僕はボンゴレに呼び出され、ボンゴレの部屋を訪れていた。
「ミルフィオーレに潜入、ですか?」
「うん」
久しぶりの任務かと思えば、実に地味な任務だ。
「ミルフィオーレに潜入して、少し様子を見てほしいんだ」
「………嫌です」
「え?」
「何故僕がそんな任務をしなければならないのですか」
「骸が適任だと思うんだ」
「…………」
ずっと黙っていたが、しつこく頼まれ、しょうがなくこの任務を受けた。
「骸、この任務は危険だから、くれぐれも注意しろよ?」
「分かりました」
「ありがとう、よろしく頼んだぞ」
「はいはい…それではまた」
「あぁ」
バタン
「ミルフィオーレ…ですか…」
今回の任務もいつも通り何事もなく終わるだろう…、そう思っていました。
しかし、それは違っていた。
今思えば、ボンゴレにこの任務を任された時から、既に僕の運命は決まっていたのかもしれません。
――――…
数日経って、僕はレオナルド・リッピに扮し、見事ミルフィオーレに潜入した。
おまけにミルフィオーレの総大将、白蘭の側近。
「君がレオナルド・リッピ…?」
「はい!」
「そう、ヨロシクね♪」
「よろしくお願いしますであります!」
「うん♪」
…おかしいな〜、正チャンが推薦したのってこんな若い子だっけ?
まあいいや…
どうせすぐに分かることだしね。
「どうかなさいましたか?」
「ううん、何でもないよ」
「そうでありますか」
「あ!レオくん、マシマロ食べる?」
そう言うと白蘭はお菓子の袋を差し出してきた。
白くてふわふわした円筒状の食べ物…
白蘭の言うマシマロとはマシュマロのことだろう。
「白蘭様、それは恐らくマシマロではなくマシュマロかと…」
「食べないの?」
「…では、折角ですのでいただきますね」
それにしても…隙だらけですね…
「…………」
骸の位置からは白蘭の顔が見えないが、その時白蘭は不敵な笑みをみせていた。
「白蘭様、それではまた明日であります」
「バイバーイ♪」
ガチャン…
「…レオくんの中身は霧の守護者、かな?」
――――…
「もしもし、ボンゴレですか?」
「うん、そうだけど…どうしたんだ?」
「明日、白蘭と戦います」
「は!?何言ってんだよ、お前の仕事は様子を見ることだぞ!」
「はい」
「やめろ、いくら骸でも無理…」
「やると言ったらやるんです」
「おい!むく…」
「それではまた」
プツン…
それでは…準備するとしますかね…
クフフ…楽しみです、
「おはようございますであります、白蘭様!」
「うん、おはよう…ちょっと話があるんだけど」
「何でありますか?」
「んー…レオくんじゃなくて、」
「?」
「その中にいる骸くんに」
「…分かってたんですか」
「だいぶ前からね♪」
「クフフ…いいでしょう」
するとレオナルド・リッピは霧に包まれた。
「…………!」
「さあ、戦いましょう」
「わー…どうしよう、僕…一目惚れしちゃった!」
…………は?
いきなり何を言い出すんだこの男は…
「何してるんです、かかってきなさい」
「気に入ったよ、骸クン♪」
「は?」
チュッ…
「僕、骸クンのこと好きになっちゃった♪」
「!?」
いきなり白蘭が近づいてきて、何をするかと思いきや、僕の唇に自分の唇を重ねてきた。
「…なっ、!」
「♪」
その日から僕はしつこく白蘭に迫られた。
「骸クーン♪」
「…毎日毎日、しつこいんですよ!」
「骸クンが怒った〜」
「………」
「骸クン?」
「何故…僕を殺さなかったんです?」
「なんでそんな事聞くのー?」
「僕は今でも貴方を狙っています、そのうち後ろから刺されるかもしれな……フゴッ!」
喋っている途中で口にマシュマロを突っ込まれた。
「人が話している最中に……「僕は…」
白蘭が珍しく真剣な顔をした。
「白蘭…?」
「骸クンになら殺されてもいいかな♪」
いつも通りの笑った顔でそう言った。
「…あっそうですか」
最初は白蘭が大嫌いだったが、いつの間にか惹かれていった。
「最近骸クン優しいよね、抱きついても怒らないし♪」
「…別に、ただの気まぐれです!」
白蘭とは恋人のような関係になっていた。
「白蘭…眠いのでもう寝ます、」
「もうこんな時間か〜おやすみ骸クン♪…ってもう寝てるや…ふぁ〜僕も寝よ…」
――――…
「白蘭…」
「もういいよ、骸クン」
「しかしっ…、」
「前に言ったよね、僕」
「何をですか…?」
「骸クンになら殺されてもいいかな、って」
「!…本気、だったんですか」
「骸クンに殺されるなら本望だよ」
白蘭は覚悟を決めたように僕をじっと見据えている。
「白…、蘭…」
「早くしてよ、骸クン」
「…ッ、」
僕も覚悟を決めて手に握りしめていた銃を白蘭に向けた。
「さようなら…白蘭…」
ドーンッ!
「ありがと…骸、ク…ン」
――――…
「白蘭ッ!」
隣にはすやすやと眠る白蘭の姿。
………夢?
それにしてはリアルでしたね…
あんな夢…
ただの夢、ですよね?
この時はまだ、ただの夢だと信じていた。
「…………」
「ん〜……骸クン起きてたの?」
「…………」
「骸クン?」
「!…何ですか?」
「ボーッとしてたから」
「白蘭…少し外に行ってきます」
「うん、……あ」
「?」
「逃げちゃダメだよ♪」
「分かってますよ」
僕は一旦白蘭の部屋を出た。
「このままで…いいんでしょうか…」
ここへはミルフィオーレの行動を監視するという任務で来たんです。
そして元々僕は白蘭を倒す事が目的だった筈です。
それが今は…
本当にこのままでいいんでしょうか…
プルルルル
プルルルル
「ボンゴレ?」
「骸!無事なのか!?」
「はい…」
「良かった〜」
「何か…用でもあるんですか?」
「ああ…今からミルフィオーレに総攻撃を仕掛けるつもりなんだ」
「総攻撃…!?」
「ああ」
「………分かりました、」
「じゃあ、後で合流しよう」
「はい…」
ボンゴレがミルフィオーレに総攻撃…総攻撃ということは守護者も全員来るだろう。
そうなればさすがの白蘭でもボンゴレには勝てないでしょう…
ならばいっそのこと、僕が…
「僕がこの手で…」
気づいたときにはもう走り出していた。向かった場所は白蘭のいる部屋。
バンッ
「骸クン♪おかえり」
「白蘭…」
「骸クン…?」
ジャキッ…
僕は覚悟を決めて、銃口を白蘭に向けた。
「…ッ……」
「やっぱり…そんな気がしてたんだ」
「!」
「いいよ、撃ちなよ骸クン」
「死んでもいいんですか…」
「前に言ったよね、僕」
「?」
「骸クンになら殺されてもいいかな、って」
「!」
夢と同じ状況…
夢と同じ台詞…
僕は夢と同じようにこのまま白蘭を殺すのでしょうか…
「骸クン?」
「今までたくさんの人間を葬ってきました、ですが…銃の引き金を引くのにこんなに手が震えたのは初めてです」
「………」
「逃げてください白蘭…あともう少しでボンゴレがミルフィオーレに総攻撃をしにやって来ます」
「僕を逃がしたら骸クンが危ないんじゃないの?」
「いいんです…貴方を殺すよりましだ」
「…迎えに行くから、絶対に」
「はい」
「だから、僕のこと信じて待っててくれる?」
「待ちますよ…ずっと」
僕がそう言うと白蘭は安心したようにその場を去った。
丁度白蘭が去った後、ボンゴレの総攻撃が始まった。
「骸…白蘭は何処だ?」
「僕が逃がしました」
「!?何言って…」
「逃がしました、だから白蘭はここにはいません」
「…骸…、お前…」
裏切り者と見なされた僕は、殺される筈だったがボンゴレが反対し、しばらく牢に入れられるだけで済んだ。
――――…
白蘭…貴方は今何処にいるのですか?
ちゃんと生きているのですか?
生きているのなら一体何をしているんです?
貴方が無事なのか不安で堪りません。
早く貴方に会いたい。
貴方の声が聞きたい。
僕はちゃんと待ってますよ、貴方が迎えに来てくれるまで。
〜きっとまた、いつか何処かで〜
―END―