堂郁+(手)柴

堂郁結婚前





幸せそうに笑って
そうやってあなたは去っていく

せっかく初めて心から大好きと思えた親友は、
こんなにもあっさりとあの人で胸をいっぱいにして
あっさりと奪われてしまった。





それはあまりにも突然だった。


…強いお酒が欲しいわ。
焼酎…いいえ、泡盛がいいわ。



気まずそうな微妙な空気を纏って出かけたルームメイトは、翌日ご機嫌な顔で帰ってきた。
どうやらずるずると長引いた痴話喧嘩の仲直りはうまく行ったようだった。


「よかったわね。」と優しく、ほんの少しからかいを交えて言うと、
「ありがと。」とかわいらしい笑顔が返ってくる。

「いいことあったのかしら?」
「わかる?」
「そりゃわかるわよ。
帰ってきてからずっと気持ち悪いぐらいにやついてるんだもの。まぁ勝負下着も役に立ってよかったじゃない?
プロポーズでもされた?」

ほんの冗談。からかうつもりで吐いた言葉。
でもルームメイトの、郁の顔は真っ赤になって、いつもはうるさく吠えるその口が、戸惑ったようにもごもごしていた。

(あぁ…当たったのね。)

解りやすいこだわ…。
そう思ったその瞬間、ほんの少し寂しく思ったけど顔になんか出してやんなかった。

「笠原が嫁ねぇ…。」
「な、なによ///」
「似合わないわぁ。
エプロンつけて、ご飯作って『あなた、お帰りなさい。
ご飯にする?
お風呂にする?
それともあたし?』とかゆってたら小牧教官と組んで監視カメラつけて笑って見てたいわ。」
「ちょっとぉ!!
他に言うこと無いの;!!?///」

顔が赤いままながらも、いつもの調子に戻った郁をみて小さく笑った。

じゃあ…あんたはここを出ていくのね。

会おうと思えばいつでも会えるのに、もう帰ってきてもルームメイトのこっぱずしい恋愛話が聞けないと思うと、こんな自分でもやっぱり寂しく思うらしい。
そんな気持ちを誤魔化したくて、先ほど洗濯機に放り込んだ洗濯物を取りに行こうと、むくれる郁に声をかけた。





「堂上教官。」

営業部の仕事の合間に図書特殊部隊事務室へ向かう途中、見慣れた小ぶりな背中を見つけて声をかける。
小ぶりとは言うが、声をかけた柴崎からすれば大きい。
しかし普段周りにいる人間がみな大柄なせいか、小ぶりに見えた。
人間的にはとても大きく感じられるのだが…。

「?
柴崎か。」
「あら、笠原じゃなくて申し訳ございません。」

からかう口調の柴崎に、堂上がお前なぁ…と呟きため息をつくと、給湯室で入れてきたマグカップのお茶を口に含んだ。

「今度の公休は笠原のご両親にご挨拶ですか?」

横で思いっきり茶を吹き出した音がしたがかまわず話を続ける。

「なんて言うんですか?
娘さんを僕にくださいとか?
まぁ無難ですけど、間違ってもお父さんを僕にくださいとかいう下手な間違いはやめてくださいよ?
そんなことしたら小牧教官に即言いますから。」

堂上がむせながら睨むと、何も知らない人間が見たら一瞬にして心を奪われてしまいそうな極上の笑顔。

「結婚式はチャペルですか?それとも神前婚…?
教官はタキシード似合わなそうですもんね。」
「柴崎…。」

いつもいじめられるのは郁や手塚なため、堂上をからかうのは珍しい。
しかし堂上には言葉の端々に明らかな悪意があることを感じ取れた。

「笠原ウェディングドレスなのにヒールのやつはけませんね。」

「柴崎いい加減に…」
「幸せにしてやってくださいよ?」

さっきまでのからかう声音は、いつの間にかまじめなものに。
突然で戸惑った堂上だが、まだ言い足りなそうな柴崎の話を黙って聞くことにした。
「まぁ…あいつは教官のこと大好きなんで幸せでしょうけど、その幸せ壊すようなことはやめてくださいよ?
あいつバカだから、自分でみんなため込んじゃうかもしれないんで。」

「それは心配ない。
俺が郁じゃないとだめなんだ。」

まじめに返す堂上に、よかったと思う反面、面白くなくてまたいじめたくなる。

「知ってました?
笠原の写真が男子寮内でかなり出回ってるんですよ?」
「んなっ;!??」

固まる堂上を見てニヤリと笑うと、そのまま石になった教官を残して事務室に向かう。





「…俺の上司あんまりからかうなよ。」

廊下の角を曲がると、笠原よりも高い長身の同期。
「あら、盗み聞きだなんて無粋なマネいつからするようになったのかしら。」

そのまま去っていこうとする柴崎に、手塚は難なく追いついて返す。

「お前は嬉しくないのか?
うらやま…」
「違うわよ。
そうじゃないわ…。

…慣れてないのよ。」

背を向ける柴崎の表情はわからない。

「あいつがいることに慣れすぎちゃって…
これから先、あいつの相談とか…のろけ話とか…帰ってきてもお帰りとか…聞けないって思ったら」
「寂しかった…?」

そっと柴崎の頭に、大きな手がのせられる。

「Σぐふ;!!?」

自分の顔を見られたくなくて柴崎は手塚の胸に突進するように押し付けた。
いくら鍛えている手塚でも、不意をつかれてはへんな声がでる。

「お前は…;

…これからだって会えるだろう?
…お前があいつの一番の友達じゃないのか。」

慰めるだなんて慣れないことをしてる手塚に、いつもどおりの声音の反論が返ってくる。

「あんたの慰めなんかいらないんだから。」

それがあんまりにも柴崎らしくて、でも小さな子供が拗ねているように思えて小さく笑う。

「悪かったよ。
今日昼一緒に行かないか?」

ちょっと下心を持ちつつ、汚い手だが弱っている柴崎に言ってみたが、鼻で笑われ少しへこんだ。

しかし小さな声で、
「あんたの奢りなら行ってやらないでもないわ。」

と返ってきて、こんどこそ手塚はおもいきり吹き出した。




「じゃぁ行ってきます!」

玄関でいつもよりやや可愛らしい格好をした郁が柴崎に小さく手を振る。

「いっといで。
後でまたいろいろ聞かせてよ。」

チラリと郁の横に立つ男に一瞥をくれると、明らかに眉間にしわが寄っている。
仲良く手をつないで去っていく2人を見て、あまりの微笑ましさに気づけば笑っていた。

「なんだ見送りか?」

いつの間にいたのか柴崎の背後には手塚が立って、まだかすかに見える2人の仲のよい後ろ姿を柴崎同様眺めていた。

「…寂しいだなんて馬鹿げてたわね。」
「そんなことないと思うぞ。」

「そうじゃないの。
昨日なんかいいことあったのかさんっっっざんのろけ話聞かされた後、『あたし柴崎んとこにたまに泊まりに来てもいい?』とか抜かしたのよ。
ウザイったらありゃしないわ。
そんな話聞かされるくらいなら泊まりくるたんびに酒のまして潰して旦那に宅急便で送りつけてやるわ。」

このまえのしおらしさなどどこへ行ったのか、ふんと鼻を鳴らして腕を組む彼女はいつもの姿だ。

「…立ち直ったならいいけど宅急便て…
お前悪魔か?」

ちょっと笑いを堪えつつ言う手塚に、柴崎は勢いよく振り返ると、

「あんたがダンボールにつまった笠原送るのよ。」

と言い捨てて部屋へと歩き出した。
「はぁ!?
あ!ちょっ…。」

そんなものを押しつけられては困る!と、去っていく柴崎を呼び止めようとしたが、手塚はそのまま彼女を見送った。

「…よかったな。」

「寂しい。」だなんて珍しくも弱音を吐いていた背中は、彼女がまだ自分を頼りにしていると知って嬉しそうだった。

いつになったら自分は友人であり、同じ隊の仲間であるあいつに勝てるのであろうか。
そう考え1人笑うと、今日1日自分同様暇になったであろう彼女の携帯に、暇を潰すべく電話をかけた。面と向かってはあの照れ屋が受け入れてはくれないだろうと思ったから。





麻子が郁大好きだと嬉しい(笑)




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