骸が僕の側からいなくなるなんて、考えられない。
だって骸は僕が好きで、僕も骸が大好きだから。
ある日、骸は僕の屋敷にやって来た。
「恭弥」
「やぁ骸」
その日の骸はいつもより表情が暗かった。
「…骸?何かあったの」
「!…何故、そんな事を聞くのですか?」
「骸が…いつもより暗いからだよ」
「…そ、そうですか?」
「何があったの」
「恭弥…」
「どうしたの、骸…話してよ」
「恭弥、僕は…日本を去らなければなりません」
「…え…?」
「ですから、恭弥とは、もう…会えないんです…」
骸と、会えなくなる…?
「そんなの…嘘でしょ?」
「本当です…」
「もう…骸とは会えないの?」
「恐らく…」
「そんな…」
二度と会えなくなる…
僕と骸が?
「僕は、復讐者の所に戻らなければなりません」
「復讐者の所に…?」
「はい…」
「どうして…骸、もう解放されたんじゃなかったの…?」
そう、骸は復讐者から解放された筈だ…
ボンゴレの力で…
「今まではボンゴレが頑張ってくれていましたから、僕はなんとか復讐者から逃れていられましたが…」
「………」
「もう、無理みたいですね」
「どういう事」
「僕は元々、罪人です…たくさん人を殺してきました」
「…やだ」
「恭弥?」
「骸に会えなくなるなんて、嫌だ」
「…恭弥、僕は…」
「行かないでよ…骸…」
「…………」
「骸に、会えなく…なるなんてっ、…そんなの絶対やだっ…」
「恭弥…」
僕は泣き出してしまった恭弥を、優しく抱き締めた。
「僕も嫌です…恭弥と離れるなんて…ですが、…しょうがないんです…」
「やだ、絶対やだ!」
「…恭弥…」
「骸は僕に二度と会えなくなってもいいの?」
「それは…」
「僕はそんなの絶対にやだっ…」
「それでも、行かなくてはなりません…」
「ッ…骸のばかっ…」
バンッ!
「恭弥!」
恭弥は屋敷を飛び出した。
「ッ…僕だって、離れたくありませんっ…」
本当は、ずっと恭弥と一緒にいたいんです…
でもそれは、叶わないんです…
すみません、恭弥―
――――…
「…骸の…ばか…」
ドンッ!
僕は誰かにぶつかった。でも、目が涙でかすんで、ぶつかった相手が誰か分からなかった。
「…雲雀…?」
「…沢田…?」
「…どうかしたのか?」
「………」
「……もしかして、骸の事か?」
「…ッ…!」
「ごめんな、雲雀…9代目や…リボーンも、頑張ってくれたんだが…」
「…赤ん坊が…」
「あぁ…」
「そう…」
「骸は、不安がっていた」
「…何を?」
「雲雀を残して行く事を」
「!」
「骸も相当辛いと思うんだ…骸は雲雀の事をすごく心配していた、」
「………」
「『恭弥を独りにして、大丈夫なんでしょうか…』と言っていた」
「骸が…」
でも、骸は全然寂しそうじゃなかった。
だから僕は、骸は僕に会えなくなってもいい、って思ってるんだと思った。
「馬鹿なのは…僕だ…」
僕は、骸の所に戻った。
会えなくなるのが嫌なのは僕だけじゃないんだ…
ガラッ!
