天国にも雨は降るか

ATTENTION
未来捏造描写が含まれます
ご了承の上、閲覧下さい。



雨が嫌い。 この鬱陶しい湿気のせいで髪がまとまらないから。それにもっと重要なことは、頭痛持ちの私にとって雨の日は頭痛に悩まされる日だから。特に大雨の日は、雨の音が頭に響いて痛みが増す気がする。だから雨の日は嫌い。


雨の日がちょっと好きになった。なぜなら彼の部活で頑張る姿を見ることができるから。同じクラスで、自転車競技部の黒田雪成くん。雨の日は外周の練習に出ず、他の部員と一緒に部室でひたすらローラーを回す、黒田くん。東堂先輩のファンだという友人にくっついて、何度も練習を見に行った。必死にペダルを漕ぐ姿は、他の人と違って輝いて見える。


ある雨の日、部活の見学の帰りに黒田くんに呼び止められた。一緒にいた友人はそそくさと私を置いて去っていった。黒田くんは傘もささずに追い掛けてきてくれたらしく、ジャージが薄っすら濡れていた。これ以上濡れないように、慌てて私の傘の中に黒田くんを招き入れる。ワリィ、と短く言われた。傘の中に招き入れてから、黒田くんとの近さに気付き、ドキドキし始める。

「あのさ……名前のことが好きだ。オレと付き合って欲しい」

告白された時の彼の真剣な顔は、今でも鮮明に覚えている。いつもの堂々とした顔とはちょっと違い、頬を赤く染めて少し不安そうで、一生懸命気持ちを伝えてくれたのが伝わってきた。

『…私も黒田くんが好きです。よろしくお願いします』

私の気持ちも伝えると、ほっとしてそのあと、とても嬉しそうに喜んでくれた。

ーー雨が大好きになった。自分でも単純だと思うけど、雨の日に黒田くんに告白されて、付き合うことができたから。
でもやっぱり頭痛は治らない。





ある日の放課後。教室で部活に向かう前のユキくんと、少しだけおしゃべりする。

『ユキくん、今日も部活頑張ってね』
「あぁ、サンキュ。なかなか名前との時間取れなくてごめんな」
『ううん。部活頑張ってるユキくんも好きだから大丈夫』

ユキくんが優しく頭を撫でてくれる。

「部活終わったら、メールする」
『うん。楽しみに待ってる!』

じゃっ、とユキくんの手が頭から離れ、迎えに来た泉田くんたちと教室から出て行く。
いつもは私も部室までついて行くけど、今日は部の用事で先生の所に寄ってから行くらしく、教室での見送り。

ーー早く部活後にならないかな。携帯につけた、ユキくんからもらった黒猫のストラップをつつく。窓の外は今日も雨が降る。
土砂降りの中、傘をさし、帰路につく。家に着くまでまだ距離があるのに、すでに足元は靴の中までびしょ濡れ。点滅する歩行者用の信号を駆け足で渡る。途中、ズキリと頭が痛んで思わず足を止めてしまった。次の瞬間、スピードを出して左折してきた車が私に向かって来るのが見えた。ドンっと鈍い音と共に車とぶつかって、飛ばされる私。落ちる前に、あ、私飛んでるって一瞬思った。地面に叩きつけられて、周りにいた人が何か叫んでるのが聞こえた気がするが、目の前の地面を雨が打ち付けるのを見たのを最後に意識が途切れる。





ザーザーと雨音がする。雨は降っているけど、なぜか身体は濡れていない。
気付いたら知らない所にいた。離れた所に一人、人が立っているのが見えた。

『…ユキくん?ユキくん!!』

その人がユキくんだと気付き、近付いていく。ユキくんが私の方を向き、静かに一言発する。

「…名前…。こっちには来るな」
『なんで?ーーっ!』

今まで霞がかって見えなかったが、二人の間には深くて、一目で渡れなさそうだとわかる川が流れていた。
足に水が触れる感覚がして、慌てて数歩下がる。

「雨が降ってるから、無理矢理にでもこっちには渡れねぇよ」
『…ここはどこ?』
「強いていうなら所謂、天国」
『天国でも雨が降んだね。ユキくんと会えたのは雨のおかげかな?』
「…さぁな」

いつもよりぶっきらぼうで、どこか冷たい気がするユキくん。

「いつまでもここにいねぇで、早く帰らねーと。ほら、心配してるヤツがいんぞ」

指差された後ろを見ると、見知らぬベッドに寝ている私と、横で私の手を握るユキくんの姿が映画のスクリーンに映し出されたように見えた。ーーー戻らなきゃ。本能的にそう思って、映像の方へ走り出す。

いつの間にか雨は止んでいた。
一度振り返ると、戻るように言ってくれたユキくんの横に、先ほどまではいなかった、私によく似た女の子がいた。
けれど二人の姿はだんだんと透明に見えなくなってきている。

「またね、名前おばあちゃん。雪成おじいちゃんと長生きしてね」

そう言って手を振る女の子。
え、あの子は…あの子達はもしかしてーーー


***


答えが出かかったところで意識が戻り、ゆっくりとまぶたをあげる。
何か夢を見ていた気がするけど、ハッキリとは思い出せない。
見たことない天井に微かに薬品の匂いがする。病室にいるんだと気付いて、自分が車に跳ねられたことを思い出した。

「名前、意識戻ったのか?!」
『……あれ?ユキくん、天国にいるんじゃ?』
「勝手にオレを殺すな!っそれに死にそうになってたのはお前の方だろっ!……マジでもう一生名前と会えなくなるのかと思って……っ!」
『ユキくん、もしかして泣いてくれてるの?』
「っうるせぇ!心配したんだかんな!お前、1週間も意識戻らなかったんだぞっ!」

ずずっ、と音を立てて鼻水をすするユキくん。
私がゆっくりとベッドから起き上がると、良かった、と言ってユキくんが強くて抱きしめてくれる。

『ありがとう。心配させてごめんね……でもね、意識がない間、夢でユキくんに会えてた気がする』
「夢なんかじゃなくて、現実にオレがいんだろ!気合いで、もっと早く意識戻せよ!ほんと、良かった…」
『そうだね。ありがとう…』
「いけねっ!名前の親御さんたち、呼んでくる!…大人しくしとけよ?」

お母さんたちを呼びに、ユキくんが部屋を飛び出していく。

窓の外は雨だけど、もう頭痛はしかなった。



***


「おばあちゃん、あんたのこと雪成おじいちゃんだと思い込んでたね!」
「はぁ…生き写しってくらい、そっくりなんだからしょうがねーだろ。お前だって、ばーちゃんそっくりだから人の事言えねーだろ…」
「そうだけどさ…」

目覚めた名前を抱きしめる雪成の姿を遠くから見守る二人。

「二人ともこの頃から仲良さそうで安心した。ーー未来で会おうね、おばあちゃん、おじいちゃん」

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