいそうだ。
泣いたら、きっとこの人が困るのに。
きっと、悲しむというのに。

「…千鶴」

総司さんの声に私は顔を上げる。

「ごめんね」
「…総司さんが謝ることじゃないです。私が、いつも弱いから、」
「千鶴は弱くなんかないよ。僕は、いつも千鶴を泣かせてばかりだね」

総司さんの手が私の頬を滑る。

「僕はこの時代でこうして健康な身体も手に入れて、千鶴とも再び出逢えることができたのに、」
「…総司さん、」
「……神様は本当に意地悪だなあ……」

彼のその呟きは微かに震えていて、私はその声を聞いて今にも泣いてしまいそうだった。

「……総司さん」

唇をきゅっと引き結んで、総司さんの瞳を見つめる。

「私、総司さんの帰りを待っています。ずっと、ずっと待っています。だから、どうか」

頬を撫でる彼の大きな手を両手で包み込む。
翡翠色の瞳は、切なげな色を浮かべていた。

「どうか、生きて帰ってきてください」

私の言葉に彼は一瞬長い睫毛を伏せて、それから私を見つめて柔らかな笑みを顔に浮かべた。

「ーーうん。必ず、僕は帰ってくるよ。君と一緒に生きるために」

彼のその力強い響きを持った言葉に、私も笑みを浮かべる。

「どうか、ご武運を」
「うん。……愛してるよ、千鶴」
「愛しています、総司さん」

彼は最後に私の唇に小さく口付けて、それから背を向けて歩き出した。

ああ、彼を乗せる列車はあと少しで出発してしまうのだろう。



日本が米国と戦争を始めて、国民の多くが戦場へ駆り出された。

そして先日、ついに総司さんのもとへ赤紙が届いたのだ。
彼は、戦場へ行ってしまうのだ。


前世、私と総司さんは夫婦だった。
新選組の沖田総司として狂乱の時代を駆け抜けた彼は、最期は羅刹の力を使い果たして灰になった。

それから私達は、明治、大正と移り変わる時代の中で何度も出逢い、再び恋に落ちるけれど、いつも私達は二人で一緒に生きることは叶わないのだ。

そして、昭和のこの時代では彼も私も普通の人間として健康な身体を手に入れて今度こそ、共に生きていけると思っていたのに。

運命はどこまでも残酷だ。


「……総司さん…」

だけど、私はあの人と生きたい。
私達は、希望を捨てきることも未来を諦めることもできないのだ。

「……私は、貴方と生きていきたいのです」

たとえその場所がどんな地獄でも奈落の底だとしても。


(何度だって私達はこの世界で出逢うのだ)






生きて帰ってくることが許されない時代ってとても悲しいですよね。

 
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