手柴
付き合ってから




「いやー、ホンッッッッッッットくっついてよかったわよねぇー?」

食堂の椅子に腰掛けながら、郁は目の前の仏頂面の同僚に内心で祝福しつつからかった。

「お前…殴られたいのか?
…柴崎に。」

もちろん自分がやったら、目の前の同僚の旦那である上司に返り討ちにあうと思い、報復を誰もが文句の言えない彼女に任せた。
言われた郁は、多少引いたがそれでも嬉しそうに笑っていた。

「あら、手が痛くなるもの、殴んないわ。
「Σ柴崎。」
蹴るわ。」
「Σ;!!?(怯)」

にこっと可愛らしく笑った柴崎が、本気で恐怖を感じた郁の横に腰を下ろす。

「あれ?隣間違ってない?」

それでもめげずにからかう郁に、柴崎はちらりと目の前の手塚を見た。

「あら、あたしの一番は笠原だもの。」

ガタン

大きな音を食堂中に響かせて勢いよく立ち上がったのは手塚だ。
ぽかんとそれを見る郁を見て、我を取り戻した手塚は静かに再び席についた。

くっくっくと笑い出す郁を怒りを込めて睨んでから柴崎を見て手塚は思考が停止した。

黒い瞳をユラユラさせて、瞼を見開き白い肌に朱を走らせる。

「あ、麻子…;?」

驚きの余り、2人きりの時にしか呼ばない下の名前を呼んでしまい、柴崎はさらに真っ赤になった。

「ばっばか…////」

手塚も郁も、想像していた柴崎の行動は、いつものようにはぐらかすか、郁と一緒になって手塚をからかうかだった。
それが今回に限ってその辺にいる女の子…強いて言うなら、中学生や高校生のような初々しい反応で、2人は大いに戸惑った。
が、しかし

(かわいい…///)

初めて見た麻子の姿に手塚はドキドキしていた。
何より柴崎自身が驚いていた。

(な、なにを狼狽えてるのよ…いつもだったら軽く流せた話じゃない///;
光も光よ!!!;)

ぐっと真っ赤な顔でにらむ柴崎に、手塚は後ずさった。
睨んだ目の恐ろしさにではなく、普段とはあまりに違う麻子のかわいさにだ。麻子に魅入っていた手塚は、ふと麻子の横を見ると、麻子をじっと見つめる郁の姿に気づいた。

(こいつ…考えてること顔にですぎ;)
(柴崎…かわいぃ///)

そしてはっとした手塚は、遠巻きに眺めてくる男どもの無数の視線にも気づいた。
恐らく柴崎のファンも多々含まれているであろう。
気づいた途端、手塚はまた席を勢いよく立ち上がった。

「えっちょっ手塚;!!?」

回り込むのも面倒だ!と、手塚は郁が目をむくのを後目に、テーブルの上を軽々飛び越えた。

「は;?!!!////」

麻子は自分の体が硬直して仮死状態みたいだと思った。
突然目の前に飛び込んできた手塚の後、視界が深緑色の隊服でいっぱいになった。

(なに!?なによちょっと??///)

言葉が出てこない。
わけがわからない。

それは横にいるであろう郁も同様らしく、狼狽えてる声が聞こえる。

ふと、手塚の低い声が麻子の耳元でぼそりと呟く。

「ちょっとこい。」

「は;!??///」体をいきなりはなし柴崎の手を掴むと、手塚はそのまま無言で食堂を後にした。

呆気に取られてなにも言えない郁を、1人食堂に残して…。





「ちっちょっと!!
どこまで行くのよ;!?///」

連れてこられたのは、誰もいない倉庫裏。
「…。」
「手塚?」

何も言わない手塚を不審に思って前へと回り込むと、真っ赤な顔で黙り込んでいた。
「…光?」

下の名前を呼ばれ、手塚の体がぴくりと反応を示す。

「どうしたの?」

優しく問われ、ますます恥ずかしくなったのか、今度は片手で顔を覆った。

「すまない…/////」
「だめよ。それだけじゃ許さないわ。
どうしてこんなとこ連れてくるのよ?」

顔を覗き込みつつ、無回答を許さぬ声で言うと、早くも観念したのかポツリと呟く。
「見せたくなかったんだよ////」
「は?何を?」

自分に何か見せたくないものでもあったろうかと食堂の風景を柴崎は思い出す。

「…麻子のあんな…
…かわいぃ…顔他のやつに見せたくなかったんだよ/////」「は!!!????/////」

瞬間的に再び麻子の顔が真っ赤に変わる。

未だに繋いだままの手から、手塚の熱が伝わってくるようだった。

今度こそそっぽを向いた手塚の耳といわず首筋といわず。
外気に晒されている肌という肌が真っ赤に色づいていた。
それは麻子も一緒で、繋がれた手の熱はもはやどちらのものかわからないくらいだった。

(な、なんでこんなにあたし動揺してるの?)

可愛いだなんて今まで何千回何万回と聞いてきた。

いくら言われようと、顔が赤くなることも、動揺することもなかったのに。

何故…

(光…だから?)

だから恥ずかしいけど
嬉しいの?

そっと…空いている広い胸に、今度は自分から寄り添う。

「麻子?」

下の名前を呼ばれるのが、恥ずかしいけど嬉しいのも、光だから?
背の高い光の胸に顔を埋めれば、またしっかりと抱きしめられた。

(うん、やっぱり///)

抱きしめられて、恥ずかしいけど嬉しくて幸せなのは

やっぱり相手があなただから。

大好きな光だから







まさかここまで骨抜きになるとは思わなかった。




迷走作品(笑)
半分ギャグの域(笑)






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