12月某日。記憶に痛いほど刻まれる事となった、とある冬の出来事。 それは私達の運命を大きく変える、人生で一番最悪な事件だった。 紺野燈南、16歳。 育ての親の身勝手で14歳の頃幕府に預けられ、幕府直属の特殊部隊に入る。 …それが私の歩んできた波乱万丈な人生だ。 私はしみじみ思う。本当に運の悪い人生を歩んでいる、と。 「……おーい燈南、何してんの?」 「!」 もの思いに耽っていると、突然後ろから声をかけられビクリと反応する。 急いで振り返り声をかけた人物を確認すると、燈南はハァと大きな溜息をついた。 「…なんだ雪芭か。」 「そのしらけた顔やめろ」 そう言って頬を抓ってきたのは、燈南と同じ特殊部隊の天草雪芭。 始めはいつもうるさくて男勝りでお節介な女、というイメージだった彼女も もう今では、燈南が唯一心を開いている親友だった。 …そんなこと死んでも口に出さないが。 「燈南、お前今日仕事は?」 「ないよ。」 「マジで!?あたしもなんだ!なぁなぁ、今日こそあたしと試あ…」 「却下」 「…………」 「試合」の二言もまともに聞かず、バッサリと切り捨てる燈南に雪芭はぐったりと項垂れた。 彼女はいつも燈南に手合わせを願うが、100回中100回と言っても過言ではないほど幾度となく断り続けられていた。 「……相変わらず鉄仮面みたいなやつだよなぁお前って。」 「………殴られたいの?」 「じゃあ一緒に散歩でも行こう。それならいいだろ?」 「…………」 にこにこ笑顔でそう言う雪芭に、若干戸惑ったものの数秒考え、燈南は微笑を浮かべ頷いた。 「…今日だけだからね。」 「かわいくねーやつー」 …他愛もない会話を繰り返し笑い合う。 そんな些細な事でも、私達にとっては本当に一秒一秒が大切な宝物みたいだった。 でも、 大切なものができると、失った時の消失感が計り知れないという事を、 …その時の私は、まだ知るよしもなかったんだ。 私の前から彼女がいなくなるのは、そう遠くない未来なのに。 まるで現実逃避、 現実からは決して逃げられない。 |