堂郁
夫婦




図書館の児童書のコーナーは、10月に入りオレンジ色のカボチャの装飾が施されている。
特設コーナーにはハロウィンに関する絵本や書籍が、和図書のみならず洋書なども並んでいる。

ハロウィン当日には子供向けの催し物が行われると親友の柴崎が言っていた。
催し物では仮装をしてきた子供にはお菓子を配るらしい。


(いいなぁ…。楽しそう。)


館内警護で辺りを見渡しつつ、郁は少し羨ましそうに児童書コーナーを眺めた。

「こら笠原、ちゃんと仕事しろ。」

呆れた様子の篤が、旧姓で呼びつつ頭を小突いた。

「す、すい…「笠原ー!!」

小突かれた頭を抑えつつ、謝罪をしようと振り返った郁の腰に何かが衝突した。

「どわっ!?;」

間抜けな声を上げつつ下を見ると、自分や堂上よりも背の低い、長い黒髪の親友が自分に巻き付いていた。

「柴崎ぃ;?」
「もうすぐお昼でしょう?
今日一緒に食べない?」

睨む郁をスルーしてとりあえず謝らないのは柴崎らしい。
そんな親友に馴れている郁は、呆れつつもそのまま話を続けた。

「いいけど…」
「じゃあ警護の引き継ぎしたら食堂よ?
って事でお昼このこ借りますね。旦那様☆」

にっこり笑った柴崎に、堂上はもう何の言葉も出てこなかった。






「で?なんか用でもあった?」

本日のAランチの唐揚げをつつきながら、郁は目の前に座る麻子を見やった。

「まぁ…用って程ではないんだけど、あんたハロウィンの日って公休よね?」

温かいうどんを箸でつかみ、ふーっと息を吹きかけると麻子はそう切り出した。

「公休?
…あーそうだけど…それが?」

「毎年なんだけど…人手足んなくて。
あんたハロウィンの飾り付けいつも羨ましそうに見てたでしょ?だから手伝って欲しいのよ。
お昼の時間だけでいいから。」

その言葉に、郁の目が輝く。

「やる!
むっちゃ楽しそう…。ハロウィンって何やるの?」
「まぁ…遊びにきた子供たちにお菓子やったり紙芝居や絵本の読み聞かせしたり、レクリエーションしたり…仮装したり。」
「仮装!?」

それまでウキウキしながら聞いていた郁の目が見開かれる。
郁の頭の中に瞬時に出てきたのは着ぐるみやヒーローの衣装だった。

「可愛いだろうなぁ…仮装した子供…。」

目尻を下げながら言う郁に、汁を飲む麻子は呆れたように言い放つ。

「あんたもすんのよ。」

「へぇ…。
…Σえぇ;!?」

味噌汁にむせながら叫んだ郁の声は、レファレンスをしていた麻子の事業部仲間の耳にもはっきりと届いたという。





朝、目を覚ますといつもあるはずの体温が横になく、篤は寝ぼけたままの頭を起こした。

「…。」

そういえば、先日せっかくの公休に柴崎の手伝いをすることになったと言っていた。
何をするのかと思えば、子供向けの企画の手伝いらしい。

昨日も寝る前に絶対来るなと言っていたが、そう言われて行きたくなるのが人間である。

時計を見ると、10時ぐらいだった。

「…借りたい本もあるしな。」

誰に聞かせるでもなく言い訳を呟くと、篤はシャワーを浴びに、バスルームへ向かった。






「…柴崎…。」

ロッカールームで、郁はこの上なくローテンションで友人の名を呼んだ。

「んー?」

呼ばれた麻子は、鏡に向かって魔女の帽子の角度を直している。

「あたし…足出すぎじゃない?」

郁が想像していたのはカボチャのお化けやフランケンシュタインだ。

「いいじゃない?あんた足綺麗なんだし☆
だいたい黒タイツ穿いてんだから文句言わない。」

そう言われた郁の姿は、黒猫だ。
ちなみに短いパンツの上は、しっかり長袖だ。

「あ、忘れてた!」

そう言った麻子が笑いながら郁の首に結んだのは、小さな鈴のついたリボン。

「…;」

呆れた郁には、もう逆らう気力が無かった。

廊下に出ると、とても大きな緑色の怪獣がいた。

「うわっこんなのもいるの?」

その姿に瞳を輝かせた郁だが、怪獣が振り返った途端小牧なみの上戸に入った。

「笑うな(怒)」
「ご…ごめ…手塚…ぶっぷぷーっ!!」

不機嫌な手塚だが、着ぐるみのせいで全く怖くない。

カシャ
「!!」

そんな2人の姿を、麻子は当たり前のようにカメラに納めていた。

「「柴崎!!!」」

怒る2人の声に耳を塞ぎながら「売れるんだもの」と可愛く笑った柴崎を見て、魔女の扮装がとても似合っていると2人は心底思った。

「さ、行くわよ☆」

と先導する柴崎に続き、児童書のコーナーに来たときである。

「ねぇ…笠原。」
「なによ?」

早速飛びついてきた子供たちにお菓子をあげつつ、麻子は横の郁の腹を肘で小突いた。

「あんた旦那様呼んだの?」
「?呼んでないわよ。」
「いるわよ。」
「Σ!!!??;」

麻子の言葉に一気に血の気の失せた顔で郁は固まった。
つんと麻子がつついても郁は固まったままだ。

「笠原ー?」

ハッとしてなんとか首を巡らすが、ギギギと音がするのではないかと思うくらいその動きはぎこちない。

見ると、郁を探しているらしい私服姿の篤が辺りを見回していた。

隠れようと思ったとたん、バッチリ重なった視線にほんの少し恨めしく思った。
視線が合った途端固まった篤に、正直郁は頭を抱えたくなる。

(恥ずかしすぎる;///
絶対呆れてるよー;)