「ッ…恭弥!?」
部屋の戸を開けると、骸がいた。
骸は、泣いていた。
「骸…ごめんね…」
「恭…弥…?」
「僕は…大丈夫だからっ…」
「………」
「僕は独りでも、大丈夫だよ…」
「ッ…聞いたんですか、ボンゴレから…」
「うん」
「…本当ですか」
「……何が?」
「本当に僕がいなくて大丈夫ですか…?」
「大丈夫だよ」
「僕がいなくて…独りで泣いたりしませんか…?」
「大丈夫って言ってるでしょ…」
骸を安心させなきゃ…
ここで泣いたら、骸は安心して行けない…
「僕は独りで大丈夫」
「そう…ですか…」
その日、僕は骸に抱き締められながら、眠りについた。
朝、目が覚めたら、隣で眠っていた骸はいなくなっていた。
「ッ…う…ぐすっ…骸…骸っ…」
大好きだよ、骸。
どんなに離れても、
もう二度と会えなくても、
僕の気持ちは変わらない。
骸がいなくなって数週間…
骸がいないこの部屋は、すごく静かで、広く感じた。
僕は、ふとカレンダーを見た。
4月1日…
「今日はエイプリルフールか…」
一年に一度の、『嘘をついてもいい日』。
人なんて一年中嘘をついているのに、何故こんな日があるのだろうか。
「恭さん、届け物です」
「そこに置いておいて」
「はい」
草壁が出て行った後、僕は届け物の差出人を見た。
「赤ん坊から…」
ガサッ…
―ヒバリへ―
ちゃおっす、ヒバリ。
エイプリルフールにちなんで、俺の知り合いがこんな物をつくった。
ヒバリにやるぞ。
じゃあな。
―リボーン―
「………ワイン?」
どう見てもただのワインだよ…
まぁいいか…
折角だから、戴いておくよ、赤ん坊…
僕はワインを飲み終えて、空をボーッと見ていた。
「いい天気だね…」
僕がそう呟いた次の瞬間、雨が降ってきた。
「?…晴天だったのに…」
僕は気にとめなかった。
けど、
「まぁ、たまには雨もいいか…このまま止まないでほしいな…」
そう言った瞬間、雨が止んで、太陽が再び顔をだした。
「?…おかしい…」
僕が言った瞬間、逆の事が起こる。
「………」
僕の目に綺麗な花が飾られている花瓶が映った。
「……花びらが散らない」
そう言うと、綺麗な花の花びらは全部散ってしまった。
「…どうして…………!…もしかして…」
僕は赤ん坊から貰ったワインを見た。
「これを飲んだから…?」
ガラッ…
「誰…」
ドアを開けたのは、獄寺隼人だった。
「なんなの…ノックくらいしなよ」
「おい雲雀!骸が戻って来たぜ」
「…何…言ってるの…」
「俺、この目で見たんだぜ」
「獄寺隼人、骸をどこで見たの」
僕は驚いて、嬉しくて、早く骸に会いたくて。
獄寺隼人につかみかかるようなかたちで、骸の居場所を聞いた。
「お、おい雲雀、嘘だって…」
嘘…?
骸は戻って来てないの?
「…どういう事?返答によってはかみ殺すよ…」
「きょ…今日はエイプリルフールだろ…だから…」
「そう…」
「雲雀…まだ骸の事好きなのかよ…」
「?」
「いい加減、諦めたらどうなんだよ…」
「………」
「あいつはもう戻って来ねぇ…なのに、まだ…」
「僕は骸が好きだよ、今も…これからも」
「…っ、そうかよ…」
僕がそう言うと、獄寺隼人は部屋を出て行った。
「全く…」
僕にとって、『骸が戻って来た』なんて、この世で一番残酷な嘘だよ…
どんなに待っても、
どんなに願っても、
骸には…
「二度と…会えない…」
そう思って、また涙が溢れてきた。
でも僕は…まだ、骸に会える事を願ってる。
そんな事、無意味だと分かってる…けど、
それでも、僕は―
――――…
僕は夢を見た。
骸が、帰ってくる夢。
「恭弥…戻って来ましたよ…」
そう言って骸は僕を抱き締めた。
「クフフ…夜遅いですからね…眠っているのも当然ですね…」
―再会は、目が覚めてからですね―
「ん…」
朝、目が覚めると、隣に人の温もりを感じた。
「!…む…くろ…?」
そんな筈ない、まだ夢の続きでも見てるのかな…
「…恭弥…起きたんですか…」
「………骸…」
「はい…なんでしょうか?」
「本当に…骸…なの…」
「おやおや…僕の事、忘れてしまったんですか、恭弥」
そう言って骸は笑った。
「ッ…骸…!会いたかった…」
「クフフ…僕もです…」
「でも、どうして…」
「あぁ、それはですね…アルコバレーノからの贈り物のおかげなんです」
「赤ん坊からの…?」
「はい、あれは言った事が嘘になる飲み物なんだそうです…アルコバレーノがそう言っていました」
「言った事が嘘になる…」
『骸には…二度と会えない…』
「!…あの時…」
「また恭弥に会えるなんて…もう二度と会えなくなると思っていたのですが…」
ギュッ!
「骸…会いたかったよ…」
「また、恭弥に触れる事ができるなんて…」
骸は僕を力強く抱き締めた。
「骸…大好きだよ…だから、もう二度と離れないで…」
「はい、ずっと恭弥と共にいます」
「約束だよ」
「はい…クフフ、アルコバレーノに感謝、ですね」
「そうだね」
ずっと僕の側にいてよね、約束だよ…
破ったら、かみ殺すからね?
〜END〜