千真←功







…千昭

千昭!千昭!!!!


暗い暗い闇の中
あなたを求めて走ってた


千昭!
待って、待ってよ…ねぇ、行かないで
千昭!!!


過ぎ去る背中はあの時と一緒だった





「千昭!!!!!!!!」

気づくとそこは、自分の部屋のベッドの上。
部屋の反対側では、妹が身じろぎした衣擦れの音が聞こえた。

(また夢…。)

最近よく見る悲しい夢。
どうせ夢なら、会えるなら幸せなものがいいのに…

あれからもう数年という月日が流れた…

不安でしかたなくて真琴はいつものように布団を被って枕に顔を押し付けた。

横の妹を自分の泣き声で起こさないよう声を押し殺すために…。



もう今年で大学も卒業を迎える。
真琴は大学院に進むために勉強を続けていた。


あれから自分はだいぶ変わったと周りから言われる。
髪だって伸びたし、化粧だってしてる。
最近は普段からスカートをはくようになったんだよ。

本当は全部あいつに見せてやりたいのに…。

だって次に会えたときあいつに変わってないとか言われたら悔しいじゃない?
…会えるはずないのにね。
こんなことしたって意味などないのに…。





突き抜けるようにどこまでも澄んだ青
優しい風は、この季節には心地よい。

大学から家への帰り道。
いつもここを通る。

あなたと最後に会った場所。

なんでだろう…思い出のつまった学校やグラウンドじゃなくてここが一番近い気がするから。

目の前を高校生の初々しいカップルが自転車に2人乗りをして通り抜けていった。
青春だねぇ。とか1人思って笑っていると、誰かに後ろから肩を叩かれた。
びっくりしてばっと勢いよく振り向くと、懐かしい顔が笑ってた。


「よぉ、久しぶり!
何1人で笑ってたんだ?」

落ち着いた雰囲気の彼がイタズラっぽく笑う。


「久しぶりじゃん!
功介元気だった?」


振り向いた先にいたのがあいつじゃなくてすこしがっかりしたのは、そっと胸にしまっておいた。


「元気だったさ。
最近忙しくてさー…」


久しぶりに会ったせいか話は弾んで、2人は青々と芝が茂る土手へと腰を下ろした。


「こうして2人で並んで座ってるとさ…真琴の隣に千昭がいないのがおかしいみたいだ。」


不意に投げられた言葉に、構えてなかったせいか鼻の奥がツンとしそうだった。


「何してんだろうな…あいつ。」

「さぁ?
…それより彼女はどうなの?」
これ以上のあいつの話は、自分の抑えていた涙を呼び起こすだけだと思い、少し無理矢理な気はしたが逸らした。


「あぁ…別れた。」

「…そうなんだ。」


あまりにもつまらないことのように言う功介に、真琴は自分が質問したのは違う内容だったんじゃないかと思えた。


「あいつさ…お前のこと好きだったんだよ。」


「え?」

そんなことは知っていた。

けれど何故それを言うのかわからなかった。

(せっかく話そらしたのに…)

やっぱり涙が出てきそうになって、真琴は誤魔化すように、芝生の上に寝転んだ。


「…知ってたんだろ?」
「…うん。」

「そっか…。」


やっぱり功介が何を言いたいのかわからなくて功介を見ると、過ぎ行く雲を眺めているのか、寝転がっている真琴からその表情は読めない。


「なんでそんなこと?
…千昭が戻ってきたら…
勝手に言ったこと怒るかもしれないのに。」


何を言っているんだろう…自分はまだ彼が会いに来てくれると思っているのか?

「もう会えないんだろ?」

「え?」


功介の言葉に真琴は目を見張る。


「もう…俺たちの所には帰ってこないんじゃないのか?」

「なん……
何言って」

「そんな気がしたんだ。
…千昭が学校こなくなった日からお前なんか変わったから。
すぐに会えるなら、もっと千昭のこと懐かしんでいろんな話したっていいだろう?
お前…あの時からなんとなく千昭の話するの避けてたろ?

俺には…俺だからわかるんだ。」

「功介…。」


空を仰いでいた瞳が、真っ直ぐに真琴の瞳におとされる。


「確かに千昭は…
千昭は帰ってこない…。
でも約束したんだ!

会いに行くって…
待ってるって言ってたんだ!!」


起き上がった真琴の髪から、草の葉がハラリと落ちた。


「会えなくったってあたしは…!!!!」


ぽたり


もう堪えきれなくなった雫は、解放を待ちわびたように膝の上へと小さな水たまりを作る。




「あたしは…

千昭に会いたいんだ。」


小さな声で呟いた言葉は、何よりも大きな願いだった。
突然、後頭部を掴まれて広い胸板へと押し付けられた。


「功介…」

「そんな…切羽詰まったような顔して泣くなよ…。

真琴になら胸なんていくらでも貸す。
だから…」


功介に優しく抱きしめられ、記憶だけがタイムリープした。



『未来で待ってる…。』



そっと瞼を閉じた。

彼を思い出して。

でもやっぱり功介は功介で
千昭ではない。

あの時の感触や匂いや視界いっぱいのあいつの顔は、今だって忘れちゃいない。


「なぁ…真琴。
俺…お前のこと…」


このまま甘えられたらどんなにか楽だろう。

けれどそんなことしたら?
夢の中で見た彼のように、千昭がますます遠くなってしまう気がした。

そっと功介から離れる。

あの時あいつの告白から逃げた自分…最低だったって今ではわかるから。


だから…


「ごめん。

あたしはまだ…千昭を諦めることは出来ないから。
まだ…好きも言えてないから…
だから…」


涙は止まらない。

拭うことも忘れて功介を見てた。


フッ


ため息のような苦笑を漏らした功介が、そっと真琴の頭を撫でる。


「そんな真っ直ぐな目で見られちゃ何も言えねえよ。」
そのまま立ち上がって土手の道へと歩き出す彼を、真琴はしばらく見つめ続けた。


「真琴!!」
「!」


土手道に出た功介がこちらを振り返る。


「俺…結構気、長いから!
あいつなんか待てるかって思ったら言ってくれ!!

あいつ以外にお前扱えるのは俺だけだからな!」


ヘラヘラと笑った姿が功介というよりあいつみたいで笑みが零れる。

再び前を向いた彼は、もう振り返ることなく去っていった。

こんなにも自分を想ってくれている人に自分は応えることが出来ない。

だって私はあいつがいいから。
あんたが…
千昭だけが、今でも私の中で特別で

大切で



一番大好きな人だから。





ガーネット




もう一度ごめんねと呟くと、真琴はまたひとつ涙をこぼした。





『ガーネット』を聞きながら書きました


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