今日はチャリ部がオフの日だ。そんな日に限ってあいつは一人になる。
黄昏時、電気もつけない薄暗い教室の日の当たる窓側。日直になってしまった俺は日誌を書いていて、
「ユキ、人の話聞いてた?」
「聞いてるっつーの」
お前がまた彼氏に浮気されて別れた話だろ。逆にこれ何回目だと思ってんだよ。
「なら答えてよ、私の恋愛相談」
「俺が答えてどうなるんだよ、より戻すのか?」
全力で首を横に振る俺の前の席に座るこいつは幼馴染の苗字名前。こいつは所謂箱根学園のマドンナだ。高嶺の花というやつで、告白するやつが絶えないらしい。俺もこいつに悩まされる一人でもあるし、幼馴染ってこともあって、この関係を崩すわけにはいかないという思いがある。
こいつもこいつで告白される度に付き合うし、惚れやすいのは昔から変わんねーんだ。
「何でかな、こんなにも好きなのにね」
現に今も、このバカは浮気をして更に振っていった男のことを想っているようだ。隙を見つけては他の女子と遊びに出かけてるあいつを。
日誌を書き上げた俺は顔を上げて名前を見た。みんなから愛される存在になってからあまり笑わなくなった。グラウンドを眺めながら呟くこいつの横顔が思わず綺麗に見えた。
「あいつらの見る目がないだけだろ」
墓穴を掘るような一言を零した自分に目を丸くしたが、こいつは気付いてない。てか、笑わなくても綺麗って何だよ、モデルかよ、パリコレに出てるファッションモデルか。
確か、名前が浮気をされる理由と言えば、付き合っても彼女らしくないと誰かが小声で言ってたか。女友達と何ら変わらない接し方されるとか、好きな男がいるらしいとか。
後者は逆に何で付き合ったんだ。んなら、俺がもし仮に告白したって無駄なんじゃないのか?
「そんなことないよ、きっと受験に専念するんだよ」
お前と付き合った数十人は全員受験に専念しているのか?三ヶ月前のあのやんちゃくれもエリート目指してんのかよ。
もう元彼なんてどうでもいいような、あっけらかんとしている名前が何を考えてるかすら分からなくなってきた。数分前の好きそうな顔はなんなんだよ
まじで意味わかんねー。むしゃくしゃした俺は机に突っ伏した。
「てか、誰でもほいほい付き合ってんじゃねぇよ」
「えー、みんな好きだし」
「あのなぁ、本当に好きじゃないやつとは付き合うなって言ってんだよ」
告白する前から玉砕してるみたいじゃねぇか。
溜め息をつきながら名前を見やると、真剣な顔でこちらを見てきた。
な、なんだよ。俺、何か言ったかよ――――
「でも好かれたいと思うのはユキだけだよ」
「…っ、は?それって、」
「ユキに気付いてほしくて、振り向いて欲しくてこういうこと繰り返してるって言ったらわかる?」
えへへ、なんて久々に笑う名前は後ろめたさもなくなるらい可愛くて、
崩れないように守ってきた幼馴染なんて関係を早く終わらせたくなって、
今までにない夕陽以上に眩しい笑顔に今にも心臓が爆発しそうだった俺は席から立ち上がって名前の髪を無造作に撫で回した。
「わわっ、何すんの!?」
「日誌出してくる。ちゃんとお前に告白してやるから心の準備してろよ」
顔も合わせずに教室を出る。いや、顔なんて合わせなくても互いに顔が赤いことなんて分かる。
久々に見たあの笑顔、まさか俺のことを悩んで消えていたなんて思いもしないし。でも、俺も前から好きで悩んでたし。
名前が笑って告白紛いなこと言うから俺もつい口走ったし、つかもうあれ告白じゃね?俺告白されたのに告白すんのかよ。本物のバカは俺じゃねぇか。
どんな顔をして戻ってきたらいいんだよ。
……まぁ、笑って戻ればあいつも笑ってくれっか。