ハロウィンとは。
現代の日本ではテンプレの台詞を言い、いわゆる『トリート』をたかる日。私の経験上、たかると言った方が正しい。それは小学校、中学校と例外なくたかられる。しかも中学生になると、『トリック』の嫌らしさが増す。そう…悪戯がカワイイものではなくなるのだ。

とくに、緑山中学校という場所では。

悪ノリ大好きな生徒が集まるのか、自由な校風がそうさせるのか。他校では少ない、超現代っ子です、な生徒が多い。効率がいい方を選んだり、テストの点数とれるからサボってもいいだろ精神だったり。もっとわかりやすく言ってしまえば、こういう行事に積極的なのだ。

とくに、私と仲のいいテニス部の野郎とかは。

これはもう何かされる。分かっていて準備のしない私ではない。鞄の中身はほぼ全て『トリート』という装備で学校へ来た。授業の準備?愚問だ、置き勉に決まってる。

個人的には死角はないと思っていた。言い返せばそのぶん、返ってくるし。



「トリック オア トリート」

「はい、持ってます残念でした」

「…手作り?へえ、いいね」

「羽生」

「ん?」

「トリック オア トリート」

「トリックで」
「…は?」



なのに



「トリック オア トリート!」

「はい、どーぞ」

「流石じゃん」

「昆川、トリック「あ、トリックで」…え」



なのに



「トリート、ほらあるんでしょ。トリート」

「…あるけどさ、もうちょっと楽しみなさいよ津多」

「は?なに言ってんの、すごい楽しんでるし。あっ、クッキー全部もーらい」

「…いいけど。じゃあ津多、トリック オア トリート」

「トリートは俺のもんだから、トリックでいいわ」

「たくさん持ってるじゃない、お菓子!」



なのに



「トリック オア トリック」

「え、選択肢無しで悪戯?」

「緋姫はトリックがいいかなって」

「季楽にはお菓子あげない」

「貰うんだけどね」

「ひと掴み!?しかもとりすぎ――って居ない!」



なのに、お菓子の物々交換は行われず



「トリック オア トリート」

「はい、トリート」

「手作りか。美味しそうだね」

「源だけだよ、褒めてくれたの…」

「なんか…ごめん」

「そんなわけで、トリック オア トリート」

「あ、ごめん、お菓子ないんだ。だから、これ。」
「ん?」

「図書カード。懸賞で当たったから」



鞄から『お菓子』の重さは無くなっていって



「真宮」

「…高瀬」

「トリック オア トリート」

「はい、トリート。トリック オア トリート?」

「ほら、トリート」

「え!」

「――の香りのするカード」

「食べられないんだけど」

「ラストお菓子、どうも」



ついには全く無くなってしまった。

何が敗因かと言えば、放課後活動の無かったらしいテニス部野郎の存在だ。教室を出た途端に先輩に絡まれて、私はまだ下駄箱まで行けていない。

午前中は女子同士でお菓子交換出来てたはず。それなのに、なんで手持ちがゼロ?その場で食べたわけでもないのに。
…あれ?私、本当にお菓子交換してた?

もやもやした気分で歩くと、あれほど遠く感じた下駄箱の前についていた。誰か居る。



「来た!」

「北村?」

「遅い!待った!」

「いや、遅いも何もだね」



それはもう ぷう っと頬を膨らませた北村が居た。北村の表情になんだか和み、もやもやが少し晴れる。

ふっと笑みを零すと、北村もへらっと笑う。



「緋姫、緋姫」

「なに?」

「お菓子くんねぇと悪戯だべ!」

「あー…」



両手を突き出して、テンプレの台詞を言う。一応鞄を確認してみるが、何度見てもお菓子は無い。



「ごめん、お菓子売り切れ」

「ふうん?」


肩を竦めて苦笑を浮かべると、私とは対象的にニヤニヤとした楽しそうな笑みに変わる。



「んじゃあ、悪戯だべぇ」


狂喜の笑みの齎す絶望


「え、な、なに」

「明日から、テニス部のマネージャー!」



さようなら帰宅部ライフ、こんにちはマネージャーライフ。

どうやら全て、壮大なテニス部野郎の計画だったらしい。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -