シカマル×テマリ
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先ほどから、自分の隣…のやや後方から、真っ直ぐな強い視線を感じる。
木の葉へと任務に来ていたテマリを、いつものように案内をしていたのだけれど、自分と並んで歩いていたはずの彼女の足音は、歩き進むにつれて何故か徐々に後ろへとずれていったのだ。
(なんだってんだ?メンドクセー;)
理由なんてわかるはずもなく、自分の三歩後ろをキープしたままついてくる。
…刺すような視線込みで。
「なぁ、このまま宿屋へ向かっていいのか?」
「あぁ。」
「暫くは木の葉にいるのか?」
「あぁ。」
「何日くらいいるんだ?」
「あぁ。」
「…」
此方に意識を集中しまくっているはずだと言うのに生返事にも程がある。
「テマ…」
一体なんだと言うのか…と本人に問い詰めようと思ったところで俺は口を止めた。
ほんの一瞬、チョイッと指に…小指の先に触れたのだ。
「…?」
なんなのだ?と訝しげに斜め後ろをテマリに気づかれないようにこっそり伺うと、真剣な顔をしたテマリが、拳を握ったり開いたりを繰り返していた。
掌を開いたときは遠慮がちに手を前にだして、
慌てたように手を引っ込めるときはギュッと拳を握っていた。
「テマリ?」
「っ;!!///」
声をかけるとビクリと肩を揺らして一気に耳まで赤くしたテマリが勢いよく此方を見る。何故か手は隠すように後ろに回して。
「…?
どうかしたのか?」
「い、いや!?
何でもない、気にするな!」
慌てたように笑って手を左右に振るテマリが、何かを隠してるようにしか見えなかったが、また前に向き直る。
またチラッと後ろを伺えば、先ほどの行動を繰り返していた。
(…?)
ふとテマリの視線が左斜め前方へ向く。
そしてひっそりと溜め息を吐いた気配を背中に感じた。
一体なんだというのか…とテマリの視線の先を追うと、カップルらしい男女の二人組が仲良さそうに歩いている。
(そういうことか…)
それを見て漸く彼女がしたかったことに察しがついて、自分の鈍さと彼女の不器用だが可愛らしい細やかな願いに苦笑が漏れた。
合点がいって歩んでいた足を止めると、テマリも足を止めて不思議そうに此方を見ながら首を傾げた。4つくくりの癖っ毛がゆらりと揺れる。
「どうした?シカマル。」
そんな彼女に振り返ると、先ほどから伸ばしたり引っ込めていた彼女の手を無言で掴む。
「!!」
「こうしたかったんだろ?」
そう言うと、ボフンと音が出そうなくらい一気に顔を赤くしたテマリが口をパクパクさせて目を見開いた。
いつでも冷静な彼女でもこんな反応をするときがあるのだと思うと、やはり可愛いくて堪らなくなった。
「それならそうと言ってくれりゃあいいのに、めんどくせえ人だな。」
別に面倒などとは微塵も思っちゃいない。
むしろこの恥ずかしがりやで、人に甘えるそぶりなど見せない彼女が自分に対して甘えてこようとする姿が愛しくてしょうがなかった。
「め、面倒とはなんだ!だったらいらないから離せ!」
眉をしかめたテマリが手を離そうと引っ張るのをギュッと握った。
「ただの口癖だろーが。
テマリは、嫌なのか?」
ニッとからかい混じりに笑ってやると、ムッとしたままのテマリはこちらから顔を反らす。しかしその頬はほんのり赤いまま。
「………だろ?」
「?」
小さな声が上手く聞き取れず、首をかしげた。
一度言い渋ったように下唇を噛んだテマリが、また口を開く。
「こんなの…私らしくないだろ?
こんな…女々しくて、いつもなら隠せるはずの感情も晒したりして。
…でもお前に触れたいとか思ってしまうなんてやっぱり変だと思うんだ、こんな私は…。」
空いた方の手の甲を顔に押しあてて表情を隠したテマリの頬は、やっぱりまだ少し赤みを帯びていた。
言ってしまえば今の自分の頬も赤いのだが、顔を隠してしまっているテマリにはわかりようもない。
テマリ自身、自分が口走ったことの意味を理解してはいないみたいでこちらの反応を待っているようだった。
握り返してくる気配のない手をぎゅっとしっかり握る。
この手であの巨大な扇子を操るなんて思えないほど柔らかで細い手だった。
「触りたいなら好きなだけ触れ。手を繋ぎたいなら繋いだらいい。
…なぁ、俺たちそういう関係だろ?」
手を繋ぐのは初めてだった。
彼女のようにストイックな人間にどこまで踏み込んで、どこまで恋人のような触れ合いをしていいのかわからなかった。
けれど今の彼女の行動で、それは杞憂だったと思い知った。
(…ったく情けねぇな。)
彼女の手を握った手を開くと、手を離すのかと想ったらしいテマリが顔から手を離し、此方を見つめた。
一瞬見えた悲しそうな顔に、今日は色んな顔が見れるなぁ…なんて思いながら微笑んでやる。
「んな顔すんなよ。
こうするだけだから…。」
開いた手の指を、そのまま自分の指に絡めた。
「!?///」
テマリは驚いたように目を見瞠って繋がれた手を見ていた。
それは先ほど見た恋人たちがしていたような繋ぎ方で、正直自分がするには恥ずかしさが強い。
ただ、この繋ぎ方の方が強く繋がっているように感じて、恋人たちが何故この繋ぎ方を選んだのか納得がいった。
「ほら、いくぞ?」
一歩分空いていた距離を埋めるようにテマリを引くと、赤い顔をして固まっていたテマリがこちらへと顔を上げた。
その顔は直ぐに嬉しそうに笑って、繋いだ手をぎゅっと握り返してきた。
「あぁ。」
一歩前へ出たテマリと俺の間にはもう距離もない。
小さな誤解もひとつ消えたと思う。
甘え方もわからない君は
取りあえず、思っていたよりもずっと可愛いひとだった。
*
久しぶりすぎてキャラがわかんなくなったシカテマです!
テマリのデレはマジで可愛いと思う。