紙の上をペンが走る音しか聞こえないような、静かな応接室。



(いつもより書類が多いな…)



僕はいつものように仕事をしていた。
いつもならアイツが来る前に終わらせてしまうけど…
今日は書類の枚数が多すぎるような気がする。



(これじゃアイツが来る前に終わらないな…)



そんなことを思っていると、ふいに応接室の窓が開いた。


「雲雀君、こんにちは」


「やあ骸…ちょうどいいところに来たね」


「?何ですか……って、雲雀君、これは…」


「手伝え」



僕は机の上に山積みになっていた書類の半分を骸に押し付けてやった。



「…何故僕がこんなことを…!」


「手伝ってくれないの?」


「……全く君は…しょうがない人だ…」



とか何とか言いながらも結局骸は手伝ってくれる。

骸とのこういう時間も嫌いじゃない。共通のことをしているのが…でも……



「むく……」



バリーンッ!



「「!」」


「邪魔して悪ィな」



いきなり窓が割れたかと思うと、窓際に赤ん坊の姿が見えた。



「赤ん坊…一体何の用…「リボーン!今日こそ倒してやるもんねぇ!」



続けて窓から牛が入ってきた。
赤ん坊が入ってきた牛に一発蹴りをいれると、その牛は泣き出してバズーカのようなものを出してきた。



「!ヒバリ、危ねぇぞ」



その牛が撃った方向は赤ん坊の近くに立っていた僕に向かっていた。



「雲雀君!」


「!…ちょ、骸…///」



僕を庇おうとしてか、骸が僕を抱きしめるような形になっていた。



ボンッ



「…っ…骸…、大丈夫…?」


「…恭弥?」



そう僕を呼んだ声の主は、骸ではなかった。



「誰…」



煙が晴れると、応接室内にはもう赤ん坊と牛はいなくなっていた。



「…十年前、ですか…」


「ねぇ、君は誰なの」


「クフフ…僕ですよ、分かりませんか?」


「骸?」



髪も慎重も伸びていて、声も少し低くなった気もするが、よく見ればどことなく骸と似ているような気がする。



「そうです、よく分かりましたね」


「そんな特徴的な笑い方、君しかいない」


「そうですね…それにしても…」



そう言いかけて、ジロジロと僕を見てくる。



「何なの?何か文句があるなら………んっ!ふ、ぅ…」



骸はいきなり僕の唇に自分の唇を重ねてきた。
しかもあろうことか舌までいれてきた。



「んっ…は…ぁ…」


「クフフ…やはり君は可愛いですねえ」


「っな、に…するの!///」


「おやおや、顔が真っ赤ですよ?」


「うるさい!///」


「本当に可愛い人ですね、君は…十年後の色っぽい君もいいが、今の君もうぶでいいですね」


「…っ…///」



骸はこんな奴だっただろうか?
今でもこんな要素はあるけど、ここまで…



「恭弥…どうしたんですか?」


「やめて」


「…?」


「下の名前で呼ぶな」


「照れてるんですか?」


「黙れっ…//」



さっきから頬の熱がひかない。
何故だか、十年後の骸には敵う気がしない。



「戻りませんね」


「本当だ…」



時計を見ると、十年後の骸が来てから五分以上経っていた。



「多分故障か何かでしょう…今はこの時間を楽しむとしますか」


「…………」


「ってことで、出掛けましょうか」


「え…ちょっと!」



骸は僕の腕を強引に掴み、校舎を出る。



「……寒い」



応接室の中では暖房がかかっているから、暖かい。

暖かい所にいたからなのか、より寒く感じる。

とは言っても今の季節は冬。寒いのは当たり前なのだが…



「そんなに寒いですか?」


「君は寒くないの」


「そんなには…」



そこで会話が途切れると、骸は何を思ったのか、僕の手を掴み、自分の着ているコートのポケットにいれた。



「何して…「これで手は寒くないでしょう?」



そう言って骸はニコッと微笑んだ。


僕の手を握る骸の手は、予想以上に温かかった。



「温かい…、」


「恭弥の手が冷たいんですよ」


「じゃあ君は心が冷たいんだね」


「何故ですか?」


「手が温かい人は心が冷たいんだって、手が冷たい人はその逆」


「クフフ…では恭弥は心が暖かい、ということですね」



なんて、他愛もない会話をしながら、僕たちは並盛をぶらついていた。

冬は空が暗くなるのが早いから、骸が危ないといったが、

暗くても明るくても僕に危険なんてないよ

僕がそう言っても骸は訊かなかった。



「もう少し外に居たかったのに」


「駄目ですよ、夜は冷え込むんですから…」



帰る所がない骸は、応接室に泊まり込むことになり、僕も一緒に泊まることにした。



「今思ったんですけど、恭弥って好きとか愛してるとか言ってくれませんでしたよね」


「そうだっけ?」


「僕は、かなり恭弥に言っていましたが、」


「そうだね」


「あの頃の僕は、とても不安でしたよ…雲雀君は本当に自分が好きなのか、と」



そんなこと、初めて知った。
遠い昔を見ているような目でそう話す骸を見て、
そんなに悩んでいたのかと思った。


「…骸、」


「?」



―今の骸に、十年後の骸へメッセージを囁く―



(愛してるよ)(今の僕に言っても意味ないじゃないですか…//)



〜END〜
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