願わくば、君が 



※死ネタ







千鶴ちゃんが死んだと押し殺したような声で土方さんが僕に伝えたのはつい最近のこと。

桜の散る季節。
彼女はまだ、若かった。


「…千鶴ちゃんは僕を置いて、死んじゃったよ」

よく晴れたある日。
縁側に腰を掛けて、澄んだ青空を見上げながら、僕の背後に立ったはじめ君に僕は呟いた。

千鶴ちゃんは、新選組隊士と不逞浪士との斬り合いに巻き込まれて亡くなったらしい。
殺しても死ななそうな彼女が死んでしまうなんて。

「……千鶴ちゃんの馬鹿、」
「…………総司、」

はじめ君の方へ視線を向けると、彼は俯いて、そしていつもの無表情には暗い陰が宿っていた。

ああ、彼も千鶴ちゃんの死が信じられないんだ。
いや、皆そうなんだ。
平助も左之さんも、土方さんだって、皆が千鶴ちゃんの死を受け入れてはいない。
でもね、皆きっといつか簡単に忘れてしまうんだ。
この胸の痛みも、喪失感も、彼女の存在だって。
過去のことだとその痛みを乗り越えたふりをして、思い出したくないから忘れていくんだ。

「……僕は、忘れたくないよ」

だって今も、ふとした瞬間に優しい声がして、無邪気な笑顔がまた現れるような気がして。

「…どうして、彼女が死ななきゃいけなかったの、」
「……………あいつは、雪村は優しすぎた」

消え入るように小さなはじめ君の声がやけに耳の奥まで響いた。

だったら、彼女は尚更馬鹿じゃないか。
その優しさ故に自分の身を滅ぼしてしまうなんて。
本当、馬鹿だよ。
僕はまだ君に好きだと伝えていないのに。

「………本当に、馬鹿だよ。千鶴ちゃん、」

せめて来世あたりにでも彼女が幸せになってほしい。

それが僕の勝手な自己満足だとしても、そう願わずにはいられないのだ。



(君が死んだことなんて、全部夢だったらいい)
(そうしたら、抱き締めて、好きだと言えるのに)

 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -