ひとつだけ、ほしかった

プラネタリウムに置いてあった案内のチラシに、"50年に一度の天体ショー!星降る夜〜あなたは誰と観る〜"とあったのを見つけた。
特に綺麗に観れるという絶景スポットが、電車でもがんばれば行ける距離にあるとあらば、行くしかない!あ、でも方向音痴な私一人で行けるかな……チラシの隅々まで、熟読していると隣にいるユキくんに声をかけられた。

「行きたいんだろ?名前一人じゃ、辿り着けるか怪しいから、ついて行ってやるよ」
「え、でも…いいの?」

今日もだけど、彼女さんはいいのかな?幼馴染みってだけで、せっかくのユキくんの休みの今日も、プラネタリウムに付き合わせてしまった。

「オレが行くって言ってんだから、問題ないだろ?素直に頷いとけよ」
「うん…ありがとう、ユキくん」

星に興味があるのは私だ。だけど、一人で行くのが寂しいので、ユキくんを誘うといつも二つ返事で、私に付き合ってくれる。
幼馴染みとして、成長した今でもこうやって私と関わってくれる。付き合わせて申し訳ないと思う反面、付き合ってもらえてすごく嬉しい。

プラネタリウムに付き合ってくれたお礼に、帰りに私がカフェでご飯をおごるのがいつもの流れだ。ーーといっても、私がお金を出したのは一度きりで、それ以降は、いつもユキくんが払ってくれてしまう。付き合わせた上に、払ってもらって本当に申し訳ない。
優しいユキくんは、オレが店選んでるんだから気にしなくていい、と言ってくれる。
今日もユキくんが見つけたオシャレなカフェに寄り、流星群の日の予定を決めた。





星降る夜の当日、朝からあいにくの雨模様。バケツをひっくり返したような雨だった。だけど、夕方には雨があがって晴れるという天気予報を信じて、雨の中、星を観る場所へと向かう。
雨は上がったものの、夕方まで続いた土砂降りの雨のせいで、今のところ、私たちの他にこの展望台に観に来ている人はいないようだ。

雨上がりの澄んだ空気の中、虫の声だけが辺りにこだまする。
更に上にある、メインの展望台へと階段を登る途中でも、辺りが暗くなってきたため、チラホラ流れ星が観えた。
頂上に着く頃には、雲ひとつない星空が広がっていた。ーー天気予報が当たって良かった。

「わぁ!すごい、綺麗に星が観れるね!夕方までの雨が嘘みたい!」
「だな。あ、また流れた!」

二人、想い想いに星を眺める。

「流れ星に願い事するとかいうけど、エゲツないくらい早いスピードで流れるよな。願い事3回なんてとてもじゃねぇけど、無理だろ。これじゃぁ、叶わねぇわけだ」
「ふふ。ユキくんでも迷信、信じてるんだね」
「…ワリィかよ。これで叶ったら儲けもんだろ?」

ちょっとふて気味にユキくんが言う。ユキくんは普段クールぶってそうだけど、たまにこういう純粋なところがある。そこも好きだなと思う。

「ユキくんは何をお願いしたの?」
「…名前には教えねぇよ」

でも意地悪なところはちょっと苦手。

「せっかくだから、名前も願い事してみろよ?これだけ流れ星があるんだから、上手くいけば一個くらいは叶えてくれる星があるかもしれねぇぞ?」
「そうだったら素敵だね!あ、でもお願いすることないかも…」
「なんだよ。無欲なヤツだな。よく考えてみろよ。ーーーほら、なんかあんだろ?」

ユキくんと二人、今ここにいられるだけで、幸せ過ぎて何も思いつかないよ。そう思いながらも考えを巡らせる。

「あ!あのね、ひとつだけ欲しいものがあるかも…」
「お、なんだよ?言ってみろよ」
「や、でも…ものというか…」
「煮え切らねぇな。言うだけならタダだろ?」

言うだけならと、思いついた、私の一番の願い事をポツリ言う。

「……これからもユキくんの側にいたい。…ユキくんの心が欲しい」

ユキくんの顔を見つめながら、言い切ってしまってから、自分がすごい事を言ったことに気付き、慌てる。

「…!?あぁぁ!待って!やっぱり今のなし!聞かなかったことにして!」
「ようやくちゃんと名前の気持ち聞けたのに、なかったことにしようとするなよ」
「えぇ!でも私めちゃくちゃ恥ずかしいこと言っちゃったよ!それにユキくんには彼女さんがいるのに、私……私……」
「まぁ、落ち着けって。彼女なんてとっくの昔に別れて以来、ずっといねぇよ。ーー欲しいのはオレの心だけでいいのかよ?」
「え?どういう意味…?」

私の質問に答えることなく、また流れた、と言って流れ星が消える直前に、ユキくんが本当に流れ星をキャッチしたような動きをした。

「ほら、流れ星」

覗き込んだユキくんの手の中には、星のようにキラリと光る宝石がひとつ付いた、シンプルなデザインの指輪が。

「光って名前の好きな星みたいだろ?」
「これって…」

ユキくんが深呼吸をしてから真剣な顔をして、指輪のリングの部分を指で掴み、私の方へ差し出す。

「名前さんのことを愛しています。オレと結婚してくれませんか?ずっとオレの側にいてください」
「はい……え、あ、これ、本当に私がもらっていいものなの?」

勢いで思わず「はい」と言ってしまったけど、まだ信じられない。

「…そのつもりで買ったんだから、受け取って貰わないと困る」
「信じられない…嬉しい…私もユキくんの事を愛しているよ」
「知ってる。指輪はめるから手、出せよ」
「う、うん」

左手をそっと差し出すと、ユキくんがぎこちなく薬指に指輪をはめてくれる。
感極まって、涙越しに指輪が指にはまるのが見えた。

「すごい…サイズぴったり…それにキレイ」
「流れ星の願い事、叶っただろ?」
「うん。願い事以上のものが叶っちゃった…」

ユキくんが優しく抱きしめてくれる。

「50年に一度の流星群。50年後も一緒に観ような」



ーーープロポーズが成功して、名前とずっと一緒にいられますように。

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