ウィルス編より
銀時(→)←神楽
*
日が昇ろうが死ぬほど寒い朝のこと。
ついには雪なんか降り始めたころ、万事屋に一本の電話が入った。
あまりの寒さに出てきた鼻水をティッシュでかみながら、神楽は銀時が電話の応対をしているのを聞いていた。
「ああ、おー…」
聞き耳を立てていると、どうやら電話はもう一人の万事屋メンバーのようだった。
「もうお前も感染してるかもしんねーだろーが。
来んなよ、病原菌。」
そんな風に言い放った銀時がぞんざいに受話器を置いて此方を振り返る。
「新八来ないアルか。」
「あー、妙のヤツが流行りのインフルエンザらしいわ。」
頭を掻きながら気だるげに言うが、内心では二人の心配をしてるだろうことを神楽はわかっていた。
いい歳して素直じゃない。
新八はいいとして、"姉御"と慕うお妙が倒れたことは心配に思った。しかしそれよりも不謹慎な考えが、何故かボーッとする頭に思い浮かんだ。
(今日は一日中…二人っきり…カナ。)
「ん?神楽…?」
ふと眉をしかめた銀時が手を伸ばしてきたため、心の内を読まれただろうか?と焦る。
「ん…な、何アルか。」
焦ったのもつかの間、伸ばされた手は頬へと伸びた。
神楽の白い頬を撫でた大きな掌は少しばかり温い。
そのまま額へと伸びた手が、汗で額に張り付いた杏色の前髪を優しくどける。
(ん?汗…?)
「お前、なんか熱くね?」
そういえばさっきから身体が熱い。しかしそれと同時に身体中寒気に襲われていた。
頭はだんだんと重くなり、フラフラとしてどこか意識が霞がかっている。
銀時がソファに腰かけていた神楽の隣に座ると、神楽の視界がぐらりと揺れた。
(あぁ…不味いかもしれないヨ。)
しかし行き着いた先は銀時の腕の中で、まるで布団の中に潜り込んだような安心感に包まれる。それと同時に訪れたソワソワと落ち着かない気持ちで身体が更に熱くなる。
「お前もインフルエンザか。」
ぶっきらぼうに、面倒くさそうに言うくせに、頭を撫でる手は気遣うように優しい。
やっぱり素直じゃない。
そんなことを思いながら見上げると、鼻水を垂らした銀時の間抜けな顔。
「…銀ちゃん。」
「あ?
…っくしょぉおい!」
行きなり身体を揺らしながら親父クサイくしゃみをした銀時の額に触れると温い気がした。
触ってみても、体温が上がった今の自分の手では熱を計ることも出来ない。
「銀ちゃんにも移ったアルか?」
「みてぇだな…。…だんだんダルくなってきた。」
「新八んとこ、行くアルか?」
『二人きり』はこの際残念だが諦めるとして…、今のところ電話の様子からしても一番動けるのは新八ただ一人のように思えた。
それに対し、銀時は少しの抵抗も見せることなく"是"と答えると、上手く動くことすら出来ない神楽に厚着をさせ、自分も上着を羽織るとその背に神楽をおぶさった。
「銀ちゃん、…大丈夫アルか?」
「人の心配してる場合か?俺よりも症状重いだろーが。いいから寝てろ。」
そう言う銀時の声は鼻声だったが優しさが滲んでいて、更には外気は思った以上に寒い、銀時の背に乗る神楽は小さな身体をさらにちぢ込ませて甘えることにした。
江戸の空にしては珍しくチラホラと白い雪が降り続き、町を白く染め、見た目にも寒々しい景色になってきたのを白い溜め息を吐きながら銀時が見上げる。
「神楽、あったけぇな。」
「体温上がってるアル。当然ヨ。」
首に回した掌に当たる銀時の頬は、外気にあったせいか冷たい。
けれど、
「銀ちゃんの背中も、…温かいヨ。」
ギュッと抱きつく腕に力を込めながら銀時の肩に頭を乗せた。銀色の癖毛がさらされた頬を撫でて少しくすぐったい。
(…ウイルスも悪くないネ。)
トクントクンと鼓動を打つ心臓の音が、背中越しに届いているのではないだろうかと思いながら、神楽はコッソリと笑った。
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