愛しのトーテムポールさま

今日は珍しく部活は休みだが、自主練をするため部室に来ていた。愛車の手入れをしていると、何やら騒がしい音が近付いて来た。音の方に目をやると、バンッ!とすごい音を出して拓斗が部室の扉を開けて入ってきた。

「ユキちゃん!大変だよ!名前ちゃんが同じクラスの佐々木くんとデートするんだって!!」
「……」

動揺しすぎて何も反応できなかった。 本当に驚いた時って何にも反応できないのな。

「…ユキちゃん、大丈夫?」

拓斗がオレの顔の前で、手をヒラヒラさせる。

「……は?なんで名前が、その高木とかいうヤツとデートすんだよ?」
「高木じゃなくて佐々木くんね。最近、名前ちゃんと仲良いいんだけど、明日の土曜日に部活終わってから、一緒にお出かけしようって!」
「……それでアイツがOK出したのか?」
「うん!名前ちゃんも楽しみだねって言っていたよ!」

悪気はないだろうが、拓斗の素直な報告が今のオレに更にダメージを与えた。
名前とは1年の時に同じクラスで、仲良くなり付き合い始めた。2年の今は隣同士のクラスに分かれてしまったが、それなりに仲良くやっているはずだ。確かに部活ばかりにかまけていて、名前にあまり時間をさけていなかった覚えはある。だからと言って他の男と出かけるのはないだろう。

……今度の土曜日の午前は全体での練習、午後はミーティングの予定だったはず。この寒い時期の今なら多少無理に休みにしても支障はないだろう。
ーーその場にいた塔一郎に予定変更の許可を得るため、話しかける。
「……塔一郎、明日は午前練のみに変更な?」
オレの有無を言わさない圧力に、塔一郎のアンディとフランクが危機を感じたのか、ビクと反応したのが見えた。

「ユ、雪成ユキ、だが、ミーティングが……」
「午前練だけだよな?」
「(ビクゥン)!わ、わかった。ミーティングは後日にしよう」
「ワリィな…」

さして悪いとは思っていないが、一応、塔一郎に詫びを入れておく。……これでオレも明日の午後の予定が空いた。


***


土曜日。晴天で絶好のデート日和!
ーーじゃねーよ!天気に恵まれたのは、尾行する身としてはありがたいが、決してデート日和なんかじゃねー!

午前練の最中、デートへ向かう支度をしているであろう名前と、佐々木がこれから落ち合うと思うと苛立ちを感じ、がむしゃらにペダルを回した。結果、自己ベスト記録を出した。
後日、塔一郎から、「この日の雪成ユキの走りには鬼気迫るものがあった」と言われた。

練習を終え、昼飯を適当に取り、名前たちの待ち合わせだと言う、駅前広場を見渡せる場所に立つ。事前に集合場所と時間は把握済みだ。場所的に駅前のショッピングモールでの買い物デートらしい。オレの横には塔一郎と拓斗もいる。オレ一人で大丈夫だと言ったが、何かあってからでは遅いからと、オレを心配して、止める役としてついてきたらしい。ーー3人いれば、佐々木とやらも余裕で抑えられる。

そのままの格好ではバレてしまう可能性があるため、多少の変装もしてきた。
オレは銀髪を隠すため、黒い中折れハットを被り、さらにサングラスを着用。塔一郎はキャップを深く被るだけで雰囲気は変わるが、服の上からでもアンディとフランクが主張しているのは隠せない。拓斗はあの高身長で何もしなくても目立つ。……ないよりはマシだと思い、伊達メガネをかけている。


名前に近付く佐々木を見つけ、いよいよデートが始まる。


***


駅前の集合場所で、佐々木くんを待つ。
待ち合わせ時間まで、少し早すぎたかと思ったが、彼も時間前行動をするタイプだったらしく、すぐに合流できた。

「ごめん!苗字ちゃん、待った?午前の部活が予定より長引いちゃって…」
『ううん。今来たところだよ。部活お疲れさま』
「良かった!じゃぁ、早速あっちのお店から回ろうか?」
『うん!そうしよう!』





カップルとまではいかないが、いい雰囲気で歩いている二人。メンズの雑貨を見つけては佐々木に帽子を被せてみたり、女物のアクセを見つけては名前にどれがいいか意見を求めているようで、なんだかとても楽しそうだ。

オレたちはと言えば、ギリギリ店の中が伺える柱の影から名前たちを見張っている。もっとも、オレが気が気でない中、塔一郎と拓斗は呑気に会話している。
「あの雑貨屋さんにある、猫のぬいぐるみ、かわいいね」
「ちょっと可愛すぎないか?それより、さっき前を通ったスポーツ用品店は品揃えがいいんだ。後で筋トレグッズを見に行こう」

「チッ。流石にここまでは会話は聞こえてこないな」

「「……」」

オレは気付いていなかったが、この時、塔一郎と拓斗がオレの事を不憫な目で見ていたという。





佐々木くんに帽子を被せて、本人にその姿を鏡に見せようと、棚の上の鏡の角度を変える。その時、たまたま遠くの柱に半分隠れる怪しい人達が映った。……トーテムポール?そう見えるのは3人が縦に並んで柱から顔を覗かせていたからだ。不審者は、あまり見てはいけないと思うが、風貌がどこかで見覚えがある気がした。佐々木くんは怪しい人達に気付いていないので、私もそのまま見て見ぬフリをして買い物に集中することにした。


買い物は楽しかった。男の子の佐々木くんの意見も聞けて、すごく参考になった。帽子やマフラーなど、見るだけでなく着用感もしっかりわかって良かった。佐々木くんも、遠距離恋愛中の彼女へのプレゼントに悩んでいたが、女子の私の意見も聞いて彼女へピッタリのものが見つかったと喜んでくれた。
夕方、佐々木くんと買い物も終えて、コーヒーチェーンで休憩した後、駅の前で別れた。
ホットのカフェオレを飲みながら、彼女の自慢を散々聞かされた。遠距離で会える機会は少ないはずなのに、仲が良さそうで羨ましい。近くにいるのにあまり一緒にいられない、私たちのことを考えて寂しくなった。ユキくん、今頃部活頑張っているんだろうな。
自分も帰ろうと歩き出すと、進行方向に見たことのある姿が……あ、さっきのトーテムポールの人達だ!

近くで見ると、一人はメガネをした葦木場くんだ。横に目を向けると、筋肉ムキムキで帽子を被っているのは、泉田くん。ーーということは、ハットとサングラスの人は……

『…ユキくん?』

そう声に出す頃には、サングラスを外して、近付いてきたユキくんが目の前にいた。無言で抱きしめられる。

「……何もなくて良かった」
『何もって……あ、もしかしてその変装で、初めから私たちの後つけていたの?』
「……」
『怪しい人達がいるとは思ったけど、まさかユキくん達だったとは……』

でもなんで跡をつけるようなことしたんだろう、と疑問に思っていると、ユキくんがゆっくりと話し始めた。

「……なかなか、かまってやれなくて悪いと思ってる。だからって他の男とデートなんかするなよ」
『…デート?ただのお買い物だよ?彼女さんへのプレゼント選びのお手伝いしたんだけど』
「は?でも拓斗はデートだって……」

二人して拓斗の方を見る。

「え?オレ?……だって、男女二人で出かけるんならデートでしょ?」
「確かにそうだけど……初めに紛らわしい言い方すんなよ…」

ユキくんが抱きしめたまま脱力して、私の肩におでこを乗せた。

「じゃぁ、名前が買っていた男物のプレゼントは?」
『!?そんなところまで、しっかり見ていたんだね……アレはユキくんへの誕生日プレゼント。せっかく内緒にしていたのに…』

「結局、苗字さんとの誤解も解けて一件落着したようだな」

やましいことはないにしろ、泉田くんと葦木場くんも巻き込んで悪いことをしたなぁ。

『二人とも巻き込ませちゃったみたいで、ゴメンね』
「ううん。面白いユキちゃんも見られたから大丈夫だよ〜」
『え、何?葦木場くん、その話、詳しく教えて!ーキャッ!』

言い終わる直前に、自分の足が地面から浮き上がった。お姫様抱っこならまだしも、まさかの荷物を運ぶようなお米様抱っこをされた。

『ちょっ!ユキくん、降ろして!スカートの中、見える!!』
「ヤダ。押さえてるから平気だ。
何もなかったけど、オレ以外の男と出かけるような悪い彼女には、お仕置きが必要だよな?最近一緒にいられなかった分、今からたっぷりかまってやるよ」

ユキくんは、そのまま泉田くんと葦木場くんに短く別れの挨拶をして、その場を去ろうとしている。歩き出して、私だけに聞こえる声量で、

「誕生日プレゼント、フライングで名前が欲しいな。もちろん、くれるだろ?」

ーと言ってきた。そんな風に囁かれたら、大人しくするしかないよね。

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