千昭×真琴






ひとり、未来へ帰ったときの虚しさは今も忘れることができない


だってそこには野球も自転車も友人もいなく


君と別れた夕焼けや
グラウンドから見上げる青い空や




あの中で泣いていた…

君がいない世界だけが広がっていた






そんな世界が我慢出来なくて帰ってきてしまった自分は愚かかもしれない

弱いのかもしれない





けれど…

だって

ここには君がいる


そう…"帰ってきた"



だって俺の帰る場所は

お前がいるここなんだから







「バカなヤツ。」




未来から帰ってきた俺を見て、第一声に真琴が放った言葉。


困ったように苦笑する俺に、もう一度同じ言葉を真琴は投げつけた。


涙でグシャグシャの顔してるくせに、
嗚咽で声が今にもひっくり返りそうなくせに、
それでも真琴はあの乱暴な言葉遣いで俺を弄りながら口角を上げて笑って見せた。




「約束も守れないのかよ?」

そうやって詰られようが、真琴の震える声を耳にして、帰ってきてよかったと心から思う。



「なぁ
…抱きしめてもいいか?」



男女を意識するような、そんなくすぐったい触れ合いなんてあの時の自分たちにはまったくなかった。
別れ際でさえもその壁は壊せなくて。



目の前の彼女は、真っ赤な顔で固まってる。
それが少しうれしい。
だって我慢してたんだ。



おんなじ制服着て過去に生きたあの日々も。


二人が夕焼けに染まった別れ際のあの瞬間も。



真琴がいない、虚しいだけの未来でも。





なぁ、いいだろう?

友達として触れてくるお前にドキドキと青臭く心臓打ちならしながら、あの頃も我慢してたんだ。

息ができなくなるほどお前を抱きしめて、

焦がれた体温を感じたっていいだろう?




俯いた真琴の頭が、僅かに前に傾いた。

耳が赤いのは、俺のことちょっとは意識してるって思っていいのだろうか?

最後に触れたときは、彼女の肩と頭だけだった。

涙で濡れる顔を、子供のように声を上げて泣こうとする真琴を、そのまま放って未来になど帰れなかったんだ。




「千昭…?////」




黙り込んでいた自分に、たまりかねたのか赤い顔の真琴が俺の顔を覗き込んでくる。

あぁ俺帰ってきたんだ。

嬉しくて自分の目まで潤みそうになり、それを誤魔化すかのように目の前の彼女をかき抱いた。




『会いたかった』とか『また野球したいな』とか『綺麗になったな』とか、言ってやりたい言葉がいっぱいあったはずだ。


けどどれも溢れ来る感情に、喉元まで上ってはみな打ち消されてしまう。





「千昭、痛いよ///」




泣いた声に、情けなくもただ頷いただけの返事。

もし今あのメガネをかけた親友がいたら、笑ってからかうかもしれない。

でもいい。
なんだっていい。

だって今この腕の中に真琴がいる。




「千昭、なんとかいえよー///」




俺の胸元にある濡れた感触がまた広がったのを感じた。



必死に喉に力を込めて震えそうな自分の声を押さえようとして、失敗した。



最後が掠れてしまったのは、たぶん彼女の耳にばっちり届いてしまっただろう。


でもいい。
もうそんなのどうでもいい。




だって今この腕の中に真琴がいて、その彼女に



「ただいま」



と言えることができたんだから。







おかえり、と笑った彼女に





ともう一度呟いた。







帰ってこいよ(涙)



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -