銀さんハピバ文
(銀時×神楽)




その日がくることが、嫌で仕方なかった。

何故ならその日が自分や自分の周りの人間にとって、一年で一番大切な日で、
最も特別な日なのだと教えてくれた師は…もうこの世にいなくて。


あの人がいなくなってから
その日を迎える度に自分が世界で独りきりなのだと思い知ったから。

だからその日は、まぶたを閉じて、その日を365日のうちの平凡な一日として何もせずに、誰にも言わずに過ごしてきたんだ。


1010







幾分か陽は遠退き、空気が澄み始めたこの季節。
宇宙船の飛び交う江戸の空は何処までも青く、見事なまでの秋晴れであった。



窓から見える雲一つない空を見上げながら、ゴロリと自室の畳の上に寝転がる。


「いー天気だなぁ…おい。」


午後の温かな日射しが入り込み、トロトロと眠気が瞼を重くして行く。


「あいつらちゃんとやってんのか…?」


万事屋のメンバーである新八と神楽は、「中学校で起きている持ち物の盗難事件を何とかしてほしい」という依頼を受け、二人で潜入捜査をしているのだ。


(まぁ…俺は無理があるからなぁ)


「中2病になったらめんどくせぇな。
特に神楽…。」


今頃一暴れでもしているのだろうかとぼんやりしてきた思考回路で想像してみる。


「やべー…不安だ。」

何より、性格には難があるが見た目は愛らしい神楽に何かないかが少し不安であった。

夢見がちな少年達が何をしでかすか分からない。



「あーやべぇ…気になってきた。」



ブツブツと呟いていると、けたたましく鳴り響く事務所の電話。
それに反応した愛犬の定春が襖の前で身体に似合わぬ甲高い声で家主を呼んでいる。
電話に出ると、今まさに考えていた新八の落ち着いた声。
それに被せるように、元気すぎて喧しい神楽の声も聞こえる。
内容は仕事がもう少しかかりそうだということだった。


「あ、でも依頼人さんがまた万事屋に顔を出されるみたいなんで、銀さんうちにいてくださいね!」


「へいへい。
じゃぁ気を付けろよ。」


受話器を置くと、横で大人しく待っていた定春が嬉しそうに尾を振っていた。


「あ?
なん…」


ふと視界に飛び込んできたのは、窓に写る自分の緩んだ顔。

独りでいた部屋の中、ただ二人の声を聞いただけなのに心の芯がふんわりと温かくなる。


「ったく…これが嫌じゃねえのが

…慣れちまったのかね。」


フッと一人笑うと、不思議そうに見上げてくる定春の頭をグシャグシャと撫で、照れ隠しをするように応接間のソファへと寝転んだ。



すると寄り添うようにソファ横へと寝転がる大きな温もり。
それに安心して、再び降りてきた瞼を、銀時はすんなりと受け入れた。




昼だと言うのに暗い空。


見渡す限り広がる骸が埋め尽くす地面の上に立っているのは、何も知らずただ人を殺めては生きるために全てを剥ぎ取っていた幼い頃の自分なのか、
白夜叉と恐れられながらも、国に生きる人々のために戦った青臭い頃の自分なのかわからない。



自分が立っているのはわかった。

周りに誰も居ないので幼い頃の自分かもしれないし、高い視野にも思えるので、若い頃の自分かもしれないと思った。

ただ
はっきりとわかっているのは、これが夢だということだけだ。


(こんな日に見てぇ夢じゃねえよな…。)


こんな日…
と言っても祝う者が居るわけでもない。
誕生日は万事屋を始めてからは、誰にも教えた記憶はないのだから。
今更祝って貰うような歳でもない。

赤く染まった世界を踏みしめながら、自分は無意識に何かを探し求めてさ迷っていた。


『銀時…』



不意に名を呼ばれて振り返り、銀時は目を見張り硬直した。


そこには二度と見ることのできないはずの、あの柔らかな微笑みがあった。


その人が自分を鬼から人へと変えてくれたことを、今だって感謝している。

忘れたことのないその優しさを、
自分は今、同じように大切な人へ与えられてるだろうか?
何故貴方が…と口にしようとしてやめた。

(あぁ…そーだ夢なんだよ。
俺しっかりしろ…てゆうか起きろ俺。)


自分を落ち着かせるため深く息を吐き出して額に手を当てる。



「っ!!」



これは夢だ。
夢のはずだ。

なのに何故…
だったら何故…
この頭に乗せられた手はこんなにも温かく感じられるのだろうか?


こんなにも懐かしく感じるのはどうしてなのか。




『すっかりと成長しましたね。』


その声は、昔と寸分変わらず優しく包む。

恐る恐る見上げた先で、あの頃の様に微笑む師に、ある種の眩しさを感じながら銀時は目を細めた。


『君はもう独りじゃないんだ。
大切な家族がいる。
友人もいる。

教えたはずですよ?
今日という日は、君の周りにいる人たちにも大切な日であると…』



「っけど…
っ;!?」


声だけが聞こえるなか、その眩しさが強さを増し、銀時は堪らず目を瞑った。



(……ぱ……か?)


