この子が愛おしい。
「…見ないで、ください、」
呻くように彼女は言った。
彼女の漆黒の髪は白銀に染まり、瞳は黄金色に、小さな両手で隠した額からは一対の真っ白い角がのぞいていた。
「……見ないで、…!」
其処にいるのは、僕の知っている小さな少女ではなく、ひとりの美しい鬼だった。
「……どうして、」
「…嫌なんです…!貴方にこの姿を見られるのは、」
白銀の細い髪が月光に照らされてきらきらと光る。
彼女の金の双眼から涙が零れ落ちた。
それさえも彼女は綺麗で。
「…どうして、こんなに綺麗なのに、」
彼女の顔を持ち上げて滑らかな頬を伝う雫を指で掬う。
長い白い睫毛は震えていた。
それから彼女はふるふると小さく頭を振るう。
「…違う、違うんです、」
「……千鶴ちゃん」
「お願いです、見ないで。沖田さん、見ないでください、」
「…千鶴!」
はっとしたように彼女が僕を見上げる。
黄金色の瞳は、ただただ綺麗だった。
「……僕は、綺麗だと思うよ。君がこの姿を嫌ったとしても、綺麗だよ」
額から突き出た白い角をするりと撫でる。
それから髪を撫でて、華奢な身体をそっと抱き寄せた。
「……私は、鬼なんです。貴方とは、違うんです。貴方に好かれるような女じゃないんです、」
震える声が鼓膜に突き刺さる。
僕の胸に縋る彼女の両目からぽろぽろと涙が溢れ出た。
「…こんな異形を愛す必要なんてないんです。沖田さんは、」
「……人間にも鬼にもなれない僕をそれでも好きだと言ってくれたのは、君でしょう」
夜の静寂に僕の声と、彼女が啜り泣く声だけが響き渡る。
「…僕がそれにどれだけ救われたのか、君はわかってるの?」
僕はこの子が愛おしい。
僕の弱さも全て受け止めてくれたこの少女がたまらなく愛おしい。
白銀の髪を一房掬って口付けを落とす。
彼女は黙って濡れた瞳を僕に向けていた。
「…僕はね、君が鬼だろうと人間だろうと人間じゃなかろうと、そんなことどうだって良いんだよ。僕は、雪村千鶴が好きなんだ」
僕の言葉に彼女は戸惑ったように瞬きを繰り返して、それから静かに目を伏せた。
「……私は化け物ですよ?」
「それを言うなら僕だって。だったら化け物同士お似合いでしょう?」
「………何かそれ微妙です」
不服そうに彼女は呟いたけど、その顔には笑みが浮かんでいた。
月は西に傾いて、東の空は微かに白んでいた。
もうすぐ、夜が明ける。
(美しい鬼よ、どうか我が御胸に)