回数制限のやさしさ

同じ大学、同じ学科の苗字 名前はとても男運の悪い女だ。
付き合う男はダメ男ばかり。しかも名前本人が相手をダメ男と気付く頃には、手遅れなことがほとんどだ。



オレと名前は選択している講義もカブることが多く、入学当初から自然と仲良くなった。

名前の前の前の彼氏は近くの大学の学生。友人に誘われて体験した、夜のバイトにハマってしまい、いつの間にか名前も貢ぐ側になりかけていた。幸いにも貸した金額も大した額まではいかなかった。だが、高校の卒業間近から付き合った、人生初の彼氏だったらしく、なかなかダメ男だと認めたくなかったようだ。…まぁ、確かに、元がメガネの真面目くんだったら、そんな冒険するとは思わないよなぁ。

オレも名前本人から話を聞いていたし、写真で見せてもらった、その彼氏のメガネくんのいきなりの豹変ぶりにも疑問をもち、付き合うのを止めたうちの1人だ。
その彼氏に金を貸したと聞いて、いよいよヤバくなってきた。名前のために名前を説得して彼氏を呼び出させて、別れさせた。

誰にも話していないが、入学当初から 名前のことが気になっていたオレとしても、別れてくれて正直、良かったと思っている。
ズルいとは思うが、優しく慰めると同時に、傷心したところに付け込もうと考えている。



名前のヤケ酒に付き合うために、駅近くの居酒屋に2人、入った。

『ユキくんは、あんな真面目な彼がホストなんかになると思う?!普通、思わないよね!でも髪だってちょっと金に近い茶色にしただけだし、コンタクトにしたのだって、イメチェンの範囲だよね?』
「まぁ、それが大学入る直前なら、大学デビューかと思うけどな。でも、ソイツの場合、ある日突然だろ?しかもそれに伴って金遣いも荒くなった」

最初から芋焼酎のロックをハイペースで飲んでいる名前。程よく、酒も回っているらしい。

『そう!びっくりしたよ!彼女の私が一瞬、誰かわからなかったもん!急にハイブランドの品を持ちたがったし…でも性格も明るくなったからいいかと思ったのに…』

名前がぐすっと涙ぐんで、いよいよ泣き出すかと思った。頭を数回、ポンポンと撫でてやる。

「名前…」
『彼女をカモにしようとするなー!!バカヤロー!早く貸したお金返せー!……はぁ。私人を見る目、ないのかな…。
ーーユキくんみたいな人が彼氏だったら、こんな思いしないで済んだのかなぁ?』

そう言って、酒が入って火照った熱っぽい視線をオレに向ける。そんな顔でそんなこと言われたら、すぐにでも気持ちを伝えちまいたくなるだろ!

「名前、オレ、お前の事が
『あぁ!!男なんて信じない!もうしばらくは彼氏なんていらない!!』
……」

酒の力もあって、名前に気持ちを伝えそうになったオレの言葉に、名前が食い気味で遮り叫びながら、机に突っ伏した。しばらく様子を伺っていると、スースーと寝息が聞こえる。

「っ、この酔っ払いが!期待させといて、落として、しかも寝落ちしてんじゃねーよ!……クソっ、こんな無防備だとこのままお持ち帰りして、いただいちまうぞ!」

そう言うも、名前のことを考えるとそんなことできるわけがない。なんか悔しいから、寝ているのをいいことに、柔らかそうなほっぺをつつく。あ、柔らかいな。
まだ終電まではだいぶ時間がある。案内された席も半個室だから、人目もほとんど気にならない。……しばらく寝かせてやるか。上着を名前の肩にかけてやる。
名前の寝顔を見ながら、1人ちびちびと酒を飲んだ。


***


「あ、黒田くんも聞いた?名前に新しい彼氏ができたんだって」
「は?」

講義が終わってすぐ、話の流れで伝えられた。
確か元彼と別れてから1ヶ月。しばらくは彼氏もいらないと言っていたはずなのに、それが本当ならば衝撃の事実だ。

「相手は?この大学のヤツか?それとも他の大学か?」

相手の素性を知ろうと、矢継ぎ早に質問をする。
「わっ!焦りすぎっ!学生じゃないよ。社会人の人だって。……あー、名前と仲良い黒田くんなら、言ってもいいかな。数日前に電車で痴漢にあったのを助けてもらって、お礼したいっていったら、付き合ってって言われたんだって。助けてもらったから断りきれなくて、正確には"お友達から"とは言っていたけど。"ずっと見てました"って告白されたみたいよ」

「……いや、それたぶんヤバイやつだろ?!
今日、朝から名前に会ったか?オレ、今日は1限から講義別々だから、午後の講義までは会う予定ないんだ」
「え?ヤバイって何?!一限は一緒だったからいたよ。今日のお昼休みはその彼氏と初めて電車以外で会うんだって、呼び出しされてたみたいだよ」
「後で話す!ありがとうな!」

慌ててカバンを掴み、走りながら携帯画面のアドレスから名前の名前を探し、電話をかける。
最近、名前は電車の中を中心に誰かに見られる気がすると言っていた。満員電車だから、気のせいだと思ったが、視線を感じ出てから痴漢されるようにもなったとも言っていた。そしてタイミング良く、痴漢から救ったと名乗り出たヤツ。…おそらく自作自演だろう。
その上、"ずっと見てました"とかほぼストーカーじゃねーか!

