銀時×神楽





その大きな背中が好き

そのふわふわした柔らかそうな癖っ毛が好き

いつだって守ってくれる太い腕が好き

死んだ魚のような目の癖に、自分を見る時にふっと優しさを帯びるのが好き

その声が自分の名を呼ぶのが大好き

あげればきりがない程あるけれど、恥ずかしいからひとつも言ってやんないヨ

…でも、じゃあ

銀ちゃんは私のこと
どう思ってる?














いつものだらしない目が、自分を写すと柔らかく笑って見せた。

そしてその大きくて傷だらけの手が、
自分の髪に触れ
頬に触れ、
もう片方の手が優しく自分の腰を抱き寄せる。

まるで恋人みたいだ…とドキドキ高鳴る幼い胸の鼓動に、そっと瞼を閉じようとした時である。





ガシャーンという大きな物音に神楽は瞼を開いた。



(夢…)


そこはいつもの見慣れた押し入れで、
ひとりぼっちの暗い押し入れの中には、襖の隙間から入る光もない。

今何時であろうかと思いながら寝返りを打つ。

神楽は未だに激しく脈打つ自分の胸の鼓動とは裏腹に、気持ちが急速にしぼんで行くのを感じた。


(バカアルな…。
銀ちゃんが好きなのはボンキュッボンの大人の女ヨ…。)


わかっているくせにあんな夢を見る自分が女々しくて、そして夢の中でも彼が自分を求めてくれたことに幸せを覚えてしまった虚しい事実に、神楽はギュッと目を瞑った。


ガタンッドタッ!!!

「!!!」


騒がしい音にギュッと瞑っていた目を開く。
音は間違いなく応接間の方から聞こえてきた。


夕方飲みに出かけたこの家の家主が帰ってきたのだろうかと寝起きのわりにハッキリとした頭に考えを巡らせる。


「銀ちゃん…?」



恐怖など感じはしないが、夜中にそんな音をたてたのが誰なのか不安があった。

しかし蚊の鳴くような声で囁いたところで返事が返ってくるはずもない。

このまま黙って寝てしまうこともできたが、神楽はそっと襖に手をかけた。


「銀ちゃん?」


部屋の中はやはり暗く、今頼りになるのは窓から入る月明かりのみだ。

暗闇の中、手を伸ばしながら進むと応接間の床に誰かの気配を感じた。


「…銀ちゃん?」


ペタペタと床を手で触って確かめながらその気配を探る。


ペタ


「ん〜…。」



やや火照った肌に触れた途端に聞き覚えのある呻き声が耳に入り、神楽はホッと胸を撫で下ろした。


「銀ちゃん、ここで寝ちゃダメアル!
お布団行くヨロシ!」


ペシペシと頭を叩いてみるが、呻き声が聞こえるばかりで起きる気配はない。


「最近毎晩飲みすぎヨ!
たまにはうちで夕飯食べろって新八も怒ってたアル。」


しかし銀時の起きる気配はなく、仕舞いには気持ち良さそうな寝息が聞こえてきた。


「ったくこのマダオが!!
そんなんじゃ私いつか愛想つかして実家に帰らせていただきますアルよ!?」


今日見た昼ドラでヒロインが言っていたお決まりの台詞を言ってみる。
もちろん離れたくなんかないから嘘に決まってるけど。


「ん〜…
神楽ぁ…銀さんを一人にしないでくれぇ…。」


酔っ払って言ったのがわかっているのに、その唇から発せられた自分を求める言葉に嬉しくなってしまう自分に悲しくなった。


「わ、わかってるヨ!
銀ちゃんの面倒は私が見てやるネ。

…だから布団に行くアル!」


仕方ない…と言う風にその体を運ぼうと銀時の腕を掴んだときである。

ぬっと伸びてきた手が逆に神楽の腕を掴んで引っ張ったのだ。


「;!!!????」


当然の如く不意討ちだったため、神楽の軽い身体は銀時の腕に易々ととられ、そのままその腕の中に捕らえられてしまった。


「ちょっ…銀ちゃん;!!///
さ、酒クサイアル!」


「ん…神楽ぁ…。」

「!!」


いつも普通に抱きついたりじゃれあったりしているのに、何故か今日は心臓がうるさいほど脈をうつ。



(あんな夢見たせいアル!//
変に望みなんて持っちゃダメヨ!)


そう、彼が自分のようなコドモを相手にするはずなんてないのだ。

そう言い聞かせながら、(もうチョット…)と抜け出せない。

不意に乗せられただけの腕に力がこもった。


「んー…」


早く…その腕から抜け出ていればよかった。
そう今更後悔したところで、自分の鼻孔から入り込んだ女物の香水の匂いなど消えるはずもない。


そっとその腕の中から抜け出した。

それでもやはり目の前の男が起きる気配はなく、いなくなった温もりを求めて腕が宙を舞う。


「…か…ぐら…」

「!!」


そんな匂いを纏っていながら自分の名を呼ぶ銀時に、堪えようのない怒りが湧き、神楽はぐっと拳を固く握りしめて手を振り上げた。


「かぐ…らぁ…

ずっと俺だけの側に居てくれよ…。」


「っ!?」

振り下ろした拳が銀時の鼻先で止まる。


(ずるいアル…このクソ天パ…)


神楽は鼻先で止めていた手を力無く自分の膝の上へ下ろした。

悔しくて泣き出しそうなのを必死で堪えていると、大きな手のひらがそっと神楽の頭の上に乗せられ、ビクリと神楽の小さな肩が震えた。

恐る恐る前を見れば、銀時があの優しい目で自分を見つめていた。



「銀ちゃ…」
「銀さんはオメーが好きなんだよ…
犯罪者って言われよーが、ポリゴンだかロリコンだか言われよーが…な。
今んとこ、お前に嫌われんのが一番怖いんだけどよ…。」


呂律の怪しい言葉でそんなことを言う銀時の腕が神楽を包んだ。


「…も

私も銀ちゃんが好きアル。」


鼻の奥がツンとしたけれど、奥歯を噛み締めてぐっと堪えた。
神楽の頭上でフッと笑う気配を感じた瞬間にのし掛かる重み。


「ぎ、銀ちゃん;!!?」


そのまま押し倒されるように床に倒れた神楽はかなり焦って銀時の顔を見た。

が、


ぐかー…ぐー


「…寝てるネ…」


ガクッと力の抜けた神楽を尻目に、とうの銀時はイビキをかいてそのまま寝てしまったようで、この行きどころを無くした怒りを込めて頬っぺたを思いっきりひっぱたいたが、唸るだけで起きる気配はなかった。


「…銀ちゃんのバカ。」


一代決心の言葉は果たしてこの酔っ払いに届いたのか?
本人は夢の中である。

明日銀時が目を醒ました時にこのやり取りを覚えているのか自信はない。
夢の中だけで終わってしまっていそうだった。

「しょーがないアルな…。
まったく…
乙女心は変わりやすいネ…甘く見てるとホントに捨てるアル。」


はぁ…と溜め息を漏らしてそう呟くと、何かを察したのか苦しげに呻く銀時。


そんな銀時を見て苦笑をすると、神楽は仕方なくその自分よりもだいぶ大きな身体を引きずって、少々乱雑に彼の部屋へと運んでやった。






朝、目覚めたときに腕の中で眠る神楽に、銀時が余裕なく狼狽えたのは本人しか知り得ぬ事実である。







ダメヘタレ銀さん…美味しいです

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