甘くなくてもそれは罠です

大学に進学して、オレもやっと合法的に酒の飲める20歳を迎えた。
今日は元箱根学園自転車競技部の集まりでの飲み会がある。もともと大学の長い春休みを利用して、箱根に帰ってきた荒北さんや福富さんたちが4人で集まっていたところに、オレや塔一郎、拓斗、それに元マネージャーの名前が合流した形だ。
飲み会とは名ばかりで、前回はオレたちは未成年扱いだったので、一滴も酒を飲ませてもらえなかった。
今回の集まりでは荒北さんたちとやっと酒を飲める!

「「「カンパーイ!!」」」

全員が揃い、飲み会が始まる。
トークの切れる東堂さんが、高校時代の自分の栄光と大学での活躍を高らかに語っている。福富さん以外、みんな適度に相槌を打ちながら、近くのヤツとの話に花を咲かせる。
初めは同学年で固まって座っていたが、酒が進むにつれ、みんな席を移動する。
巻ちゃん、巻ちゃん!と叫び出したので、東堂さんの話もそろそろ聞き流しても大丈夫だろう。

ほろ酔い気分で周りを見渡してみる。
塔一郎、ちょっと見ない間にまたゴツく…鍛え上げられたんじゃねーか?絶えず食べ物を食べている新開さんに昔と変わらず、尊敬の眼差しを向けながら話しかけている。
福富さんは乾杯こそビールでしたが、その後は「オレは…強い!」とカシオレをチビチビ飲んでいた。拓斗も向かい側で、「福富さんは強いです!」と力説しながら、甘いカルーアミルクを飲んでいる。あそこだけ女子会か!
荒北さんは…

「黒田ァ!オメー、ハタチ超えたよな?今日は飲めンだろ!オレが注いでやっから、付き合えヨ!」
そういって荒北さんが日本酒を片手にやってきた。このメンバーの中で日本酒が得意なのは、荒北さんとオレとずっとオレの隣にいた名前だけらしい。

「アッザっす!オレ酒強いんで、張り合って飲みすぎないでくださいよ?」
「上等じゃネーか!オメーこそ、調子に乗って潰れんじゃネーぞ!!」
『はははー。二人ともほどほどに〜。あ、この日本酒も美味しいよー?私のおススメ。』

そういって名前も日本酒を勧めてくる。
一口もらったが、美味かった!
それぞれに話も盛り上がり、楽しい飲み会だ。
チェイサーに水を挟みながらも、酒が進む。

あー、なんだ、酒が回って気持ちいいな。
トイレに行こうと立ち上がろうとするが、少しよろける。

『大丈夫?』
「黒田ァ、もうギブか?足にきてんナァ。」
「違いますよ!足が痺れてよろけただけです!トイレ行ってきます!!」

トイレに立ったはいいが、動いたことで更に酒が回るのがわかる。用を足してみんなのいる部屋に戻るべく、足を動かす。
あぁ、このまま寝れたら気持ちいいんだろーなぁ……

***

……目が醒めると、見たことのない天井が目に入った。良く寝た気がする。体を起こして辺りを見回す。
頭いてー。気持ちわりー。これが二日酔いか?
それよりもどこだ?ホテル??しかもラブがつく方の?
布団が胸からずり落ちて、肌寒さを感じ、自分の姿を見ると上半身裸だった。
嫌な予感がして布団をめくる。…辛うじて下着は履いていた。

その時、近くのドアが開かれ、バスタオル一枚を体に巻きつけた名前が現れた。

『あ!ユキくん、起きたんだね。おはよー』

呑気な返事をして、ベッドの上にいるオレに近づいてくる。

「は?なんで名前が?」
状況が読み込めず、間抜けな声が出てしまった。名前がベッドに腰掛ける。

『へへ。ユキくん、酔っていたから、私がお持ち帰りしちゃった!』
「は?」
『覚えてない?止めたんだけど、たくさん飲んでたもんね。…昨日の夜は…凄かったんだから』
「え?」

サーっと頭から血の気が引いて、青くなるのがわかる。そして自分でもマヌケな質問をしたと思う。

「お前とオレ…その…ヤったのか?」
『うーん、私はヤったというか…ヤられた?』
「っ!マジかよ…」

名前の言葉に思わず、頭を抱える。
全く覚えてねー。しかも好きな女に好きって言う前にヤるとか、最低だろ…

落ち込んでいると、ブフッ!と名前が吹き出す。

「んで笑うんだよ!人が落ち込んでんのに!」
『ユキくんの真剣な顔!
冗談だよ。そっちの意味ならヤってないよ。意地悪してごめんね。
昨日は酔ったユキくんに、私が吐きかけられただけ。
汚れてたから、洗うためにユキくんの服も脱がせちゃったけど』

「っ紛らわしい言い方すんなよ!…迷惑かけて悪かったな」
『何もなくて安心した??それとも何かあった方が嬉しかった?』
「…何もなくて安心した。
良かったよ。酔っていたとはいえ、告白する前に好きなヤツとヤったんじゃなくて。」

『え?』
「へ?…あ…」

お互い固まる。好きって言っちまったよな?
こうなりゃ、ヤケだ!

「あー、こんなとこでこんな格好で悪いけど、オレは名前が好きだ。オレと付き合ってくれ!」
『はい!私もユキくんが好きです。よろしくお願いします。』
「マジ!?ッシャァ!!」

思わずガッツポーズをする。あ、二日酔いで本調子ではないんだった…頭がガンガンする。

『で、このままゆっくりしたいんだけど、あと30分くらいでチェックアウトの時間なんだよね。どうする?
…延長する?』

「!?延長は…本当はしたいけど、今日はやめとく。そういうのは酒が入っていない時にな?」
『あ!そういう意味じゃなくて!!
まだ一緒にいたいからってことだよ!それに服も生乾きだし!』

そう言って、顔を真っ赤にさせる名前。
自分でお持ち帰りまでしといて、攻められるのはダメなのな。
ニヤリとほくそ笑む。

ともあれ、無事に付き合えて良かった。


***

〜 数時間前〜

ユキくんがヘロヘロになりながら一人でトイレ中。

「名前チャン、黒田、飲み過ぎじゃナァイ?そろそろお酌するペース考えろよ?」
『そうですねー。でも私がユキくんをお持ち帰りする予定だから大丈夫です。』
「ハッ!黒田がお持ち帰りされる方かよ!男前だな、名前チャン!つーか、名前チャン、酒強すぎィ!」

こんなやりとりがあったのをユキくんは知らない。

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