友人の話によると、そのストーカーヤローは車で迎えにくると言っていたから、車が寄せれる正門の方へ急ぐ。
すると何コール目かで名前が出る。

《もしもし、ユキくん?どうしたの?》
ーー良かった。まだ無事そうだ。
「名前、今正門のあたりにいるよな?とりあえずそこから離れろ!車にはぜってー乗るなよ!!今から行くから!」
《え、なんで正門にいるってわかったの?離れろってなんで?》
「とりあえず、校舎の方へ引き返して来い!」
《名前さん、2人きりになれるところに行こうか》
「!?」

電話越しにストーカーの声が聞こえたと思ったら、切られた。2限目の講義が正門から近目の校舎で良かった。すぐに正門まで着いた。携帯を握りがら、車から降りた目の前のストーカーと向き合っている名前を見つけた。

何とか間に合った。男が自分たちの方へ向かってくる人の姿を見て焦ったのか、名前の手を引っ張り車の中に、押し込もうとする。身の危険を感じたのか名前も抵抗する。

男から名前を引き離し、名前の前に出て男に思いっきり蹴りを入れる。名前は怖かったのかオレの服の裾を掴む。わずかに震える名前を抱き寄せる。
ガタイのいいストーカーだったら、オレも敵わなかっただろうが、幸いにもヒョロいヤツだった。
蹴りの痛みに堪えながら逃げようとする男を捕まえる。名刺で会社名と名前、それから携帯から連絡先も押さえた。相手の携帯から名前の連絡先を消させることも忘れない。
警察に突き出そうと思ったが、名前がそこまではしなくてもいいと言うので、仕方がないからその通りにする。
もう金輪際、名前に近付かないと念書を書かせ、万が一破った時は、家族と警察に全部話すと伝えた。
したことに反省するそぶりがあったから、まず大丈夫だろう。



あのストーカー騒動から早数ヶ月。
名前から相談があると言われ、講義の空き時間に人の少ない大学内のカフェテリアを選んで話を聞く。

なんでも元彼がホストを辞めて、真面目に大学に復帰した。そして名前の元にお金を返しに訪ねて来たという。その時に名前とやり直したいと言われたらしい。
元彼に誠心誠意謝られて、また友達からでもいいから名前と会いたいと言われたそうだ。それでどうしたらいいかわからず、オレに相談しにきたという。

カモにもされそうになって、縁を切ることをまだ悩むことがあるのか……盛大にため息をついて、冷たい声色になったと思う。

「ハァ。名前はカモにまでされかけて、まだ元彼とより戻したいのか?たぶん、また同じようなことするぞ?」
『…よりを戻したいわけではないけど、すごく反省してるみたいだから、友達くらいには戻れるのかなと思って…』

…優しいのは名前の良いところだとは思うが、優しすぎる。

「考え方が甘い。そんなヤツとは今後一切連絡を断つべきだ」
『……そうだよね。何度もユキくんにまで迷惑かけたし、ごめんね。……そうする!もう会わない!連絡も取らない!』
「それがいい。ーーそれにダメ男に引っかかっても、オレに名前を慰めてやる優しさはもう残ってねーからな」

そう言うと、オレに突き放されたとでも思ったのか、悲しそうな顔をする名前。

『っそうだよね……いろいろと面倒な私とは、もう関わりたくないよね…本当にごめんね』

そんな顔をさせたい訳ではなくて……ハッキリ言わねーと伝わらないか。

「そうじゃなくて……
目の前にイイ男がいんだろ?またその辺のダメ男に引っかかる前に、オレを選べよ。
ほら、ホストにもならねーし、ストーカーにもなる予定はねー。それにオレと付き合うんだか、慰めなきゃいけないことには、ならないだろ?」
『え、でもユキくんにこれ以上迷惑かけれないよ!』
「名前と一緒にいるのは、迷惑なんかじゃねーよ。今はオレのこと、友達としか思ってないかもしれねーけど、必ずオレで良かったって思わせてやるから!」
『…ユキくんは私でいいの?』
「オレは名前がいいんだよ!」

名前の表情を見ていると、どうやらいい返事がもらえそうだ。
ーーだけど、名前が断れないだろうという事を見越して、気持ちを伝えるオレもある意味ダメ男の一人なのかもな。

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