「おっ、女の子を隊士にする!?」





真選組局長、近藤勲は心底焦っていた。今の状況が今だ飲みこめない。


何せ出張から帰って来た矢先、何の報告もなく警察庁長官・松平片栗虎がもの凄い形相で部屋に押し掛けてきたからだ。



…しかも、後ろに女の子を連れて。女人禁制の真選組屯所に。


その上、この子をここの隊士にしてくれと言いだしたのだから、局長として黙っていられない。




「いやいやいや!それは幾らなんでも困るぜ、とっつぁん!ここは女人禁制…」


「あん?このゴリラ、ケチケチすんじゃねーよ。鼻の穴増やされてぇのか?」




そう言って銃を突き付ける松平に冷や汗を流しながらも、近藤はブンブンと首を横に振って否定し続けた。




「だからダメだって!女の子を真選組に入れるわけには…」


「心配無ェよ。こいつはそこらの平隊士よりも断然腕が良い。」


「そ、そんなこと言ってもなぁ…」



近藤はチラリと松平の隣に座る例の少女に目を向けた。


長い黒髪にとても整った顔立ちをしたその少女は、表情がなく、まるで人形のようだった。



そんな彼女の様子を見て、近藤は小さく松平に耳打ちする。




「…と、とっつぁん…本当にそれはこの子の同意の上でなのか?」


「何だテメェ、俺が無理やりこんな所に連れてきたとでも思ってんのか」




もちろん同意の上だ、と言い張る松平を近藤は怪訝に見つめた。


そのわりにはずいぶん感心がないように見えるけど…





近藤がそんな事を思っていると、ずっと黙り込んでいた少女がいきなり口を開いた。





「隊士が無理なら、隊士になれなくても構いません。」


「え…?」


「そちらが必要な時にだけ使ってもらって構わない。だからどうかここに置いてはくれませんか」



少女の口調はあくまで丁寧だった。が、相変わらず表情に笑顔というものは無く、どこか冷めた眼をしている。






「紺野燈南といいます。以前は幕府直属特殊部隊に所属していました」




腕には自信があります、と続ける燈南は手元の刀を静かに抜きながら言った。



…なんだか、とても寂しそうに。






「…斬る側に立つのも慣れてます。そして恨みを買うのも。」


「……き、君は一体…」




近藤は不審げに、且つ恐る恐る燈南に視線を向けた。


それに気付き、彼女はにこりと微笑んだ。


…だが、それは決して優しい雰囲気ではなく、ただ冷静に全てを見透かしたような、作り物のような笑み。






「私ですか?私は…」








ただの殺人鬼です。
それは本物の笑顔ではなかった。