なんと声をかけようかと頭の中をごちゃごちゃさせていると、篤の方から郁へと早歩きで歩み寄ってきた。

「あ、あつ…
!!?」

郁の側まで来ると、篤はいきなり郁の腕を掴み、横で傍観していた柴崎の方へ顔を向けた。

「こいつ借りるぞ。」

「え!!?」

篤の言葉に目をむいた郁だが、言われた麻子は心得ましたとばかりににっこり笑って連れて行かれる郁を見送った。

「仲良しねぇ。」
と呟いて。





裏の職員だけが入れる廊下に来てすぐ、篤は足を止めた。

「…篤さん…?」

見上げた後ろ姿は、返事を返さない。
よく見れば耳が赤くなっている。

「!??あつし…」
「なんて格好をしてるんだお前は…。」

そう言われて自分の姿を改めて見直す。
頭には自分では見えないが猫の耳もついている。

「えっと…黒猫///」

恥ずかしさを紛らわすように髪を手で梳くと、首についた鈴がチリンと音をたてた。

「そんな格好で人前に出るな。」

不機嫌そうな声で、篤の眉間にしわが寄っているであろうことが郁には想像できた。

(お、怒らせた…;?)

恐る恐る脇から郁が篤の顔をのぞき込むと、ほんのり頬を染め、やはり眉間にしわを寄せた篤と目があった。

「篤さん…怒ってる?」

篤より背が高いはずの郁だが、しゅんと背を縮めているせいか、上目遣いで篤を見つめる。

「…///
お、怒ってなんかいない!!;」

「ホント?」と問い直すように小首を傾げた郁に、篤は答えずに手を伸ばした。

首に巻かれたリボンを引き、瞬時にその唇を奪って離れる。

「あ、篤さん///
こ、ここ職場だよ;!!!///」

真っ赤な顔で慌てる郁に、ニッと笑って見せた。

「菓子をやらんと…
イタズラするんだろう?」

「ふぇ?」

満足げにほくそ笑んだ後、篤は再び眉をしかめて郁を抱きしめた。

「…このまま帰るぞ。」
「え!?ちょっ仕事!!;」

慌てる郁だが動くなと言うかのように篤はぎゅっと抱きしめる腕に力を込めた。

「…んな格好他の奴になんか見せれるか!!」「篤さん;//」

「じゃあこれならいいかしら?」「「;!!?」」

突然いるはずのない声が聞こえて固まった篤がゆっくり振り返ると、女性用の黒のデニムのパンツ。
その後ろから顔を出したのは、黒装束の可愛らしい魔女。

堂上夫妻はなにも言わずバッと身体を離した。

「し…柴崎。」

「連れて帰ろうとするんじゃないかなぁっと思って来てみて正解でしたね。
これなら脚でないからいいですよね?」

広げられたパンツは、膝下までの七分丈。

「し、柴崎!?///
そんなんあるなら先に出しなさいよ!!」

怒りながら言う郁に別段気にする様子はなく、麻子は「だって言ったら穿いてくれないでしょ?」と言って郁にデニムを差し出した。

「穿いたらすぐ来なさいよ?
今手塚ひとりでガキンチョどもの相手してるんだから。」

そう言って笑うと、柴崎はとっとと戻っていった。

「…邪魔して悪かった。」

少し頭が冷めたらしい篤は、ため息をつき郁の頭を撫でた。
少ししゅんとした篤にクスッと小さく笑うと、郁は篤の手をそっと握った。

「後で…2人でハロウィンしない?
ハロウィンていうよりは…カボチャのお菓子作ったり…美味しいもの食べたりするだけですけど…。」

また上目遣いで恐る恐る篤の様子を伺うと、優しく笑った。

「楽しそうだな…。」

その言葉にホッとした郁は、にっこり笑うとパンツ片手にロッカールームへと歩き出す。

「あたし、篤さんとハロウィンしたかったの!!
絶対ですよ!?」

振り返ってへへっと笑う郁に篤はうなずいて見送ると、今日の夕飯のメニューを考え始めた。




結局…
2人のハロウィンパーティーは柴崎・手塚・小牧・毬絵が加わり6人のパーティーとなり、2人きりの時間は過ごせなかった。

けれども楽しそうに笑う郁を見て、篤は「これもいいか。」と笑うのった。


Halloween day






ハロウィンな時に書いたんだぜ…
これ以来、篤は猫好きになったという(←


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