「知っていますか?沖田さん。片想いって、すごく苦しいんです」
うん、知ってる。知ってるよ。僕はよくわかっている。
「最初は、好きで好きで、でも届かなくて、もどかしくて、それでも世界は輝いて見えるんです。恋の力ってすごいですよね?…でも、この想いが届かないってわかって、諦めようと思って、諦められなくて、だんだんと苦しくなっていく。…本当に、恋の力ってすごいですよね」
珍しく饒舌な彼女は、一通り話し終えると小さく息を吐き出した。それから彼女は寂しそうに微笑んだ。
「…それでも、千鶴ちゃんは土方さんが好きなんだ?」
「……馬鹿ですよね。叶わない恋なのに、」
「うん、馬鹿だよ。でも、千鶴ちゃんらしい」
そう言うと、彼女は一瞬だけ泣きそうに顔を歪めた。そして俯いて、呻くように呟いた。
「……苦しい、」
「うん」
「苦しいんです。息が、うまくできない。どうして、あの人じゃないといけないんでしょう。こんなに、苦しいなら、こんな気持ち知りたくなかった」
押し殺したようなその声はひどく痛々しい。
彼女の心が、悲鳴をあげている。
ねえ、千鶴ちゃん。片想いが苦しいって、本当だね。届かない想いがこんなにも苦しいなら、愛しいと思う気持ちなんていらない。
いらないよ、この想いが君に届かないなら。
「…片想いなんて嫌です。恋なんて、したくない」
「…本当だね。恋なんてするものじゃない」
ああ、世界は上手くできていないものだ。
どうして彼女の心に寄り添ってあげられる人間が僕じゃないの。どうして僕はあの人になれないの。こんなにも好きで苦しいのに。
君に愛されないなら、こんな世界いっそのこと無くなってしまえ。
「……苦しい、」
「…うん」
「……苦しいのに、私、それでもあの人が、土方さんが、好きなんです」
泣きそうな顔で彼女は笑った。
ああ、君に愛されない世界なんて消えろ。
(…それでも、あの人がいない世界よりも愛されない世界の方が救われるの)