千昭×真琴
未来設定 真琴出ません




どんなに声を張り上げて泣いても

声が掠れるほど名前を呼んでも

何もない空間に向かっているようにただむなしい。





…あぁ…あなたに会いたい。

どんなに時がたとうと

あの頃の思い出は、その感情ばかりを呼び起こす。









どんなに素晴らしい歴史を学んでも

どの世界へ行っても

君がいた時を思い出す。

あの時が…

僕の中で一番だったんだ。








何もない世界。


それが俺が生まれ落ちた世界だった。

汚れきった世界は、人が住めないほど疲弊していた。

地下へと潜った人間たちの中に、あの広く青い空を知る者はどれだけいるのであろうか?





過去の世界では、溢れるほどの人間たちが暮らしていたのに…

自分の周りには親以外には少数しか人がいない。

同じ年の人間など、1人として知り合いにはいなかった。

今の人間たちの生きる支えとなっているコンピューター。

最近日課のようにチェックしていたある博物館の紹介を見る。

そこで現存する美術品を見て、息がとまったようだ。



「あった…」



喜びで呟いた言葉の語尾が震え、溢れ出した気持ちがあの頃の記憶を呼び起こす。




あいつは約束を果たしたのだ。



喜びと期待を抑えられず、その日のうちに、博物館へと向かった。




逸る気持ちは足を急がせ、
「自転車があればなぁ…。」
と思ってしまう自分に苦笑を漏らした。

人工の空が広がる地下空間に出来た都市の中に佇む、四角く大きな建物。

料金を払って、走りたい気持ちを抑えながら速歩きでただその絵を探す。


常設展には無いらしく、更に奥の特別展のフロアへと足を運ぶ。


他にも古の時代から引き継がれた遺産が、幾つかその原型を残して置かれていた。

更に奥へと進み、千昭はある場所で足を止めた。


「っ…。」


ガラスの向こうで微笑む女性の肖像画。
その笑顔に、似ても似つかぬ少女の笑顔が重なった。


「ありがとう…真琴。」


ガラスケース越しにその絵をなぞり、誰に聞かせるでもなくその言葉を呟いた。

しばらくその絵を眺めて、ふとその下に書かれた説明書きが目に入る。





「『数年前…絵の裏と台紙の間からメモ書きのような紙が発見された』?
メモ書き?
『メモは取り外して絵の横に展示。』
…?」


説明書きを読んでいた目を、絵の横に展示された黄ばんだ紙へと向けて目を見張った。

「っ…!

ぷ…あのバカ。」


苦笑して、ため息のように呟きその文面を見た。


その…

メモ書きと言うよりは
手紙のような走り書きを。

癖のある字に、懐かしさが込み上げる。




『千昭

元気にしてる?
君へこの絵は届いたかな?

私はただ、あなたに会いたい。』


差出人は書かれてはいなかった。

バレたらまずいからか…ただ書き忘れたのか。
彼女との日常を思い出すと後者のように思えて可笑しい。

可笑しいのに、涙が溢れそうになる。
顔を覆ってこぼれそうな雫をこらえた。


「元気だよバカ…。

俺だって…会いてえよ。」

時が…歴史が許すならば、今すぐあの時代へ帰って彼女を抱きしめたかった。


ただ…いつまでも彼女の記憶の中に居れたことが嬉しかった。


いつまでも想ってくれていたことを知って、苦しくなった。



「同じ時代に生まれたかったよ…。」


その手紙に微笑んでそれだけ囁くと、背を向けて博物館を後にした。

博物館を出た瞬間に溢れ出た涙を、千昭は拭うことなくただ真っ直ぐに歩いた。


またひとつ自分の中に刻まれた彼女の言葉を噛み締めながら。









真琴なら文化財だろうとそんな無茶をやらかしそうな気がした(笑)




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