みえっぱりといじっぱりの百日戦争

「なぁ、お前ら本当に付き合ってねーの?」

「付き合ってないから!」
「付き合ってねーよ!」

飽きもせず繰り返し投げつけられる質問に、今日も同じく私とユキの声が重なった。ほら息ぴったりじゃんとか、もういっそ付き合えよとか、続けて発せられるそれももう耳にタコである。そもそも何を以ってして私達が付き合っているという結論に至るのか。ただ並んで話をしているだけだっていうのに、君たちの目は節穴なのか。私とユキの間にラブラブ光線が見えるとでも言うのなら、眼科が脳神経外科に行ったほうがいいよ。目か脳か、多分どっちかが腐ってる。

「ねぇユキ、もういっそさぁ」
「あ?」
「彼女でも作ってよ。そしたら誤解されることもなくなるんじゃない?」

棒つきキャンディを頬袋に入れたまま、私はユキにそう言った。チェリー味のそれを口の中でコロンと転がすと、棒の先が上下に揺れる。挑発してるようにも見えるその動きを目で追っていたユキは、怪訝にそうに眉を顰めた。

「こないだもほら、ユキ一年の子に告白されてたじゃん。何で振ったの?可愛かったのに、あの子」
「お前は知らねーヤツに告られて、そいつの顔が良きゃ付き合うのかよ?」
「うーん...どの程度かにもよるけど...はい付き合います!って即答は出来ないかなぁ」
「だろ?つまりはそゆことだよ」
「なるほど...」

そんなものもお構い無しに話を続ける私にユキははぁ、と一つ溜息を吐くと、動く棒を掴まえてぐいぐいと私の口内に押し込んでくる。伸びた頬が絵に描いたおたふく風邪みたいになって、さっきまでのしかめっ面が嘘のように、ユキは笑いながら私にひでー顔だな、なんて言う。
地味に痛いし、ユキが私を変顔にしておきながら失礼だし、棒先を持つユキの手を叩き落として眼前の銀色を睨み付けたけど、残念ながらそれが笑いのツボに入ってしまったらしいユキに効果はなかった。

「ねぇじゃあ私が彼氏作るってのは?」
「は?」

すぽんっ、と口からまだ大きな丸のままの飴玉を取り出して、それをマイクに見立ててユキの方へ向けてみる。肩が震えるほど笑ってたユキの動きが止まって、薄墨の瞳が2つ、私を見据えた。

「私ってほら、中々イケてるし、彼氏欲しいとか言ってれば出来そうじゃない?」
「お前それ...自分で言ってて恥ずかしくねーのかよ...」
「事実だもん」
「ま、いんじゃねーの?じゃあ作ってみろよ出来んなら」

今度は手にした棒をマジカルスティックに見立てて魔法少女さながらくるくる回して宙に円を描いてみる。ついでにウインクも決めてみれば、ユキは呆れた顔して私から視線を逸らした。
なぁんか今日のユキってばノリが悪い。いつもなら魔法少女のつもりか!とか言って小突いてくるところなのに、調子狂うな。

「...ユキは、私に彼氏出来ても平気なの?」

ピンクの球体をまた頬張ると、甘酸っぱいフレーバーが口の中に広がっていく。何も言わない上にこっちを見ようともしないユキを見つめながらコロコロ、コロコロ、飴玉が一回り小さくなったところでチェリーの香りがする吐息と一緒に言葉が漏れた。
あれ、何で私こんなこと言っちゃったんだろ?自分でも驚いてるけど目の前のユキはもっと驚いているようで、半目だったユキの目が大きく開いて私を捉えた。

「...お前は?」
「え、」
「名前はオレに彼女出来ても平気なのかよ?」
「わ、たしは...ユキに彼女出来たら...」

ユキの瞳の中に囚われて、ユキから目が離せなくなる。
ユキに彼女が出来たら?
ユキの隣にあの可愛い一年の子が立ってたら...
ぱっと浮かんだ脳内映像に、胸の中がざわついた。
な、んか、やだ。何で嫌なのか分かんないけど、とにかく嫌だって私の中の私が叫んでる。自分でユキに彼女作れば?って言ったくせに、いざそうなったら嫌だなんておかしな話、こんなの口に出来っこないよ。

「ってまだユキの答え聞いてない!ユキが先に答えてよ」
「お前が答えたら答えてやるよ」
「何それ、私が先に聞いたんだからユキが先にっ...!?」

どちらが先に言うかみたいな無駄な言い合いをしていると、ユキが私の尖った唇から棒切れを引っこ抜いた。その反動で一瞬動きを止めた私の口にピンクのキャンディが添えられる。まるで黙れって言われてるみたいで、私は言葉を発するのをやめた。
それから数秒の沈黙の後、ユキが小さく呟いた。

「つーか流れで察しろバカ、わかれよそんくらい...」

唇に触れる飴玉みたいに、ユキの顔がほんのりピンクに染まる。それにつられるように私の頬も。

「...じゃあユキも流れで察してよ、わかるでしょそれくらい」

お互い頬を染め合ったまま、その場はまた沈黙に包まれる。決して確信を得られる言葉は言わないまま、ただ側に居るだけなんて、まるでこれは恋の百日戦争だなって思う私こそ、病院にかかるべきなのかもしれない。

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