そよ→神楽






江戸の城下は、今日も賑やか。

見上げた空には、白い雲と幾つか飛び交う宇宙船。

退屈この上ない私をほったらかしに、世界は今日も巡っていた。







檻のようにも見える格子窓から離れて、後ろへと向き直ると、其処には白色の絹糸で繊細な模様を施された純白の装束がかけられていた。

部屋の奥に威圧的にも思えるほどに自己主張をするその揃えに、なんでもいい…例えば火鉢の灰でもかけてしまいたくなる衝動を押さえて歩み寄る。

きっと何処かの名だたる職人の手で作られたであろう贅を尽くしたその一つの作品は、どうにも自分の目には死に装束にしか写らなかった。


静かにその横に腰を下ろし、使い込まれた化粧箱へと手を伸ばして一番上にある引き出しを引くと、そこにある葉書よりもやや小さく薄っぺらい紙を取り出した。

そこには自分の見慣れた顔と、地球人には凡そ見えない髪色の少女の顔が幾つも写っていた。

写る顔は、二人とも原型を留めたものじゃないけれど、そよは愛しげにその少女を撫でた。
彼女がどんなに可愛らしく、どんなに気高いか知っている。こんな自分を友達と言って守ってくれた。

彼女に会ったのはあの時のただ一度。
本当の名前も知らなくて、この手に残ったのはこのプリクラと酢昆布をかじる癖と思い出だけ。

たった1日のあの思い出を、数年たった今でも宝石のように何度も何度も磨いては大切にしてきた。
薄れてはくれない思い出は、気づけば彼女を美化していたのかもしれない。

何故なら今、彼女を想うと切なくて苦しくなる。もう二度と会えないかもしれないとは思っていたけれど、それでもこんなに切なく焦がれるのが正しく友人の在り方なのかわからなかった。

でもそれも…もうじき終わり。
いや、終わらす時がくるのだ。


相手は天人。
不安はあるが恐ろしいと思わなかったのは、恐らく彼女との出会いがあったから。


どの星の皇子だったろう…、けれどきっと遠い場所であることは確かだった。
兄が申し訳なさそうな顔をしていたのを覚えている。
優しい兄は、きっとご自分のことを責めておいでだろう。
けれども将軍家の娘である身としては、自分が本来よりも随分自由にさせていただけたとわかっている。
また…指の先で彼女の歪んだ顔を撫でた。

「ふふっ、二人とも酷い顔…。」


口からは笑みが溢れたはずなのに、ポタポタと滴が写り込む彼女へと落ちた。
滲んだ視野のまま、そっとその滴を払うとそのままその写真を見ることができなくなって、引き出しの中へしまいこんだ。

そして小さく決意したのは、この化粧箱はこのままここへ置いていこうということ。捨てることができないのは、この箱が母から譲り受けたものだからという理由だけではない。
切り離されたもう一片の写真を、まだ彼女が持っていてくれるんじゃないかという希望が捨てきれないからだ。

スッとその箱から目をそらし横にある純白を見上げた。
まるで彼女の肌のように白い…と考えたところで首を振り、溜め息を吐く。


「こんなんじゃ…いけないな…。」


ポツリ呟いたところで、彼女はなかなか思考からはでてくれない。

ふと、婚礼衣装を見上げながら、彼女も誰かと恋をしているのであろうかと思う。
思って、堪らなく切なくなった。

それは仕方のないことだけど、彼女ならきっと素敵な男性を想っていることだろう。


彼女も自分を思い出すことがあるのだろうか?
ほんの僅かでもいいから思い出してくれていたら嬉しい。
たとえ…自分とはまったく違う気持ちでいようとも。




まだ潤む目を独房のような窓へと向ければ、空は彼女の瞳のような色で酷く愛しくも苦く感じた。




さようなら、歌舞伎町の女王さん。


あなたにこんな気持ちを抱くのは間違っているかもしれないけれど…




それでも貴方が好きでした。







腐敗した片想い


願わくば、あなたの中に私という存在が少しでもいて欲しいの。







数日後の祝言の日にかっこよく登場して助けに来る神楽ちゃんマジ天使←

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