鬼女の呪詛 




※微百合表現あり、病んでる、とにかく酷い






「…ほら、俺の言った通りだろう。所詮、奴等も人間だ。人間はいつも身勝手で救いようのない愚かな生き物なのだ」
「…っ、彼等のことを悪く言うのは止めてください!いくら千景さんでも、許しません」
「おまえは何度言えばわかるのだ?我が妻ともあろう女鬼が、それくらいのこともわからないのか」

呆れたような苛ついたような風間を、彼女はきっと睨み付ける。
その琥珀色の瞳には、紛れもない強い怒りと憎悪が浮かんでいる。
風間は一瞬、困ったように眉をひそめて、それから溜め息を吐き出した。

「……もういい」

そう言って、彼は千鶴ちゃんに背を向けた。


「……千鶴ちゃん」
「…お千ちゃん………」

私に気が付いた彼女は、さっきまでの怒りは何処へやら、瞳に涙を浮かべながらも、無理矢理に笑みを作った。

「…ごめんね。こんなところ、見せちゃって」
「ううん、気にしないで」

彼女と風間のやり取りはいつものことだ。
人間という生き物を骨の髄まで嫌っているあの男にとっては、己が何よりも愛する妻が新選組をいつまでも想っていることに激しい嫌悪感と憎悪の感情を示す。
彼女は彼女で、自分が愛した新選組と彼等との大切な思い出を貶されることを、何よりも嫌う。
そして、それはたとえ愛する夫だとしても、怒りの感情を露にする。

「…どうしてなんだろう。私、千景さんのことは愛してるし、彼の言うことだってちゃんとわかってるのに…」
「……うん」
「…でも、彼等のことを悪く言われると、あんなにも愛しい千景さんでも殺したくなるくらい、憎い」

はらり、と彼女の瞳から綺麗な涙が零れ落ちる。

「私、怖いの。こんな自分が怖くて怖くて堪らない。千景さんのこと愛してるのに、殺したくなるなんて……」

こわい、と涙を流しながら繰り返す千鶴ちゃんの華奢な肩をそっと抱き締める。

「……でも、千鶴ちゃんは新選組のことが大切なんでしょう?大切なものを悪く言われたらそれは怒るし、憎いと思うよ。千鶴ちゃんは、それくらいあの人達のことが大好きだったんだよ。だから、今はしょうがないと思うの」

穏やかにゆっくりと言葉を紡げば、彼女はしゃくり上げて、私の背中へ腕を回した。

「……ありがとう、お千ちゃん……」

私の胸の中で泣きじゃくる彼女の背中をさすりながら、私の心はどこまでも冷えきっていた。



私は、風間のことが大嫌いだ。
あの男の傲慢な性格も勿論、彼は私から千鶴ちゃんを奪った。
それでも、唯一の救いは風間は、由緒正しい純血の男鬼だということだ。
こんなにも美しい彼女を、人間のような下等生物になんか渡してやるものか。
人格には問題があっても、風間ならば一人の鬼として、彼女が本来生まれ持つ女鬼の美しさと強さ、気高さを守ってくれると、私は思っていた。
なのに。

彼女の心には、まだあいつ等が生きている。

私の愛しい愛しい千鶴ちゃんの心を支配しているのは、私や風間が最も嫌う人間だというのだ。
志やら誠やら理想ばかり並べて、結局彼女のことも泣かせて守れなかったくせに、死んでからも彼女の心に人間の分際で存在しているだなんて図々しいにも程がある。
本当に、鬱陶しい。

千鶴ちゃんは、きっと騙されているのだ。
彼女はどこまでも綺麗で無垢な存在だから、狡猾な人間達に騙されているに違いない。

だから、彼女がそのことに気付くまでの間、私は千鶴ちゃんの一番の理解者のふりをしていよう。
風間が彼女の目を覚まそうと、新選組に対して暴言を吐き続けて、千鶴ちゃんはどんどんあの男を憎めばいい。
そして、居場所が無くなったら、私のもとへやって来ればいい。
私は、優しく慰めて、彼女を抱き締めて、ずっとずっと千鶴ちゃんの味方でいよう。
風間が彼女を取り戻しにやって来ようと、新選組が彼女の心を支配しようとしても、私が絶対に千鶴ちゃんを守ってみせよう。


「……千鶴ちゃん、私はずっと貴女の味方だからね」

呟いて、私はそっと彼女の額に口付けを落とした。



(愛してるの、誰よりも)







みんな狂ってる。
マイナー過ぎる姫千を密かに愛している私の趣味全開です。すみませんでした。

 
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