千昭→←真琴
映画後






未来で待ってる



うん。


すぐ行く…


走ってく。




あの日君と交わした約束は、今の私を動かしてる。


きっと君の生きている時間は、私の未来に掠りもしない。

あなたが生きる時はそれほど遠くて…


『約束』だなんて
果たされる保証も無いのに…


幼い考えかもしれないけど
ただ、あなたにまた会えると信じていたいから。






あれから季節は一回りした。

あたしはもうひとつの約束を果たすために、あの絵を遺すための勉強が出来る学校に入ったの。

千昭…あたしね、
未来へ走ってるよ。

だから待っててね。
必ず未来へ届ける。

たとえ絵だけであっても。


時々、…不安になるんだ。

みんなと集まっても千昭はいなくて…もしかしてあの日々は幻だったんじゃないかって…
そう思ってしまう。


今でも大切な

あの楽しかった日々も、
あの切ない夏も

この胸の中に確かに残ってるのに。

あの時の空も、
あの夏の暑さも
抱きしめられたあのぬくもりや
自転車の後ろに乗ったとき感じた、少し汗ばんだ広い背中も

あなたの優しい笑顔も…

すべては一年前まで手が届くところにあったのに…。

一年たった今でも、思い出にするにはまだ生々しくて、恋しい日々。

思い出す度、今のようにこの土手にきてあの場所に座ってしまう。

約束をしたこの場所に。

思い出すたび泣きたくなる。

あたしはこんなに泣き虫だったろうか?


ねぇ…あなたは何をしている?


一年たってからも私のこと思ったりする?

話したいこといっぱいあるんだ。

あたし髪伸びたんだよ?

周りからも女らしくなったって言われるし。

功介医大受かったんだよ。


今だってたまに野球してるんだから。


あんたがいないといつまでたったってキャッチボールだよ。


会いたいな。土手に1人座ってあの日のように、河原で遊ぶ小学生を眺めた。

一年前は制服を着た短い髪のあたしが、あんたの横に座ってたんだよね。


「…うそ…みたいだ…。」


この先の未来で会うことはないだろう。
そう思う度挫けそうになる。

将来あたしは他の誰かと結婚したりするのかな。


途方もない時間の中、

しかも生きる時の違う私達が出会えたこと事態奇跡なんだってわかってる。

けれどそう思えるほど自分は彼を諦めきれてもいなくて。

これから先…この想いがただの記憶になってしまうことが悲しかった。


あのちょっとイタズラっぽい笑顔も、
どこか優しい声も、
記憶の中で霞んでしまうのだろうかと思うと切なかった。


「タイムリープ…出来たらいいのに。」


どうしようもないことを1人呟く。

もしあの奇跡が使えるなら、自分は間違いなく彼の元へ飛んでいく。


「そしたら…すぐ走っていけるのに。」


またぽつりと呟く。子供たちのはしゃぐ声にかき消されて、誰の耳にもそれは届かない。
ぽたりと雫が頬をつたって落ち、地面に染み込んだ。

あの頃から泣くことが増えて、静かに泣くようになった自分。


叫んだって届かないから。

抱えた膝に、顔を埋めた。


「もう…走りたくないよ。」


弱音を吐きたくなどないのに、堰を切ったように言葉が出てくる。


「未来とか…あえないじゃん。
どんだけ遠距離だよ…。
あたしずっと一人じゃんか。

野球はねぇ…2人じゃキャッチボールなんだよ。

だいたい…

あたし…まだあんたに気持ち言ってないよ…。」


涙が次々と溢れてきて、止まらない。

思い浮かぶ千昭の顔は、どれも鮮明で…。

「もう…一年も…経つのに…。」

まだ一年しか経ってない。

「…走るって…約束…したのに…。」

1人でなんて耐えらんないよ。真琴は膝に埋めていた、涙でグシャグシャの顔を上げ、立ち上がった。

空を見ると、あの時のようなオレンジ色。
潤んだ瞳には、少々滲みる。


地面を蹴った。

今なら届く気がして。

草の生える坂道を一気に駆け抜ける。



会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい



走り抜けたスピードのまま、強く強く地面を蹴った。






会いたい…








激しく上がった水しぶき。

真琴の後ろでは小学生たちが唖然とした表情で川に飛び込んだ少女を見ていた。


川の真ん中に膝を突いたまま、立ち上がれなかった。


「飛べるはずが…ないじゃないか。」


自嘲めいた笑いがこぼれた涙に溶ける。

頬を滑り落ちた雫は、川に波紋をつくる。

「会いたいよ…。

千昭。」




絞り出した声と共に、またぽたりと水滴が落ちてゆく。

溢れてくる感情は、寂しいと心の中で叫び声をあげていた。










「あーあ…ずぶ濡れだ。」





後ろからの声に、真琴の思考が停止する。

自分は幻聴まで聞こえるようになったのか?

そんなはずないと思いながら、ゆっくりと後ろを振り向く。


「お前ってほんと無茶するよな。」


可笑しそうに笑った彼は幻だろうか?


一年前より少し大人びた彼は、それでもあの時の彼のものと一緒で。

信じられなくて立ち上がることもできず、呆然とただ夕日に染まる彼をみた。


しょうがねぇなぁと笑った彼は、濡れることもかまわず、川の中の真琴へと歩み寄る。

(…あたし…飛んだ?)

けれど視界に入る景色はさっきまでのままだ。

手を差し伸べる彼をまじまじと見上げる。
目がこぼれんばかりに開いて彼の顔を見て。目の前の彼は、あの時のように優しく笑う。


「髪…のばしたんだ?」


あの頃のように、話をする。

それでもまだ信じられなくて呆然としていた。


「真琴。」


名前を呼ばれた瞬間、びっくりして止まっていた涙が溢れてきた。


名前を呼ばれることがこんなに嬉しいことだったなんて知らなかった。


「なん…で?」


漸くでたのは喜びの声ではなく、それだった。

かわいげのない自分の問いに、彼は照れくさそうに、いいずらそうに笑った。


まるでいたずらがばれた子供のように。

「約束…破っちまった。

真琴に会いたくなっちまって…さ…。」


あの時左腕につけてたのと同じリストバンド。
それをずらした手首には、また新たに数字が刻まれていた。


「全部…捨ててきた。

真琴なしの未来は、やっぱりつまらないから。」

そっと抱きしめられた温もりは、あの時と一緒だった。


(あぁ…幻なんかじゃない。)

ぎゅっと彼の背中に手を回す。


「千昭…。」


ポツリと彼の名前を呟いた。


体を離した彼が、また優しく笑った。


「千昭あたし…会いたかったよ?

千昭…あたしね、」

千昭が好き。大好き。


ずっと言いたかった言葉をやっと言えた。

嬉しそうに笑った彼もまた、同じ言葉を真琴に告げた。


「俺も真琴が好きだ。
…ただいま、真琴。」

2人はお互いに頬に触れて、
あの時つらすぎて交わせなかった接
吻けを交わした。


遠くの方で小学生が茶化す声が聞こえた。
あの頃みたいに






君の頬が空の色をしていた





ハッピーエンド…だって映画が切なすぎる


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