きゅんと鳴くのは心臓です

マネージャーの名前と付き合ってから半年を過ぎた頃。部活も終わり、部室に残るのはオレたち2人だけ。名前が部誌を書き終えるのを横で待っていたオレに、名前が手を止めて話しかけてきた。

『ねぇ、ユッキー?』
「…そんな女子みたいな呼び方すんな」
『ゴメン、ゴメン。雪成。』
「わりーと思ってねーだろ!ーーで、なんだよ?こっちはお前が部誌書き終わるの、待ってんだけど?」
『いやー、私達付き合ってるよね?』
「暑くて頭おかしくなったか?フツーに付き合ってるだろ?」

いつも通りの時間を過ごしていたはずだが、今何か違和感を感じた。
これはあれか?もしかして他に好きなヤツができたからとかで、別れ話を切り出されるのか?
自然と眉間にシワがよって、自分でも険しい表情になったのがわかる。

「…別れてーってことか?」
『違うよ!!どうしてそこまで話が飛躍するの?!頭の回転の良さの無駄遣いだよ!
雪成のことは大大大好きだよ。でもね、最近"きゅん"と来ないんだよ!!ほら、少女漫画だと付き合ってからも、胸が"きゅん"ってイベント目白押しじゃん!なのに、今のところ私達の間には学業と部活ばかりでイベントに発展しそうなことすらない!』

大真面目な顔をして何を言うのかと思えば…
呆れてものも言えねー。
一応言っておくが、オレたちは現役高校生として健全なお付き合いをしている。

「つまり、その"きゅん"がねーから、付き合っているって実感がねーと?」
『イエス!ザッツ ライト!さすが、ナリナリっ!』
「誰がナリナリだっ!さっきから変な呼び方すんなって!」

思わず頭を抱えた。深読みしすぎた自分が馬鹿だった。しかも話の中で大好きと言われて満更でもない自分がいる。悔しいので、デコピンをお見舞いする。

『あいたっ!酷いよ、雪成!デコピンより"きゅん"とすることしてよぉ!』
「何だよ!その無茶なオーダー!お前は竹取物語のかぐや姫か!」
『かぐや姫が出てくるなんて、雪成、意外と乙女だね!』
「前に古典の授業でやっただろ!たくっ!」

仕方がないから、前にTVでたまたま見かけた、女子がドキッとするらしいことを提案してみる。なんだかんだで名前には甘いオレ。

「あー、壁ドン?これでもすれば、"きゅん"とするか?」

そういって壁側に名前を押しやる。

『…ダメだ。イラッとして壁ドン仕返ししそうになる』
「どんな展開だよ!お前は喧嘩売られてやり返す、ヤンキーか!
…じゃぁ、これは?」

そのまま名前の顎に手を当てクイっと自分の方へ向かせる。所謂、顎クイってヤツだ。
自然と名前の唇に目が行き、釘付けになる。

『あーーーー。47点!』
「ーっんだよ!その微妙な点数は!お前の数学のテストの点かよ!」

アブねー!名前がそのまましゃべり始めなければ、キスしそうだった。

『そうそう!数学苦手でさーって、違うよ!
…顎クイって"きゅん"の前に恥ずかしさが勝るね』
「点数自体は否定しないのな。
そりゃー、この距離は恋人同士でしかできない距離だし?」
『…っ!』

さらに近づいてやると、名前が顔をそらした。お?珍しく照れてんのか?
少しこちらが優位になり、思わずニンマリしてしまう。

『つ、次ー!』

名前が誤魔化すようにオレから距離を取り、言った。

「次ったって、もうネタ切れだぞ」
『えー。雪成ってば、勉強不足だなぁ〜』

「お前なー。やっといてなんだが、こういうのはシチュエーション込みでこそ有効だろうが!
……つーか、付き合ってるか実感ないなんて、オレがお前のこと好きなんだから、それで十分じゃねーのかよ…」
『…!?ヤッバイ!すっごい"きゅん"ときた!
ツッコミの後のデレ雪成!
私、生きてる!!』
「デレ雪成ってなんだよ!
あとそれ、真波のセリフだから!パクんなよ!
…望み通り、名前が"きゅん"とすることしたよな?」
『うん!素敵な"きゅん"をありがとう!お付き合いって素晴らしい!』
「じゃぁ、次はオレが満足するまで、オレのことを"きゅん"とさせてくれよな?」

そう言って名前を抱き寄せ、唇に優しく噛み付く。今夜はまだ当分帰れそうにない。

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