あるようでないような

『届け屋 黒猫』
同じクラスの彼、黒田雪成くんの異名らしい。
部活にも入っておらず、いろいろと情報に疎い私は、最近になってやっと、彼のこのあだ名を知った。

よし!ちゃんと届け屋として働いているのか、自分の目で確かめてみよう、と一人決心した。

Mission 1 : 消しゴムを届けてくれるか!
彼が席を立った隙に、隣の彼の机の上に私の名前の書いた消しゴムを置く。
戻ってきた黒田くんが、消しゴムに気付き、名前を見つけ、私の方を向く。
「名前、オレの机の上にあったぞ」
そう言って消しゴムを私に渡す黒田くん。
……普通に渡してくれた。まぁ、届いたとしよう。

Mission 2 : ノートを届けてくれるか!
日直の私は、回収された数学のノートを職員室の先生の元へ運ばなければならない。ちらっと隣を見て、黒田くんの存在を確認する。
『黒田くん、このノートを職員室まで届けてくれない?』
「あ、ワリィ、忘れてた。オレも日直なのに、黒板消すの忘れてたから、これ持ってく。先生の机の上に持ってけば、いいんだよな?」
そう言ってノートを抱えて行ってしまった…
私が日直なら、隣の席の彼も日直だということを忘れていた。
ーー届けてもらえた。

Mission 3 : プリントを届けてくれるか!
朝、別件で職員室へ行ったら、委員会の先生に捕まった。昨日の委員会でのプリントを渡し忘れたので、隣のクラスの委員にも渡すように言われた。要するにパシられた。教室に戻ると、朝練を終えてきただろう彼がいた。早速、頼もう。
『黒田くん、隣のクラスの体育委員の……泉なんとかくん!その人にプリント届けてもらってもいい?』
「泉なんとかってーーあぁ、もしかして塔一郎か?それを言うなら、泉田な。カバン置いたら、ちょうど塔一郎んとこ、行こうと思っていたから、いいぜ。」
『オネガイシマス』
お届け先が、まさかの知り合いだったとは…無事に届けてもらえそうだ。

Mission 4 : ファンレターを届けてくれるか!
決して私が書いたものではない。偶然廊下で拾ってしまったのだ。宛名には「東堂先輩」、裏面の差出人のことろには、「あなたのファンです」と記された封筒。なんてわかりやすいファンレター!
これは届け屋の本領発揮なるか!?

『黒田くん、これ届けてくれる?』
「ん?……ラブレターなら直接渡した方が、いいんじゃねーか?」
なぜか、ちょっとムッとした顔で黒田くんが言う。
『落し物ですぅ!それにラブレターじゃなくて、ファンレター!!』
そう言って差出人のところを見せる。
「あ、ほんとだ。……東堂さんには部活の時に渡しとく」
ぶっきらぼうに言われて、手紙を受け取ってくれた。あ、東堂先輩って人、黒田くんと同じ部活なんだ。……届けてくれるみたいだ。


その後も機会を見つけては、黒田くんに届けるのを頼んでいると、ついに黒田くんから疑問の声が上がった。

「なぁ、なんで、最近よくオレに物を運ばせようとすんだよ?」
『あ、気付いていたんだ。運ばせていたんじゃないよ。届けてもらっていたんだよ?』
「は?一緒じゃねー?」
『届け屋 黒猫。お届け屋さんやってるんでしょ?』
「……」

そう言うと、マジかコイツって感じのすごい顔で見られた。え、違うの?

「あのなぁ、届け屋 黒猫ってのは、ロード乗ってる時のあだ名だよ……それに、校内限定の届け屋って、どんな仕事だよ!どの層にニーズがあるんだよ!」

マジか!今度は私が驚く番みたいだ。

『なんだ、いつもきっちり届けてくれるから、噂通りだと思ったのに。届け屋の需要、あると思うよ〜?』
「ねーよ!!オレが、届けたのはお前が頼んだからでっ!……好きなヤツから頼まれたことだから、断るわけねーだろ……」

ん?さらっと好きなヤツって言われた?黒田くん、私がのこと好きなの?趣味悪ぅー。
よく見ると黒田くんが、顔真っ赤にして照れている。かわいーなぁー。
「……趣味悪い覚えはないし……別に可愛くねーよ……」
おっと、声に出ていたらしい。拗ねてるところもかわいい。猫みたいに、頭をわしゃわしゃ撫で回したい気分になる。あ、だから黒猫?でも黒田くんに黒い要素ないよね?銀髪だし。ーー黒猫の黒は、黒田の黒か!
一人頭の中で、自己完結してスッキリさせていたら、黒田くんが再び口を開く。
「……名前は、オレのこと、どう思ってんの?」
『はへ?黒田くんのこと?普通に好きだよ?』
「普通に好き……てことは、チャンスはありそうだな」

いつのまにか、さっきまでの彼とは打って変わって、悪い笑みを浮かべている。

「オレがお前のいう届け屋なら、今まで代金未払いで、さんざん届けさせてるよな?ーーまとめて配達料、もらう権利はあるよな?」
『え?今、そんなにお金持ってないよ!?』
「ちっげーよ!ムードねぇなぁ!拓斗といい、お前といい、オレは天然ホイホイかっ!」
『ごき○りホイホイみたいに言わないでよ!ーーてことは、ヤダ!この場合、私がごき○り!?それに、私は天然ではないよ!』

話がどんどん、逸れていくのを黒田くんがツッコミながら戻す。
「誰がどう見ても、お前は天然だよっ!
ーでっ!配達料だけど、たくさん運んだからな〜。高くつくぞ」

一層悪い顔で、微笑む黒田くんに、思わずゴクリと喉を鳴らす。私はいったい、いくら払えばいいんだ?!

「ーーー名前が、オレの彼女になるってことで、どうだ?」
『へ?彼女?……そんなことでいいの?
彼女なら黒田くんの頭、わしゃわしゃしてもいい?お届け物もしてくれる?』
「オレはそれがいーの!
頭わしゃわしゃ?まぁ、お好きにどうぞ?やって欲しいなら、届けるのもやるけど?」

高くつく割には、私にとって好条件でしかない。
『よ、よろしくお願いします?』
私はそう言いながら、黒田くんと握手するのため、手を差し出す。黒田くんが手を取り、握り返しながら含み笑いをする。

「これからよろしく、な?」

あ、なんか良くない感じがする。でもまずは、黒田くんの頭を思いっきり撫で回してやろうと決めたのだった。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -