手塚夫妻(プラス堂上夫妻)







一昨日からここ、関東図書基地のある武蔵野第一図書館周辺は雪が降り続いていた。





「積もったわね!」

そう窓辺に立つ手塚の後ろから嬉しそうに声をかけたのは、同期で唯一の図書特殊部隊の堂上郁。


「お前…寒くないのか?」

見ると、上着など着ておらず、普通のスーツのままだ。

「へ?なんで?」


不思議そうに返してくる郁に手塚はため息を思い切りつく。

「あのなぁ今から…」

説明をしようとした手塚の声に、被さるように後ろから大声が聞こえた。

「笠原!まさかそれで外の巡回に行くつもりか!?」

その声が聞こえた途端、もし目の前の同期に尻尾が生えていれば激しく振っていたであろうと思われるくらい目を輝かせる。


「あつ…堂上教官!
…えっダメですか!?」

「アホか貴様;!!
…ったく、もういいわかった、これを着てけ!」


そう言うと、篤は持っていた黒いコートを渡してさっさと自分の持ち場へと帰っていった。

さすがにこの寒さの中スーツだけでは風邪をひくであろう。

「ぶ、ぶかぶか。」

いくら身長が高くても、華奢な郁には体のゴツい篤の上着では幅が余る。


「でも温かい…。」

ふわりと笑った顔が、手塚の中で誰かと被った。

「ほら行くぞ。」
「わっ待って;!!」

頭の中に浮かんだその顔をなんとか消すと、郁を置いてサッサと歩き出した。







足を踏み出す度にギュッギュッと雪が圧縮される音が聞こえる。

利用者が通る道は、一通り雪かきがされているが、巡回はそれ以外の道も通るため雪の中を踏みしめていた。


「ねぇ、もうじき終わりじゃない?」


そう言われて腕時計を見ると、郁の言うとおり外巡回の時間はあと数分だった。

今日の任務はこれで終わりなため、あとは報告をして着替えて帰るだけだ。


「今日も平和に終わったわね☆」

「おい、まだ終わってないんだから気を抜くなっ」

忠告をしようとした手塚の顔に衝撃が襲う。

「…笠原…?(怒)」

顔についた雪を払いながら彼女を睨むと、ニヤッと笑った郁。

「時間は終わったわよ?」

そのほくそ笑んだ顔に、珍しくカチンときた。

「いいじゃない?こんなに雪つもることっ…
やったわねー!?(怒)
顔を狙うなんて!」

自分のことは棚にあげて怒り出した郁は、またも雪玉を作って投げてくる。


それを避けながら、手塚も負けじとギュッと堅く握った雪玉を郁へと中ててゆく。

「いだっ!!
もーっ避けるなー!!」
「お前…射撃の腕も悪かったけど、そう言うのダメなのか?」


からかう手塚の言葉に、さらに腹を立てた郁は次々と雪を投げていく。
しかしその行動を止めなかったことを手塚は直ぐに後悔した。


「貴様等何をしてるんだ!!!?(怒)

ぶっ」

「あ、どどど堂上教官!!;」


郁のめちゃくちゃに放った雪玉のひとつが見事にあたった篤の顔は、雪でよく見えないが、醸し出す怒りのオーラでその雪が溶けそうだった。

横に立つ小牧が必死で笑いをこらえているのが見えた。


「…貴様等…報告もしないで随分と楽しそうだな?」

わなわな震える拳に、さすがに手塚も肝が冷える。
が、しかし…篤は根っからの苦労人であった。



「おぉ!?楽しそうだな!
よーし、お前ら!この俺が相手だ!!」

そう言って篤の背後から現れたのは図書特殊部隊の頭である玄田一監。

彼が出てきてしまったため、もう篤の頭のなかには2人をしかることはなくなってしまった。

それどころか玄田をなんとか止めないといけなくなったのだが、騒ぎを聞き付けたのだろう、事務室から出てきたノリのいいような悪いような先輩たちまで雪合戦に参戦してしまったため、篤は止めることを放棄した。小学生の時以来の本気の雪合戦に、ハシャいだ図書特殊部隊は、結局業務時間後一時間半になって戦闘を終わらせた。

もちろん篤も参加していたが、ほとんど郁を守っていただけだ。





「お疲れ様でしたー。」

そう言ってみな次々と帰って行く中、更衣室で着替えたあと、帰る方向が一緒の堂上夫妻と並んで官舎へと帰る。


「まったく…お前らはいくつだ…?」

疲れた顔をした篤の言葉に目を泳がせつつ、郁ははぁ…とかじかむ手に息を吐いた。

「わぁ…手が真っ赤。
手袋しときゃよかった。」

その言葉に、篤はポケットに突っ込んでいた手袋を郁に渡す。

「使え。」
「え?いいよ、篤さん使って?」
「いいから。」
「ありがと…///」


そのやりとりを間近で見ていた手塚だが、普段から2人のいちゃつく姿は目にしていたため、慣れていた。

むしろそれを目にする度に彼女に会いたくなる自分の方が少し照れくさかった。

お互いの玄関の前で別れて、自宅のドアの鍵を開ける。


ガチャリとドアを開くと、廊下の向こうからパタパタと走ってくる音がした。

「お帰りなさい、遅かったわね。」




顔を上げると、少し怒った風のエプロン姿の妻。

「ごめん、…その…。」

帰るのが遅くなった理由が雪合戦して遅くなったなど、とてもじゃないが恥ずかしくて言えない。

明日になれば、この妻にはすべてわかってしまうのであろうが…


「いい年して雪合戦だなんて…」

「へ?」


どこまで情報が早いのか…と思っていると、
「帰る途中で見かけたの。」
とのことだった。

怒っている風な顔は、笑いを堪えていただけだったらしく、我慢できずに吹き出していた。


「手、出して?」

そう言われて差し出せば、そっと包まれる。

「冷たい…」


と呟くと、麻子ははぁっ。と息を吹きかけた。

ふわりと今度は頬を包まれると、また「冷たい…。」と困ったように呟く。


それが少し気恥ずかしくて、目をそらすと、呆れた声で笑われた。


「まったく…子供みたい。
ほら、お風呂沸いてるから入ってきて。」

ちらりと見て、その可笑しそうに笑った彼女と目が合う。つき合う以前など、一切自分には見せなかったその柔らかい笑みが、今は自分にだけ向けられていることを思うと嬉しかった。

「光?」


首を傾げる麻子に、苦笑混じりの笑みを向けると、少し水が染みて冷えきっている靴から足を抜き、漸く玄関へと足をあげた。


「風呂貰うよ。」


その答えに頷くと、麻子は光の上着と鞄を持って奥へと向かう。

それを黙って見送れずに抱き止めてしまう自分も、お隣の同僚夫妻に負けないくらいいちゃついているのだと思い、また少し照れくさく思った。


「もぉ、光ー?///」

実は以外にウブな面のある麻子が恥ずかしそうに自分を見上げるのを、光は笑って抱きしめた。



「一緒に入るか?」


とか囁いて彼女をからかって。




冷たい指


二人で温め合うのもいいんじゃないかと思うんだ。




手塚と郁がじゃれあってるのってほほえましいな…と思ってね。




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