「雪、降ってない……」
日本に来たは良いものの、長年なれしたしんだ雪は関東ではめったに降らない。
特に東京は。
「緋姫……」
『大丈夫、リョーマの誕生日に雪降らせてあげるから』
『毎年ずーっと、誕生日を祝うからね』
力なく最期に言った言葉。
ねぇ、もう24日だよ。いつになったら降らすのさ。
「降らねぇな、雪」
「煩いよ」
「緋姫ちゃんは確かに律儀だが……こればっかりはどーしようもねーだろ」
「そうよ。今日は1日晴れるって」
「母さんまで!」
「ごめんね、でも。そんな夢のような話があると思う?」
解ってる。
神様でも天使でもない、ただの死人が雪を降らすことが出来ないって。
でも、俺が信じなきゃ誰がその話を信じるんだ。
「信じてやらなきゃ、俺が」
「───そう」
寺には不釣り合いなクリスマスツリーを背に、俺は雪を待ち続けた。
絶対、緋姫が祝ってくれると信じて。
願わくばホワイトクリスマス
「遅いよ、緋姫」
『遅れてごめんね』
そんな幻聴と共に、真っ白な雪が降りだした。