「はーじめちゃん」

聞き慣れた声に、ため息をつきながら振り返る。満面の笑みで、大きく手をふる緋姫さん。いつになったら学んでくれるのだろうか。

「ちゃん付けはやめなさいと言ったでしょう」

「そうだっけ?でも振り返ってくれたし」

分かるならいいじゃない、と続けた緋姫さんに頭が痛くなった。困った彼女である。

真冬の寒空の下、僕の支度が終わるまで待っていてくれたことは嬉しい。嬉しいのだが、緋姫さんの服装はいただけない。長時間待つのは分かっていたはず、それなのに何故露出の激しい服装をしているのか。
頭痛の種は増えるばかりだ。

「もっと暖かい服装をして来れなかったんですか?」

「だって、素敵な彼氏に会うから」

「それでルックス重視の服装を!?まったく、貴女という人は…!」

そもそも貴女は女性なんですから、下腹部を冷やす行為は間違っている。そんなに丈の短いスカートをはいて、お腹を下すだけでなく風邪までひいたりしたらどうするんですか!
続けようとした言葉は、軽い口づけで全て飲み込んでしまう。呆気にとられ言葉を出せずにいると、緋姫さんは不敵に笑った。

「オペラ、素敵だったよ」

僕の返答を待たず、そのまま続ける。

「いつも聞いてる声のはずなのに、届いてくる歌声が、別人みたいでね。なんだか、遠くに思えちゃった。」

「…だから、このような事を?」

「愛の確認。今日は一緒に居られる時間が少ないから、いつもの小言は抑えて?」

するりと不意打ちで絡まった腕に、二度目のため息が出てしまう。一番近くの緋姫さんに聞こえないはずがなく、不安げな瞳が僕を捉える。その行動に、心の内で笑みが零れた。

「バカな人だ、君は。」

本当に、困った彼女である。

絡められた腕を引き、至近距離で向き合う。安心させるように頭を撫でて、深く口づけた。

「…っ、え、」

「僕の心は、緋姫さん。君だけのものです」

緋姫さんから大胆なことをしてきたというのに、茹蛸みたいに赤くなりながら動こうとしない。…いや、動けないのだろう。我ながらデータ以上の行動をおこしたと思う。
僕としては、このまま可愛い彼女を見ていても飽きないのだが。

「寮生管理委員として、門限は守っていただきますよ。今日、確認をしたいのでは?」

「―〜っ、大好き!はじめちゃん!」

「おや、愛しているのは僕だけでしたか。」

「あああ愛してもいる!」


聖なる夜に
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