千昭×真琴

現代の未来設定
二人暮らししてます



社会人となって数年。

少しでも会う時間が欲しいから…と自分が千昭のアパートに転がり込んで、だいぶたった。

最初は慣れないことばっかりだったけど、二人で協力して相談して…
そうして二人でなんでも乗りきった。

戸惑いから衝突することもしばしばあったが、今ではお互いのことを、以前より解り合えていると思っている。



そんなある日、


仕事からの帰宅途中に千昭からの着信。

内容は夕飯を外で食べないか?というもので
特に考えることもなく、自分は喜んでそれに応じた。

夕食は、千昭には珍しくお洒落な雰囲気で、もう少し可愛らしい服を着ておけばよかったと少しだけ後悔した。

絵の修復の仕事をしているため、仕事のときはだいたい作業のしやすい格好をしている。

それを千昭に言えば、別にそれでいいと笑われた。

なんだそれ?と思って千昭を見ると、なんだか今日の千昭はいつもと違く感じた。


何処が?なんて聞かれたらなんと答えていいかわからないが、でもどこかいつもの千昭と違ってた。

店の外に出ると、昼間のムッとした暑さは和らぎ、涼しい風が心地よく自分の短い髪を揺らし、目を細める。

「なぁ、真琴。」


横を歩いていたはずの千昭の声が後ろから聞こえ、真琴は立ち止まって千昭の方へ振り向いた。

二人の間には5メートルほどの距離。
何程の距離ではないが、真琴はやや小走りでその距離を埋めた。
もう何も怖がることなどないのにたまに不安が襲うため、あまり二人の間に距離を作ることが好きじゃなかった。


「何?」


一歩分くらいの距離の千昭の顔を見上げると、柔らかく笑って見下ろす瞳と目があった。

寄り道して帰ろう。と、千昭が手をとってアパートとは違う道へと歩き出す。

どこへ行くのか、聞いても千昭は答えずに「いいからついてこい」と笑って手を引く。
なんだろうかと思いながら歩く道は、気づけばあの頃よく通いつめた道。


「千昭?」


あの胸が締め付けられるような記憶が蘇る土手道を歩きながら、真琴は知らず千昭の手を強く握っていた。


あのときは、辺り一面茜色に染まる時間。
川を眺めながら二人で話して

別れを告げて…

泣きじゃくる私に彼は



そこから先は、今は不安を募らせるだけなので必死に頭から追い出した。


「真琴?」


ハッとして見上げれば、不思議そうな顔をしてこちらを覗き込む千昭がおり、それに「なんでもない」と必死に笑顔を取り繕って答えた。


しばらく歩いて突然足を止めた千昭に、真琴は顔を強張らせる。
そこはまさにあの時別れを告げた辺り。
嫌な考えばかりが巡るなか、千昭は土手へ降りて草の上に腰を下ろした。


「千昭…;?」


不安げに呼ぶ自分を振り返った千昭が笑って手で招く。

渋る真琴に、もう一度声をかけて隣に座るよう真琴の手を引っ張った。

腰を下ろすと、まさしくあのときのよう。
違うのは二人とも大人で、空は星が輝く群青色。
聞こえてくるのは、子供たちの楽しそうな笑い声や蝉の世話しなく鳴く声でなく、柔らかい夜の虫の鳴き声。


「実はさ…話があるんだ。」

空を見上げた千昭の姿を遠く感じ、見ていられなくなって自分も空を見上げた。


もし…
もしまたあんな想いをするならば、タイムリープの装置を手に入れて、何度も何度も千昭が帰ってきた日からリピートするのに。
むしろ装置を破壊して帰れないようにしてしまえれば…。
そんなバカなことを考えてしまうなんて、何を自分はそんなに不安に思うのか…
そう自嘲しながら千昭の言葉を待った。

横の千昭をチラッと見れば、言いづらいことなのか口ごもったまままだ空を見上げている。
それがまた真琴の中で不安を増大させ、また真琴は吐き出したいほどの不安を胸に空を見上げた。

すると、空を一筋の光が走った。

(流れ星!)

