始まりません終わるまでは

『雪成、聞いて!私ね、彼氏ができたの!』

オレのところに嬉しそうに近付いて来たかと思ったら、自分の耳を疑うような事を言う名前。

「……誰だ?オレの知ってるヤツか?」

オレの顔は険しい顔になっていると思うが、浮かれている名前は気付いていない。

『ううん。バイト先の先輩!一緒に働いていて仲良くなったの』

オレの知らない男の顔を思い浮かべ、嬉しそうに言う名前。
……一体どこで間違えた?



ーーーオレと名前は幼稚園の頃からの幼馴染みだ。ぼけっとしてトロい所のある名前の面倒を見ているうちに、コイツにはオレが側にいて守ってやらなければと、庇護欲が生まれた。
幼稚園では名前をバカにしたヤツを懲らしめた。幼いばかりに、少しやりすぎてしまったらしく、バカにしたヤツより、オレの方が先生と両親に怒られた。
小学校では名前がイジメられそうになったが、名前に突っかかってきたリーダー格の女子をオレが泣かせた。もちろん、女子相手に手はあげていない。その女子の弱みを掴んだ上で、徹底的に理詰めで責め立てたのだ。それ以降は、名前に突っかかってくることはなかった。

中学校では、イジメの心配は無かった。ただ、小学校の時より、男女の差が顕著に現れてきた。体格もそうだし、考え方もだ。
服装も自由だった小学校の時よりも、制服によって、男女でスカートとズボンとキッチリ別れた。だが、オレたちの関係は変わらなかった。

それが高校生になって、少しずつ変化した。名前がバイトを始めた。オレもロードにのめり込み、一緒にいる時間がぐっと減った。そして今、名前に彼氏ができたという発言を聞いて、とても驚いている。小さい頃から、側にいたオレを差し置いて、どこぞの馬の骨ともわからない男に名前を掻っ攫われたのだ。
ずっと名前の側にいて、見守ってきたのはオレだ。これからも名前の一番側にいるのはオレのはず。ポッと出の男なんかに奪われてたまるか。


***


雪成とは幼馴染みで、人より鈍い私といつも一緒にいてくれた。
でもいつまでも雪成に頼ってばかりでは雪成に悪いと思うようになった。だから高校に入って、自立の一歩としてバイトを始めた。
離れて、いつも側にいてくれていた雪成のありがたさが、改めてわかる。雪成がいないバイト先では、当たり前だが、私の失敗をすぐにフォローしてくれる人はいない。
私自身の力で頑張らなければならない。
……そうしてバイトを頑張っていたら、少しずつ頑張りが認めてもらえるようになった。
その頑張りを認めてくれたうちの一人が、彼だ。どのようにたち振る舞えば、上手くいくかアドバイスをくれたり、サポートしてくれた。
優しくて頼りになる人だった。
しばらくして、そんな彼から、付き合って欲しいと言われた。正直、付き合うというのがどういうものかピンとこなかった。だけど、彼と一緒にいて居心地良かったので、お付き合いすることになった。初めての彼氏に、嬉しくて雪成にもすぐに報告した。


たが、付き合って二週間。突然、彼から一方的に別れを告げられた。何がいけなかったのだろうか。何か彼の気に触ることをしてしまったのだろうか?何を聞いても、ただ別れて欲しいとだけ言われた。訳がわからなかった。彼は私に別れを切り出した直後に、バイトも辞めてしまった。店長に辞めた理由を聞いても、家の都合としか聞いていないと言われた。

そして私は、また話を聞いてもらいたくて、雪成に会いに行く。

『あのね、雪成。彼氏できたって言ったけど……彼氏に突然、別れようって言われたの……』
「……へぇ」
『バイトも辞めちゃったみたい。私、何かしちゃったのかな?付き合ったばかりだったのに、突然終わっちゃった…』

ロードバイクをいじりながら話を聞いてくれていた、雪成の手が止まる。

「何言ってんだ。今からが始まりだろ。…せっかく別れさせたんだから」

雪成が何か言ったが、周りの人達のにぎやかな話声で、掻き消されて良く聞こえなかった。

『え?今なんて言ったの?』
「ーーなんでもない。名前は何も悪くねーよ。……心配しなくても、これからもオレが側にいてやるよ」

雪成が優しく笑うのを見て、私の傷ついた心が癒されていくのがわかった。

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