まだ声になる途中

『は?何でこんな所で3人共寝てるの?』

今日は土曜日。
朝から夕方まで練習がある。
昼休憩の後、黒田、葦木場、真波の3人が戻ってこないと泉田から言われて探しに来た私。
真波は常習犯だから仕方ない。
1人どこかで寝ているんだろうと思っていた。
しかし葦木場、黒田が戻ってこないとはどういうことだろう!?
天然の葦木場だけなら真波と一緒に寝てる可能性があるけど、しっかり者の黒田もとなるとなんか嫌な予感がする。
何か事故でもあったのかと心配になって私は走り回って探した。
なのに、なのにっ!
3人で仲良くお昼寝をしていた。
その姿を見た私は、肩を落として項垂れた。
めっちゃ心配したのに!
すんごい走り回ったのに!
左から黒田、真波、葦木場と並んで寝ている黒田の左側に力が抜けたように腰を落とした。

『何で黒田まで寝てるのさ』

何事もなく無事に発見出来た安心感と、人の心配をよそにお昼寝なんてというイライラが入り混じった複雑な思いで黒田を見る。
嗚呼、くっそー...気持ち良さそうに寝やがって!
イケメンは寝顔もイケメンなのね!
イケメンなんだから当たり前でしょ!?
そう自分の脳内ツッコミに呆れながらも、黒田の顔を眺める。
眩しい太陽の光を浴びて黒田の銀髪がキラキラと光る。
そして心地良く優しい風に吹かれて黒田の銀髪がサラサラと靡く。
その姿に目を奪われてしまう。
このまま時間が止まってしまえば良いのに。
早くみんなの所に戻らないといけないのに、そう思ってしまう程に私は黒田に惚れていた。
好きだな...そう思わず声に出して言ってしまいそうになる口を閉じて、ゆっくり黒田の唇に自分の唇を重ねた。

『はっ!?』

は?ハァッ!?何やってるの自分!?
曲げていた腰を一瞬で真っ直ぐに伸ばす。
自分のしたことが信じられなくて血の気が引くのがわかった。
恐る恐る黒田を見ると、黒田がゆっくり目を開けた。
それから空や私や真波、葦木場を見ながら数回瞬きをする黒田。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ...
絶対私がキスしたから起きたよね!?

「ヤベェ...寝てた」

黒田は腕で目を隠しながらそう言うと、素早く身体を起こした。

「拓斗、真波ィ!起きろ!時間過ぎてるぞ!」

葦木場、真波に声を掛けて2人を起こすと、こっちを振り向く黒田。
ヤバイ!ヤバイ...!と身体が硬直する。
なのに黒田は何事もなかったかのようにこう言った。

「苗字、探してくれてサンキューな」

そして3人は練習に戻って行った。
あれ...?バレてない...?えっ、バレてないの?
首を傾げながらも、私もマネージャーの仕事に戻った。


結局何も言われないまま土曜日の練習が終わった。
次の日の朝だって「苗字、はよ」と普通に挨拶されただけだった。
バレなかったのでは?と思う気持ちが大きくなっていく。
そして昼休憩に入った。
昨日の今日だからと、私は真波と一緒に行動することにした。
泉田に少し怒られたみたいだし、黒田、葦木場はもう昨日の様なことにはならないだろう。
真波も怒られていたけど、真波は今日もやらかしそうだと思った。
案の定、昨日の場所で欠伸をしながら転がる真波。

「苗字さんもどうですか?」

『えっ...』

寝るか!って思ったけど、ご飯を食べて膨れたお腹に、昨日のことを考えて眠れなかった身体が転がれよと脳に話しかける。

『じゃあちょっとだけ...』



ちょっとだけなんて言って転がるんじゃなかった。
まんまと寝てしまった私は現在の時間を確かめるのが恐くてまだ目を開けられないでいる。
そんな時だった。
私の唇に何かが触れたのは。
一瞬だった...けど、確かに何かが触れた。
びっくりして目を開けると、近くに黒田の顔があった。

『えっ...?』

私が目を開けると、黒田も目を大きくした。

「昨日の、仕返しだ。バーカ」

頬を赤く染めながら、鼻をこする黒田。
待って、昨日の≠チて...!?

『え、ちょっ!?えぇっ!?』

バレてたってこと!?
聞きたいことが山ほどあったのに、それを口にする前にニヤリと笑った黒田が私の唇を塞いだから、その言葉はまだ声にはならなかった。

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