「恭弥、僕が任務から帰ったら、ちゃんと誕生日を祝いましょうね」
「良いよ、そんな事しなくても」
「駄目です。僕は祝わないと気が済みません」
「…自己満足」
「何とでも言って下さい」
「馬鹿だね」
「とにかく!ちゃんと一緒に祝いましょうね?」
そう言って君が任務に出て行ったのは、五月四日。
翌日は、僕が二十歳になる誕生日だった。
五月五日。
昼間までは晴れていたのに、今は土砂降り。
世間の連休ムードに流されて休暇を取っていた人間が多かったため賑わっていた屋敷内も、今は驚くほどに静かだった。
普段は面倒臭がってネクタイを締めない山本武や笹川了平も、今日は白のワイシャツに黒のネクタイをしっかりと身に着けスーツを着ていた。
重苦しい空気の中に混じって聞こえる啜り泣き。
冗談じゃない、どうして僕がこんなところにいないといけないの。
誕生日を祝うんだって言いだした奴は、帰って来た時には一言も喋らなかった。
綺麗な顔して眠って、とても安らかな表情だった。
「ねぇ…」
「…なんだよ、よくこの雰囲気で話しかける気になったな」
葬式の真っ最中、啜り泣きしか聞こえないような中で、僕は獄寺隼人に話しかけた。
あからさまに悲しんでいる沢田綱吉やクローム髑髏とは違い、獄寺隼人は僕と同じでただ表情を曇らせているだけだった。
だから話しかけやすかったのかもしれない。
「骸は…射殺、されたんだっけ?」
「そう聞いてるな。…流れ弾の当たり方が悪かっただけらしいけど…」
「…術師が調子に乗って前線任務を受けるからこうなるんだよ」
「雲雀…」
術師なのに前線任務引き受けて流れ弾に運悪く当たっちゃって、それがまた運悪く致命傷になって死ぬなんて…。
「僕の誕生日、お祝いするって言ってたのに…」
悲しかった。
でも、不思議な事に涙は出なかった。
僕の性格故なのか、悲しすぎて涙が出ないだけなのか…そこまではわからない。
「…嘘つき、誕生日祝ってくれるって言ったのに…」
葬式が終わって自室に帰った僕は、普段よりも広く感じるベッドに倒れ込んだ。
本当は祝って欲しかった。
今までみたいに祝ってもらって、渋々な雰囲気を装って骸の誕生日も祝いたかった。
でも、骸はもういない。
誕生日を祝ってくれる人も、誕生日を祝う相手もいなくなってしまった。
何も僕の誕生日に死ぬ事ないのに…。
「一人で…寂しくないのかな。僕と一緒にいられなくなって、悲しいと思ってるかな…」
ベッドに横たわったまま、僕はもう傍にいない骸の事を想った。
骸が寂しいと思っているのなら、傍にいてあげたい。
僕が骸に出来る事を一つでも良いからやってあげたい。
ボンゴレファミリーが所有する綺麗な庭園。
その中央には、ある人物の墓が作られていた。
供え物の花や菓子類は毎日新しいものが飾られている。
「骸…今日はチョコレート、持って来たよ」
その管理をしているのは、僕一人。
他の人間には手を出すなと言ったのは僕だから、それも当然。
「あと少しで君の誕生日だね」
僕は毎日毎日、骸が好きだったものを持って来ては備えていた。
食べ物は勿論、花とか、アクセサリーとかも。
骸はお洒落をするのが好きだったから、アクセサリーは喜んでくれていると思う。
「誕生日の日からは、とっておきのプレゼント…持ってくるからね」
だから、それまで待ってて。
「雲雀さん」
「…何?」
「最近忙しそうだし、しばらく休暇とってみたら?」
「……わかった。それなら休ませてもらうよ」
扉を開けて沢田綱吉の私室から出た。
それから数秒と経たないうちから、傍に仕えていた獄寺隼人と山本武の声が聞こえた。
「雲雀、だいぶ元気になったみてーだな」
「ったく…十代目に心配かけやがって」
「そう言わないであげてよ、獄寺君。雲雀さん…頑張ってるんだから」
余計な気遣いだった。
僕は骸が死んで元気がなかった事なんて一度もない。
ちゃんと今まで通りに任務をこなしてきた。
報告書も提出していた。
それなのに、何を言っているんだ。
「……まだ失った事すらないくせに、わかったような事を言って…」
ムカついた。
彼らが、そして僕自身が。
六月九日。
今日の僕は骸への手土産もなく、庭園を訪れた。
誕生日のプレゼントは、事前に準備出来るようなものじゃなかったから。
風が心地良く吹いていて、落ち着いた。
目を閉じたら、今でも思い出せる気がする。
骸が僕に優しく微笑みかけてくれていた事。
落ち込んで時には抱きよせて安心させてくれた事。
微妙に低い体温も香水の匂いも全部覚えてる。
「骸…誕生日、おめでとう」
四捨五入したら三十になるね、なんてからかった事もあった気がする。
言い返されたら、僕はいつでも好きな年齢だった返して…。
「ずっと、一緒にいられると思ってたのに…」
僕の手には、ボンゴレが誇る雲のボンゴレリング。
雲ハリネズミのオリジナル、レプリカの匣。
その他にも造りの良い雲のリングは沢山揃えたし、今日の為に準備はした。
「君の願いは…僕が叶えるから。それが終わったら、君の所に行くから…待ってて」
『六月九日。
ボンゴレファミリー日本支部が何者かの企みにより炎上。
事前にガソリンを撒かれていた形跡があり、復旧の見通しは未だに立っていない。
ボンゴレ十代目並びに守護者数名が逃げ遅れ死亡。
生き残った守護者、ファミリーの人間の証言から犯行に及んだ可能性が高いのは雲の守護者と思われる。
雲の守護者の遺体は発見されておらず、足取りも不明。
六月十日。
様子を見に来たキャバッローネファミリーボスのディーノが何者かの手により射殺される。
同行していた部下も全滅。
「うしし、モドキは所詮モドキだったって事じゃん。十代目に相応しかったのは、やっぱボスしかいなくね?」
イタリアに本部を構えるボンゴレファミリー。
そこには九代目の元に緊急収集されたウ゛ァリアーの幹部が集合していた。
そう、僕が骸へ贈るプレゼントは、彼の野望を僕が成し遂げる事。
それが終わった後で、骸の元へ行く。
ねぇ、うまくいったら誉めて?
ありがとうって言って、頭を撫でて?
大好きだよ、骸…。
六月十二日。
ボンゴレファミリー、イタリア本部壊滅。
この後も次々とマフィアの人間に集団的な殺戮が繰り返される事になる。
『違う…違いますよ、僕はこんな事は望んでいなかった…』
『僕が望んだのは君の幸せだけなんですよ、恭弥…』
死した人間の声が、生きている人間に届く事はなかった。
〜END〜
紫苑様、ありがとうございました!
拍手文に掲載されていて、フリーに甘えさせていただきました♪
骸のためにマフィアの殲滅をした雲雀さんだけど、骸はそんな事を望んではいなくて…
骸はただ雲雀さんの幸せを願っていたけど、その思いは雲雀さんには届かないっていうのがまた切なくて良かったです!
死ネタが好きな飛鳥にとっては最高でした♪
ではでは、本当ありがとうございましたw
〜飛鳥〜