僕はいつもの様に応接室で仕事をしていた。


書類に目を通していると、ノックも無しに扉が開いた。


誰が入ってきたのかは容易に想像できる。

ノックも無しにこの応接室に足を踏み入れるのはあいつしかいない。



「大好きです恭弥」


「……は……?」


「愛してます恭弥」


「…………」


「何故無視するんですか」


「…うざい」



いきなり来て何を言い出すかと思えば…



「うっ…うざい…!?」


「その言葉は聞き飽きた」


「僕はまだ言い飽きてませんよ!」



骸は僕に会う度、いつも決まって好きとか愛してるという言葉を口にする。



「恭弥、いつになったら僕と付き合ってくれるんですか?」


「そんな日が来ると思ってるの?」


「はい!」


「来ないよ」


「恭弥〜…」


「仕事の邪魔だよ、帰って」


「…分かりました、また来ますねvV」



僕にニコッと微笑みかけた骸は身を翻し、応接室を出ていった。



「…………」



理解できない。


好きだの愛してるだの、そんな感情、


全く理解できない訳ではないけど…


人を好きになる事に一体何の意味があるっていうの?



それに…
骸と僕は、元々敵同士だった筈なのに。

僕はあんなにも骸を嫌っていて、いつか咬み殺してやる、って思ってたのに。



いつの間にかそんな感情は消えていて、今ではこの有り様だ。



何で骸は何度も何度も僕に告白してくるの?

何で僕が好きなの?

何で…どうして?



「骸が…理解できない、」



静かな応接室に僕の声が虚しく響いた。


僕はこのむしゃくしゃした気持ちを晴らすため、群れを探しに外に出た。



――――…



「毎日毎日…何度も好きと言っているのに、何故恭弥は僕の気持ちに気づいてくれないんでしょう…」



恭弥は僕が嫌いなんでしょうか?


しかし嫌いならば、咬み殺されている筈ですし、

もし好きならばとっくに付き合っている筈です。



恭弥は僕のことをどう思っているんでしょう…



「恭弥の気持ちが…、分かりません…」



そう呟いた時、前方から1人の女性が歩いてきた。


地図を見ながら辺りをキョロキョロと見回している。僕がいることに気付き、こちらに近づいてきた。



『あの…すみません、道をお尋ねしたいのですが…』


「いいですよ」


『ここに行きたいんです』


「ああ、ここでしたらすぐ近くですので、良ければお送りしますよ」


『あ、ありがとうございます!』



僕は女性の目的の店の前まで案内した。



「ここですよ」


『助かりました〜…ありがとうございました!』


「いえ、大したことはしていませんし…」


『何かお礼がしたいのですが…外国の方ですよね…?』


「そうですが…?」



僕が質問に答えると、次の瞬間、頬に柔らかいものが触れた。



「!!」


『が、外国の方ってお礼にキスするんじゃないんですか?』


「いや…それは、…あの…」



僕が応答に困っていると、女性はあたふたし始めた。



『もっ…もしかして…間違ってましたか!?すいませんっ!』


「い、いえ…いいですよ…ではこれで」


『はい!』



僕は女性が店に入るのを見届け、ヘルシーセンターへ戻ろうと踵を返した。



その瞬間、曲がり角に人影が見えた。



「?」



曲がり角をよく見ると、『風紀』と書かれた腕章がついている学ランの袖が見えていた。



「…………」
(まさか…)







まずい…見つかった…?

多分、気づいてないとは思うけど。


「あの女の人、誰なの?」



あの後、むしゃくしゃした気持ちを晴らすために出掛けた僕は、群れていた奴らを咬み殺した。


それでもむしゃくしゃした気持ちは晴れなかった。


だから、また群れている奴らを探していたら、骸を見つけた。

骸は女の人と居て、頬にキスをされていた。



「……彼女…?」



そうとしか考えられない。だったらどうして…


あんなに毎日毎日、僕にあんな事言ってきたの?

僕の事、からかってた…ってこと?



「…………」



イラつく。骸が…でもそれ以上にあの女の人が…


この気持ちは何?



そう考えていると、後ろから誰かが近づいてくるのが分かった。

イライラしてるし…丁度いい。



「…咬み殺す」



トンファーを構え、近づいてきた奴にめがけて思い切りぶつけた………けど、それはかわされていた。



「恭弥…危ない、ですよ…?」



僕の目には、ホッとし胸を撫で下ろす骸の姿が映っていた。



「何の用?」


「冷たいですね…ところで恭弥…今の、見てました…?」


「君が女の人にキスされてるところ?」


「そうですが…それには訳があるんです!さっきの女の人は『外国人がお礼にキスをする』と勘違いしていたんです、だから…」


「だから、何?そんなのどうでもいい、僕には関係無いことだよ」


「では…何故そんな顔をしているんですか…?」


「僕は元々こんな顔だよ」


「今の恭弥は泣きそうな顔をしてます」


「…ッ!そんな、訳…」


「あります」


「骸…このむしゃくしゃした気持ちは…何なの?」



そう恭弥に質問されて、困った。もしかして僕の思い違いかもしれない。

ですが…



「嫉妬、ですか…?」


「嫉妬…」



それって好きな人に対してヤキモチを焼くこと?

僕が、骸のことを…


好きって事?



「恭弥…僕は恭弥が大好きです」



そう言って骸は僕を優しく抱き締めた。



「…………」



僕も、骸が好き。

僕はただ、気づかなかっただけなんだ、この感情に。



「恭弥の答えが聞きたいです」



骸は僕の耳元でそう囁いた。



「…っ………」



分かるでしょ?
僕が言葉にしなくても…



「恭弥?」


「一回しか言わないから、よく聞きなよ」



僕は軽く息を吸った。




「骸が、大好きだよ…///」


「ずっと待ってました、その言葉…」



そう言い終えるなり、骸は僕に唇が触れるだけのキスをした。


それはだんだん、深いキスへと変わっていった。



「…んっ……ふ…ぁ…」


「恭弥、愛してますよ」




そんなの当たり前でしょ?僕だって骸のこと…



「…愛してるよ、骸」



〜END〜
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