銀八→神楽←沖田
(3z)
*
話がある。
なんて珍しいこともあるものだ。
使い古された椅子に背中から体重を預けると、沈黙の落ちた国語研究室にギシリと錆びた音が響く。
じっと押し黙ったまま此方を見る琥珀の瞳を、自分もじっくり待つ姿勢で相手を見る。
互いに刺すような視線になるが、特に何かあるわけではない。…少なくとも此方は。
「…先生、」
やっと話始めたか…と思いながら「ん?」と続きを促す。
別に早く終わらしたいとか思っちゃいない。
別に早く帰ってお気に入りのアナウンサーが出るニュースを見たいとか思ったりなんかしちゃいない。
いやいや…話を聞きたくてしょうがないんだよ、俺は。
なんて頭ん中でごちゃごちゃ考えてる間に、目の前の男子生徒が口を開いた。
「先生、好きなんでさァ。」
「は?」
つい固まってしまった。
いやいや、俺を?
何いってんの、こいつ!
ここ違うからね、BLサイトじゃないからね!?
いや、サイトってなんのことだよ!?
「チャイナのこと。」
「な、なんだよチャイナか…。
俺、ケツを守りながらの授業とか怖くて出来ねーから…ってチャイナって神楽か。
…あ?神楽?」
一瞬胸板で掌をすりおろすぐらいの勢いで撫で下ろしかけていたのに、一気にコメカミにビシィッと何かが浮き上がる。
「神楽はダメだ。諦めろ総一郎くん。
オメーみてぇなプリンス・サドヤローになんか神楽を渡せるか!」
此方の態度の変化に対し、生徒の方はあくまでも無表情である。
「先生、総悟でさァ。
教師だったら"好きになるのはテメエの自由だ"ぐらい言えねェんですかねィ?」
「先生だって人間なんですー。
アイツを好きになるには国家試験を受ける必要があるんですー。」
「それなら合格しやした、先生。」
「はい、そこ嘘つかないでください。
俺が推薦状出さないと試験も受けれないんだよ。」
適当にあしらいながら、睨み付ける目には余裕がないのは自分でもわかっちゃいる。
が、普段からあのお転婆に何かとちょっかいを出してくるこの少年は女生徒にはかなりモテるのだ。
自分なんぞよりも。
まぁ、アイツは顔で男を選ぶタイプじゃねぇんだけどな。
「そうですかい。
まぁ、チャイナはいただきますけどねィ。」
琥珀色の目を細めた少年が、ジトリと此方を見る。
「ハンッ!!
神楽は俺に一番なついてんだからね。
一番愛されてんの俺だからね?」
負けじと"死んだ魚ような目"と評判の目で睨み返してやった。
「先生の場合はとーちゃんと間違ってるだけじゃないですかィ?」
…これは別に冷や汗とかじゃない。
「ち、違うしぃ。いっつもアイツに飛び付かれたりしてるしィ。
悔しいからって僻まないでくんない?総一郎くん。」
「総悟でさぁ。
あ、先生。」
「あぁ?」
ピクリともしなかった無表情から、いきなりニヤリとした顔で
…身の内から滲み出るようなサディスティックな笑みで俺を見下すように見てくる。
なんて生意気なガキだろうか。
まぁ、最後の負け惜しみだろうから聞いてやろうか。
俺は優しい先生様だしね。
「さっき"神楽"に告ってきやした。
随分と真っ赤な顔になっちまって可愛かったですぜィ?」
「!?」
より一層、目の前の生徒…いや、クソガキの目がサディスティックに煌めいた。
勝戦布告。
「あんまりにも可愛いんでチューもしてきちまいました。」
「な゛っ!?」
取りあえず、本気で潰すことにした。
*
大人げない(笑)