聞きなれたソプラノの声が聞こえる。


(…ん、も…よ。)


優しげな少年の声も遠くに聞こえた。


「任せるヨロシ!」


元気な声がハッキリと耳に届いたかと思った途端、腹部に何かが乗った圧迫感。


「ぐぉふっ;!!?」


叩き起こされて渋々目を開けると、そこには嬉しそうに笑う蒼い瞳。


「あ゙ー?
帰ってきたのか。」


頭をグシャグシャと撫でてやると、神楽はスルスルと自分から降りて床へと腰を落とした。


「?」


目線は寝転がったままの自分と丁度同じぐらいだ。


「銀ちゃん、ただいま!」

「!!!」


チュッと軽い音をたてて、柔らかいものが自分の頬に触れて離れていった。


「…え;?/////」


それは一瞬の出来事であり、予想だにしないことだったため放心状態となってしまった銀時に、神楽は「エヘヘ//」と笑うとさっさと立ち上がって離れていってしまった。


「っ!!ちょ、待てっ!!!///」


起き上がって神楽が逃げ込んだ暗い和室の方へと追いかけていく。


「神楽!今のは…」
パァンッ

「あ;!!??」

和室に足を踏み入れた途端何かの破裂音が自分に向かって鳴り響いた。


「…;?」


咄嗟のことに何が起きたのかと構えていると、パッと灯りがつけられた。


「「「「誕生日おめでとう、銀さん(ちゃん)!!!!」」」」
「!?」


目を開けると、そこには見慣れた面々。

「たん…じょう…び?」

「そーヨ!自分の誕生日忘れたアルカ!!?」


白い頬が淡く桃色に染まったようにも見える神楽が銀時の前にずいと出る。


「イヤイヤ忘れちゃいねぇけど…お前らなんで俺の誕生日…」


そこまで言葉を続けて、部屋の隅に奇怪な生き物を連れて嬉しそうにクラッカーから出た紙テープを集めてる長髪の男を見つけて納得がいった。
妙につきまとうストーカーがいたら即しょっぴかれるだろうが、今日は幸いにも居ないらしい。


「銀ちゃん、ほら座ってヨ!」


ウキウキと弾むように言う神楽に促されてテーブルの一番上座に座らされた。


「イヤイヤ、これお誕生日席ってやつ?
ちょっと恥ずかしすぎるんだけど。」


「そんなこといって、本当は嬉しいんでしょ?
銀さん。」


「そうですよ、顔緩んでますよ。」


妙と新八に笑いながらそう揶揄され、銀時は照れ隠しに目を泳がせる。


既に一升瓶の栓を抜いて酒盛りを始めようとするお登勢、キャサリン、長谷川。
更にそこに桂が加わったためダメな大人たちの集いができていた。
よくよく見れば一升瓶にはプレゼントらしいリボンが施されている。


「ほら、銀時何してんだい!?
アンタも飲むんだよ!!」

「銀時、僭越ながらお前にはさっき買ったんまい棒をやろう。」

そして当然のように席についている猿飛あやめは眼鏡が外れているせいかお登勢に連れてこられたたまにすがりついている。



身体に巻き付けられたリボンは見えないフリをした。


(しょーがねぇやつらだな。)


溜め息を付きながら癖っ毛の髪をワシャワシャと掻いていると、その反対の腕に細い腕が絡み付いた。


「銀ちゃん!」


見上げてくる蒼い瞳がくりくりと嬉しそうに輝いてた。


「なんだ?
お前が嬉しそうだな。
まぁ食いもん一杯あるからか…。
ほら、食わねぇのか?」


そう言ってポテトをひとつ詰まんで口元まで持ってってやると、パクリと口に加えて神楽は首を左右に振って見せる。


「違うヨ!
嬉しいのはあってるネ。
でも嬉しいのはご飯があるからじゃないアル。」


じゃあその動いている口はなんだ?と突っ込みたいところだが、続きが聞きたいので首を傾げるにとどめた。
ついでに先ほどから柔らかな感触の残る頬についても聞きたかったが、それもなんとか堪えた。

見下ろす銀時に、神楽は満面の笑み。



「だって銀ちゃん、嬉しそうヨ!
すっごくすっごく嬉しそうに笑ってるネ。」


いや、それはお前だろ。と突っ込みたかったが、ニコニコと笑う神楽に何も言えず、素直にこの幸せな気持ちを表してみる。


「わっ!!
銀ちゃん?」


腕にすっぽりと収まり、ギュッと抱きしめられたまま神楽は不思議そうに(でもどこか嬉しそうに)こちらを見つめてくる。


それに緩むままの顔で答えてやった。

心からの感謝の言葉を。



「ありがとな。」


それに返ってくる笑みは、腕の中にいる少女のものだけでなく、部屋にいる人の数だけ。
ニッと笑うと、銀時は迷うことなく酒盛りへと参加していくのだった。






HappyBirthday 銀時。






銀さんのハピバ文として書いたものです




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