銀時→神楽




夏の公園の中は、木の下でない部分は殺人的暑さだ。
だがしかし、今目の前では、通常の人より日光に弱いはずの少女が、傘も差さずにブランコに揺られている。
別に傘がないわけではない。
彼女の愛用する藤色の傘は、しっかりと自分の手に握られている。

「かーぐらちゃーん?お前はまたぶっ倒れたいのかー?」

日差しもおさまらない午後の太陽のもと、銀時が傘も持たずに家を飛び出した神楽を慌てて追いかけると、人の気も知らないで本人は楽しそうに公園へと入っていき、ブランコに乗って意気揚々と漕いでいたのだ。

「大丈夫ヨ。もうちょっとだけアル。」

眩しそうに蒼い目を細めながら、神楽は太陽の光を掌で透かして見上げる。
その顔はなんとも幸せそうに、だが少し寂しそうに見えて、それ以上言うこともできず、銀時はただ溜め息を溢しただけに留めた。



「ねぇ、銀ちゃん。」

ピョンっとブランコから飛び降りて軽々と着地した神楽が、すすっと銀時の元へと歩み寄ってきた。

「なんだ?」

自然に傘をさして神楽の上に掲げてやると、逃げることもなく大人しく傘の下におさまり、少しの安堵を滲ませながら少女が何を次に言うのか待ってやる。
そうすると何かを思い出そうと、神楽は考える素振りをした後に思い出したとばかりに瞳を輝かせた。

「ビャクヤって知ってるアルか?」
「ビャクヤ?」

耳にしたことはあるような響きだが思い浮かばず、言われた単語にはて?と首をかしげると少し焦れったそうに神楽はヒントをくれた。

「夜も昼なのヨ!夜なのに太陽が出てるネ!
この前テレビで見たアル!」

キラキラと目を輝かせて言う神楽に、何をそんなに嬉しそうに…と思いつつ、貰えたヒントからやっと浮かんだのは、ここからずっと遠い世界のこと。
遠いと言っても、宇宙の果てにある少女の故郷に比べたら格段に近いのだが。


「白夜な。それがどうしたよ?」
「ずっとお昼ヨ!ずっと遊べるアル!」

その神楽らしい返答に、そういうことか…と呆れつつも桃色の頭を撫でてやると、嬉しそうに笑ってまた傘の外へと飛び出していってしまう。
それに慌てて手を伸ばすが、すばしっこい彼女は既に滑り台の上だ。

「おいこら、」
「そこに住んでる人、羨ましいヨ。私も目一杯太陽を浴びたいアル…。」

公園の遊具の中で、一番太陽に近い滑り台の上に立ち、手を広げて空を見上げる神楽は、何処か寂しそうで、ある男と重なって見えた。

生まれつき陽光を浴びることが出来ない身体、故に恋しいほど求める太陽を手に入れて、そうして滅びた一人の男。
目の前の少女と同じ種族の男…夜王・鳳仙は、日の光を浴びると見る間に身体の表面が崩れていった。
強靭なパワーを持つ男の身体がボロボロと崩れ滅びていく様を目にして銀時が思ったのは、神楽のことであった。


今元気に走り回っていた彼女も、実はとても無理をしているのではないかと内心はヒヤヒヤとしていたのだ。

(白夜だなんて…冗談じゃねえよ。)


日の光を見上げればあの青いガラス玉のような瞳から…。日の光の下で走ればその陶磁器のような白い肌から…。彼女の身体が崩壊へと向かっていくような恐怖を感じた。
神楽が無事であれば、正直太陽なんていらない。一生朝陽など昇らなくたって構わない。それほどに神楽が大事だ。
けれども、神楽はこんなにもあの光に焦がれている。彼女にとって毒でしかない光を。



「…神楽、そろそろ帰るぞー。
じゃねーと置いてくからなー。」

そんな気ないが、そうやってちょっとした脅しをかけてやる。彼女も心配ではあるが、見ている自分がどうにかなってしまいそうだった。
普段、意外なとこで頑固なところがある少女だが、今回は素直に受け入れたらしく滑り台を滑り降りるべくしゃがみこんだ。



…が、しかしそれはそう見えただけに過ぎなかったらしい。
そう、神楽は別に銀時の言葉に素直に従ったわけではない。何故ならその小さな身体は、しゃがみこむ途中で、フラりと傾き滑り台から身を乗り出したのだ。



「神楽っ;!?」

足元から崩れた彼女は、この照りつける太陽の下でやはり無理をしていたらしく、力なく投げ出された身体は自力で支えることができず地面に向かって頭から落ちていく。

「神楽!」

持っていた傘を捨て、滑り込んでなんとかすぐ下で受け止めると、やはり腕の中の少女の顔は青白く、ぐったりしている。
小さな神楽の身体を抱き抱えると、急いで辺りを見回して日陰を探し、目に入った木陰のかかるベンチへと寝かせた。




「ほれみろ、倒れただろーがコノヤロー。」

コツンと優しく額を小突くと、弱々しく神楽の瞼が開かれた。

「…銀ちゃん、クラクラするヨ。」
「当たり前だろーが、…このバカ娘。」

ポソポソと喋る神楽の声は、いつもと違って大人しい。けれども意識があることに安堵し、銀時は胸につかえていた息を思いきり吐き出した。
先ほどからちらつく夜王の姿を拭うように、神楽の柔らかい髪を一房つまみ上げて弄ぶ。

「お前は、」
「あ、…銀ちゃん。」

説教してやらないとまたやりかねない、とばかりに口を開いたが、すぐにまた神楽の声に遮られる。同時に伸びた小さな手は、銀時の頭へと触れた。

「?」
「銀ちゃんの髪、…キラキラしてるアル。」

眩しげに細められた青い瞳は、彼方にある世界を探しているようにも思え、思わず銀時は神楽のその手をとった。

「銀ちゃん、」
「神楽、俺は…」

言葉を続けようとする神楽を遮り、声を被せたが、その先をなんと言おうとしたのかわからなくなった。

(何やってんだ、俺は。)

冷静になろう、とひとつ息を吐くと、放ったままだった傘を拾って神楽を抱える。

「銀ちゃん?」
「帰るぞ。」


いつもだったら背に乗せる小さな身体を、今日は抱えるように抱き締めた。
ここに神楽がいるという事実が、どうにも不安で仕方なかったのと、しっかりと抱き締めていないとまた太陽を求めて何処かへと飛び出していってしまいそうな気がしたから。

出来ることなら、帰ったら二度と表へ出られぬようあの小さな彼女の部屋に押し込めてしまいたい。
けれども神楽は、こんなにも日の光を求めるんだ。




白夜に恋して

どうせなら、俺だけに恋しろよ。






親みたいに神楽ちゃんを大切にしてるけど、実際は絶賛片想い中(笑)
でも将来的には両想い…だったらいいのになぁ。

前サイト"白夜に恋して"のタイトルをまんま使いました(笑)

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