それを見た瞬間、ギュッと目を瞑って必死に願った。

星などとっくに消えてしまったのに強く強く願った。

千昭が遠くに行ってしまいませんように。と

「真琴?」

はっとして横を見ると、驚いたように目を見開いて千昭が未だに空を見ていた。

「今の…見たか?」
「え?あ、流れ星…?」


その言葉に嬉しそうに笑って、星ではない、どこか遠くを見つめていた。


「あれが流れ星か。
初めて見た。」


それはとても嬉しそうに笑っていて、
少し切なくなる。

「真琴…あのな。」

その硬い声に、ギュッと握りしめた手に力がこもる。


「真琴に…伝えたいことがあるんだ。」

そう言って大きな手のひらが自分の拳を包んだ瞬間、真琴の心臓がギュッとなった。

「真琴…力抜けよ。」


苦笑した千昭の声に、おずおずと手のひらの力を緩めれば、そのまま手を引っ張られた。
「あ;!?」

引かれるままに後ろから抱き止められる。


「千昭?」

背中に感じる千昭の広い胸板から、バクバクと強い鼓動が聞こえた。

「なぁ…真琴。」

耳元で囁かれる名に、溜まらず瞼を閉じた。

「俺は本来なら、この世界に居場所がなかった人間だ。」

手を掴んだままの手と反対の腕を真琴の腰にまわす。


「けれど、お前が俺にこの世界での居場所を与えてくれた。
けど俺は、お前に何も与えてやることが出来ない。」千昭の言葉に、真琴は溜まらず首を左右にふる。


「そんなことない!一緒にいてくれればあたしは…」


フッと背後で千昭が微笑んだのがわかった。
頭にのせられた千昭の額は、真琴の頭を動かないように固定させる。


「じゃあ…一生側にいてくれるか?」

「え?」


言っている意味がわからなくて、千昭の顔を見たいのに固定された頭では振り返ることが出来ない。


「戸籍の無い俺とじゃ、結婚なんてできない。
いつまでたっても恋人だ。

それでも一緒にいてほしいんだ。」



驚愕に目を見開くと、解放された左手の薬指には、いつの間にか光るものが嵌め込まれていた。


「なに…、」
「お前とずっと…ここにいてもいいか?」


頭がついていかず、ただ暗闇の中で光るシルバーを見つめていた。


「真琴…?」


左手を解放したことにより開いた自分の左腕でも真琴のその細い腰を抱きしめる。
名前を呼ばれた真琴は、そっと指輪の光るその手を抱き締めた。


「…なんで…いきなりすぎだよ?」


動揺しすぎて頭の中が混乱していると、千昭にその無防備な頬へ口づけられた。


「千昭ぃ…?///」


困惑しながら突然そんなことをしてくる千昭を見上げようとすると、また顔が見れないように頭を押さえつけられた。


「ごめん、可愛かったからつい。」
「なんだとこのぉぉお!!?///」


ムッとした真琴は腰に巻き付いていた腕を振り払うと
千昭へと振り返り、芝生の上にその肩を掴んで押し倒した。


「!!////」


漸く視界に入った千昭の顔は夜目にもわかるほど赤く染まっていて、今まで余裕があるように振る舞っていた千昭が可愛く思えた。

「真琴…覚えてるか?////
…今日で二人で暮らし初めてちょうど一年なんだよ。」

「あ…
だから…今日なんだ//」

そう…今日のちょうど一年前、真琴は身一つで千昭のアパートに転がり込んだのだ。
離れてる時間が少しでも短いように。


「ねぇ、千昭。」
「ん?」


コロンと寝そべった千昭の横に転がり同じように寝そべれば、空がよりいっそう広く見えた。


「今日が
…二人の結婚記念日ってやつだね///」
「!」


目を見張って身体を起こしてこちらを見る千昭に笑って見せた。


「返事なんていらないでしょ?
私が千昭と居れることを選ばないはず無いじゃん。」

ニッと笑った真琴に、「それでも聞いときたかったんだよ///」と頬の染まった顔で千昭が苦笑して見せた。


誰もいない。
二人だけの結婚式

あの二人だけの思い出のある土手道のバージンロードで、星空の讃美歌のもと、

誰も認めてくれなくても、私はあなたのものになるとあなたに誓った。


よろしくね、千昭。

来年から、今日が私たちの結婚記念日









僕らは"未来"を誓った




もはや行き過ぎた自己満足(笑)


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