『君レベルの男は何人も見てきた』



出会いは、最悪。



『君とはもう口を聞かない』



だから、僕がこんな事を思う日が来るなんて、思いもしなかった。

自分自身、未だ信じられない。





「クフフ…こんにちは、雲雀君」



また来た…



「…何の用?僕、暇じゃないんだけど」


「つれないですねぇ、相変わらず」


「ふん…」


「今日はボンゴレに用がありましてね、それで少し寄り道したんですよ」


「そう…ならさっさと行きなよ」


「ええ、そうします…それでは」



六道は僕に軽く会釈してから応接室を出る。

やがて、扉が閉まる。



「………はぁ」



どうして僕はあんな事を言ってしまうんだろう…


書類整理はもう終えた、
今日の仕事はあと校内を見回るだけ。

その校内を見回る時間までにもまだ時間的には余裕もある。


暇がない訳じゃない。


なのに…
つい口をついて出てしまう。



「あんな事、言うつもりなかったのに」



僕は、六道が好き。
……多分。まだ好き、という確信がない。


なぜ好きになったのか明確な理由はないけど…


ただ、いつの間にか好きになっていた。



「何の…用だろ…」



六道は、あの草食動物に用があると言っていた。

別に僕には関係のないことだけど…それでもやっぱり気になる。



「……そろそろ時間だね…」



校内を見回る時間になると、僕は応接室を出て、校内を回る。



「…………」


「…委員長、報告です…裏庭で煙草を吸っている生徒が、」



副委員長の草壁が、窓の外を指差す。

見てみると、確かにそこには数人で輪になって煙草をふかしている生徒がいた。



ガラッ



「委員長…?まさか、飛び降りるつもりですか!危険です、ここは三階ですよ!」


「僕に意見するの」


「い、いえっ…そういう訳では…」



ガコンッ



「僕に意見するなんて十年早いよ」



僕は草壁に一撃をくらわせ、窓から飛び降りる。




『なあ、ヤバいって!風紀委員が来たらどうすんだよ』

『あ?何だそれ?』

『お前は転校してきたばかりで知らないかもしれねぇが、並中には…』




「君達、僕の学校で何してるか分かってる?」


『ひぃっ!?に、逃げろ!』


「逃がさないよ、君達は全員…咬み殺す」



その場にいた全員を始末して、応接室に戻ろうとすると、パチパチと小さな拍手が聞こえた。



「さすが、雲雀君ですね」


「!…六道…」


「足、大丈夫なんですか?しかし…三階からは危険ではないですか?」


「大丈夫だよ…それより、用事はどうしたの」


「それがですね…どこを探してもボンゴレが見当たらないんですよ」


「もうすぐ下校時刻だから、入れ違ったんじゃない?」


「そうですね…もう一度、校門の辺りを探してみます」


「勝手にしなよ…でも、下校時刻を過ぎても校内にいたら咬み殺すから」


「それは、怖いですねぇ…」


「分かったら帰りなよ」


「クフフ、そうします」



そう言って六道は僕の前から去ってしまった。



「……ッ…まただ…」



また、思ってもいないことを…

もうダメだ。
どうして僕はこんなに可愛くないんだろう。

いや、男なんだから可愛くある必要なんてないんだろうけど…。



「六道なら…下校時刻を過ぎてても少しくらいなら見逃してあげるのに…、」



本当は、咬み殺すつもりなんて、これっぽっちもない。




下校時刻を過ぎた校内を一回りして誰もいないことを確かめ、応接室に戻ることにした。

応接室に戻ってソファーでしばらくボーッとしていると、外から誰かの声が聞こえた。



『お前、早く家に帰れよ!』


『何故そんなに突き放したような言い方をするのですか!』


『うざいから』


『なっ…』



窓を開けて見てみると、校門付近に六道…と、草食動物の姿があった。



「まだ残ってたんだ…」



六道と草食動物が仲良さそうに一緒にいるところを見ていると、チクンと胸が痛んだ。

それと同時に、モヤモヤとした気持ちが生まれる。



これは「ヤキモチ」 というものだろうか…

今までに感じたことない気持ちは、膨らんでいくばかりだった。


やがて二人を見ている事さえ嫌になってきた。



「……早くどこかに行けばいいのに、」


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翌日も、その次の日も、六道は並盛に来た。

最近はほとんど毎日来るようになっていた。


目的は多分、草食動物なのだろうけど…



「こんにちは、雲雀君」


「…最近、よく来るね」


「そうでしょうか…まあ、最近は毎日来てますけどね」


「なんで毎日来るの?」



僕が聞けなかった、疑問。返ってくる答えが怖くて、僕の予想している答えが返ってきそうで…なかなか聞けなかった。



「それは…そのですね…気になるんです、」


「………誰が?」



そんなの、聞かなくても容易く想像できる。

相手が誰か、なんて。

それでも微かな期待を込めてそれを聞く僕は、なんて愚かなんだろう。



「目が離せないんです、ボンゴレから」


「そう…」


「何なのでしょうね、この気持ちは」



六道は今、僕が六道に感じている想いを、あの草食動物に感じているのだろうか。


六道がいつも応接室に寄るのは、あの草食動物のついで…?

六道が会いたいのは、あの草食動物であって、僕じゃない。

僕はただのオマケ…



「……もう、ここには来ないで」


「…雲雀君…?」


「…ッ迷惑だ、君に来られると」



君といると、妙に気持ちが落ち着かない。
君がそばにいると、胸の鼓動がうるさい。

君を見ていると、辛くなる。

君の瞳に映っているのは、沢田綱吉だということを思い知らされる。



「君なんか…大嫌い、だ…」



僕は六道を無理やり廊下に追い出し、鍵を閉めて扉にもたれかかる。



「雲雀君っ…!?」



もうこれ以上…君を好きになりたくない、

君が他の人のことを想っているとしても、この想いは止まるどころか溢れるばかりで。


叶わないと分かっているのに、それなのに僕はまだ君が好きで。



辛くてたまらない。



本当の気持ちを言葉にだすことができない僕は、この想いを君に伝えることもできなくて…

どうすることもできない。



「…本当、は…大嫌いなんかじゃ…、なくてっ………」



誰にも聞こえないような小さい声で、今まで言えなかった想いを呟く。



「好…き、なん……だ……骸…ッ」



君に届くことのない意味のない告白を、

いつか君に届くことを祈って。



〜END〜
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