フォカロル(小)と王様達

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「…――おう」

ぴよぴよとまるで雛鳥の様に鳴いたその子供は俺をじ、とその真ん丸な瞳で見上げてにっこりと笑った。
…、うん?
そのまま寒いとでもいうようにぺたぺたと裸足のままベッドに近付きよいしょよいしょとシーツをくしゃくしゃにしながらベッドの上によじ登り俺の胸に擦り寄ってきて体を丸め寝息をたて始めるその子供を見て、子供独特の高い体温につられるように俺も眠りの世界に落ちていった。
そう、これが全ての始まりだったのだ。

―――――――――――――――

「――…で?」

「…すいません身に覚えがありません本当ですごめんなさい」

ぎりぎりと絞まるそれに一瞬あれ、俺って王様だよね?と考えながら笑ってない笑顔のジャーファルくんに弁解をする。
いや、だって本当なんだよ俺だってわかんないんだって起きたら俺の腕を枕にしてすぴすぴ寝てる子供がいて可愛いなぁって寝惚けた頭で考えてその暖かい温もりを抱き寄せよし二度寝しようって思ったときにタイミング悪くお前が来て人のことを散々ロリコンだなんだと罵って縛り上げ今に至るんだから何も間違いは犯してないよそんな子供に手を出すなんてしてないよいたたたた…え、信用できない!?酷いじゃないかそれでも俺の部下かいたたたた…!!

「で?」

「…すいませんほんっとうにわかんないんです許してください」

「ダメです」

げしりと背中を足で踏みつけられていい笑顔でそう言ったジャーファルが紐をぎりぎりと引っ張る。
ちょ、主を殺す気か!

「…んむ」

その時、もぞりと身動ぎをする音と掠れた小さな声にぴくりと体を揺らしたジャーファルは素早く俺の体から紐をほどき腕に巻き付ける。一体何をするのだろうと軋む体を擦りながら見守っていると簡単に身形を整え足早にあの子供が寝ている俺のベッドへ足を向けた。
…ついてこい、か?
一瞬向けられた激しく冷え冷えとした眼差しにひきつる顔をそのままにジャーファルの後を追う。

「おはようございます」

お前は一体どこの母親だ。
シーツをくしゃくしゃに丸めた塊を抱きながらベッドの上に座り込んでいた子供と目を合わせるようにしてジャーファルが笑う。

「よく眠れましたか?」

その言葉にこくりと子供が頷いた。
え、と声が漏れる。
ふわりと漆黒の髪が揺れた。長い髪。あっちへこっちへと跳ねるそれは先にいくにつれてまるで鳥の翼を模した形を作っており、それがぐらぐらと揺れる子供の頭につられて揺れる。
ぐしぐしと目元を拭うのは人の体ではあり得ない、漆黒の翼が生えた小さな腕。擦ったからだろう赤くなった目元を見て慌ててその腕を掴みあげる。
寝ぼけ眼でジャーファルを見上げるのは赤々と燃え上がる深紅の瞳。額には二つの小さな角と縦に入れられた亀裂から覗く黄金の眼。
…やっぱり、これどっかで。

「おう」

「君は誰ですか?」

「おうは、どこだ」

「…私はジャーファルと申します。ね、君の名前を教えてくませんか?」

「おまえになどようはない」

人の成りではないその子供を警戒しながらも優しくかけられた声を突っぱねられぶちり、と何かか盛大に引き千切られた音がした。ジャーファルくんから。
…やばい、ジャーファルくんがキレた。
ぷい、と視線を反らし腕を振り払った子供が興味深げに周りを見渡し、そして少し離れたところにいた俺を見つけあ!と声をあげる。
そのまま小さな子供は感極まったように勢いよく立ち上がり、しかし丸めたシーツに足をとられどしゃりとベッドの下に落ちてしまった。
………。ひぐ、とくぐもった声。

「だ、大丈夫ですか!?」

吃驚したようにジャーファルが声をあげる。いや、俺も驚いたが…。脇の下に手を差し込まれひょい、と持ち上げられた子供はぶらぶらと短い手足を揺らす。
剥き出しの上半身には簡略化はされているがやはり見覚えのある模様。鼻のてっぺんとおでこを赤くした子供はぐずりと一度鼻を啜り涙でうるんだ眼差しで己を抱き上げるジャーファルを睨む。
その小さな手は擦るように角と三つ目の眼を押さえているのだからまったく迫力がない。

「あぁ、まったく!赤くなってるじゃありませんか!」

「は、はなせぶれいもの!」

じたばたとジャーファルを蹴ろうとするかのように短い足が空気を蹴る。…なんか癒される光景だ。

「もう子供だからといって容赦はしませんよ!ほら暴れないで!」

容赦しすぎているだろうと息を吐く。
ぎゃんぎゃんと子供が叫んだ。
さわるなぶれいものあっちへいけこのぬすっとめ!…ぬすっと?なんだか和んでいるジャーファルを貶し貶し貶し続けてとうとう息が切れたのか顔を真っ赤にし荒く呼吸をする子供が悔しそうにねめつける。

「…――ん、どうしたんですか王様。ジャーファルさんも!あっちで、みんな待ってるっすよ?」

「シャルルカン!いいと「おぉ、われらがいとしごよ!」こ、…え?我等が愛し子?」

どうしようかと考えていれば、ひょこりと寝室の入り口から見慣れた顔が現れた。銀の髪に褐色の肌。
思わず天の助けだとその名を呼べば俺の言葉を遮ってジャーファルの手に摘ままれ宙ぶらりんな子供が嬉々として声をあげた。え?と思わず三人で子供を見る。
うん、やっぱりこの子供…。

「わがこよ!われとおうのいとしごよ!このいまいましいばあるのけんぞくなどけちょんけちょんにしてしまうのだ!」

「その前に、ひとつ大切なことを聞くが――…なぜそんな姿をしているんだ、フォカロル」

思わず頭を抱えてしまった。

ーーーーーー


場所は変わって、俺とフォカロルを囲むようにして八人将達が興味深げに無遠慮な視線を向けてくるが、フォカロルはまったく気にしていなかった。
他に興味を引くものがあったのだ。
俺達にとっては小さいが、今のフォカロルにとっては大きいのだろう。小さな手で赤々と熟れた果実を抱えて、これまた小さな口でかぷりとそれにかぶり付く。
当たり前のように果肉と果汁たっぷりのそれのせいでフォカロルの口許や手はべたべたになり、シンドバッドは仕方なくその手から果実を取り上げ汚れた口と手を拭いていく。
んむ、ぐ。そんな声。

「…父と子ですね」

「…うん」

「たく、いつの間にかいい父親になりやがって…」

「おい、そこの野次馬少し黙れ」

誰が父だ誰が!
取り上げた果実を取り返そうと一生懸命手を伸ばすフォカロルに女性人は黄色い声をあげる。…面白くない。
仕方なしに果実を返そうとするがそれはひょいと横から伸びてきたジャーファルくんの手に取られてしまった。
威嚇の声を上げだしたフォカロルを何とか宥め、何をするのか見ているとぶちぶちと(俺に対する)愚痴を溢しながらも器用な手付きで果実の皮を剥き小さく食べやすいように切り出した。…おい。

「はい、どうぞ」

「だれがばあるのけんぞくなぞがむいたもの「はいはいお前は黙って食ってろ」――…むぐ!?」

小さく切り分けられた果実を小さな口に押し込む。さて、これからどうしようか。



そもそもなんでこいつがいるんだ?


取り敢えずそこ、俺はこいつの父親じゃない!!



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