「恭弥」
「骸…」
「どうしたんです?そんな悲しそうな顔して」
「骸は、いつになったら戻って来れるの」
「…それはですね…」
少し戸惑う骸を見て、確信した。
やっぱり、復讐者からは逃れられないのだと。
「無理なんでしょ…」
「そんな事はありません、」
「じゃあ今すぐ戻って来てよ、早く…ねぇ!」
「ッ…すいません恭弥…」
そう言って骸は僕を抱き締めた。
「早く…戻って…来てよ、骸…」
恭弥はそう言い終えると眠ってしまった。
「情けないですね、僕は…」
恭弥にあんな顔をさせてしまうなんて…
この世界で最も愛している、
僕の1番大切な人を泣かせてしまうなんて。
恭弥は隠していたようですが…
涙の痕がかすかに残っていました。
「いつも、1人で泣いているのですか…?」
こんな広い屋敷で、1人で、
誰にも気付かれないように…
そう思うと、恭弥に何もしてあげられない自分に腹がたった。
「本当に…情けない、」
恭弥の額にそっとキスをして、
「おやすみなさい、恭弥…」
僕は静かに部屋を出て行った。
――――…
目が覚めると、既に昼だった。
勿論、僕の隣に骸の姿はなくて。
「骸…」
僕は馬鹿だ…
あんな無理な事言って…
「骸も、辛いのに…」
骸はいつも笑っている。
でも、作り笑顔だっていうのが分かる。
「どんなに辛い時でも、無理して笑って…」
なのに僕は我が儘ばっか言って…
「はぁ…」
その日の夜も次の夜も、骸は僕に会いに来た。
「骸…」
「なんですか、恭弥」
「骸っていつも笑ってるよね」
「はい?」
「僕には素顔見せたっていいんだよ?」
「………」
「僕は、」
《骸が幸せになる事を願ってるよ、いつか本当に笑えるように》
「恭弥?」
「なんでも、ないっ…///」
「変ですねぇ…今日の恭弥は…」
僕がそう言うと恭弥は、『ふんっ!』と頬を膨らまし、そっぽを向いてしまった。
「恭弥…そろそろ時間です、ではまた…」
骸は名残惜しそうに部屋を出て行った。
『行かないで』
言いたくても、言えない。
「骸に会いたい…」
幻影なんかじゃない、
本物の骸に。
――――…
ある日、僕は任務中に怪我を負ってしまった。
その夜、僕の怪我を見た骸は、辛そうな顔をして、
『すいません恭弥…』
と謝ってきた。
「何で骸が謝るの…僕の不注意だよ」
「………」
「骸?」
「僕は悔しいんです、恭弥を守れなかった事が…恭弥のそばにいれない事が…」
「………」
「恭弥、僕は必ず復讐者から逃れてみせます」
「…!」
「待っていてくれますか…?」
「しょうがないね…」
骸は力強く、僕を抱き締めた。
〜1年後〜
未だに骸は復讐者から逃れられずにいる。
骸は、『必ず戻って来る』と言った夜から僕に会いに来なくなった。
「夜は…静かだね…」
無性に寂しくなる。
不覚にも、僕は涙を流してしまった。
「ッ…」
ギュッ…
「!」
顔をあげると、そこには骸の姿があった。
「骸?!」
「戻って来ましたよ、恭弥…」
「?」
「やっぱり泣いてましたか…」
「ッ!」
恭弥はゴシゴシと涙を拭いた。
「恭弥…ずっと、この手で抱き締めたかったです…」
「僕も、ずっと抱き締めて欲しかった…ッ…」
恭弥はまた泣き出してしまった。
「恭弥、これから泣く時は、僕の腕の中で泣いてください」
「うん…」
「まぁ…僕が側に居るからには、恭弥を絶対泣かせません」
「…よく言うよ」
「…すいません、今まで寂しい思い…させてしまって…」
「…しょうがないから、許してあげる」
「…ありがとうございます」
そう言って骸はにっこり微笑んだ。
「…もう、離れないで」
「はい」
「もうどこにも行かないで…」
「はい、」
「ずっと側に居て」
「…当たり前です」
「………骸、」
「何ですか?」
「僕は骸がいれば、幸せだよ」
「!」
「骸は?」
「僕も、恭弥がいるだけで、それだけで幸せですよ…恭弥に願ってもらわなくても」
「なっ!///何で…」
「恭弥の考える事なんて、お見通しです」
「ッ…///」
「僕は、恭弥が側にいるだけで、笑顔になれるんですよ」
「!…あ、あっそ…///」
―貴方の笑顔で、僕は幸せになれる―
〜END〜