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※平和次元


「あの馬鹿は警戒心が無さ過ぎる!泣き虫でひ弱でぽやぽやしてるくせにすぐにふらふらと何処かに行くし知らない奴の話に真剣に耳を傾けていたりするしその割には俺が注意しても直らない!昨日だって俺の部屋でぐーすか寝ていたんだぞ!幼馴染みとはいえ!男の部屋で!無防備にも程がある!!もう少し警戒心を……おいユート!聞いているのか?!」

人の部屋の扉を荒々しく開けて早々一息でこう言った親友に俺はため息を吐いた。
隼は彼の妹の瑠璃と幼馴染みの名前の事に関してはとても面倒臭い。特に名前の愚痴については3日に1回は聞いている気がするしその度壊れんばかりの勢いで俺の部屋の扉を開けるのでそろそろ本当に扉が壊れる可能性がある。実際のところ最近扉が少し歪んだらしく開きづらい。

「で、その名前は今何処に居るんだ?」
「……瑠璃と一緒に買い物に行っている」

「昨日もそれで人の部屋で勝手に待っていたかと思えば明日瑠璃と買い物行くから服を選ぶのを手伝えなんて言い出すわ俺の目の前で着替えだすわ……」とまたブツブツと言い出した隼に本日2度目のため息を吐いた。

そもそも俺と隼の名前に対する見解はだいぶ違う。隼は名前の事を泣き虫だとか警戒心が無いと言うが、隼程ではないとはいえ名前の友人として付き合いの長い俺も、あの瑠璃ですらも名前が泣いているところなど見た事がなかったし警戒心が無いと思ったことも無かった。
では何故ここまでの印象の相違が出来たのか、それは単純に名前が幼馴染みとして隼に大幅な信頼を寄せているからだろう。この男には不幸でしかないかも知れないが。

「いっそもう伝えてみたらどうだ?」
「…………何をだ」
「思っている事を全部」
「なっ?!」

「何を言ってるんだユートォ!!俺は別に……!!」と声を荒げる隼に「俺は思っている事を言えばいいと言っただけだ、何を慌てる事がある?」と返せば隼は目を見開き苦虫を噛み潰したような顔を見せ「謀ったなユート……」と呟いた。耳が赤い。とても分かりやすい。
というかバレてないとでも思っているのか、名前本人以外にはお前の想いはほぼバレてるぞ。

「隼の場合、名前に男と思われているかすら怪しいからな。ハッキリ伝えた方が良いんじゃないか?」

そして成就するなりして俺の部屋の扉への負担を減らしてほしいと考えていると隼がため息を吐いた。

「あの阿呆がハッキリ伝えるくらいで理解するものか……俺だって今まで何もしなかった訳じゃない。だが俺のベッドで勝手に寝こけていたり俺の目の前で着替えだしたりした時に男の前でそういう事をするなと、そして俺も男だと切々と説こうとあいつは未だに直らないんだぞ……」
「…………」

そこで説教をするからじゃないかとか、下世話だがヘタレ…じゃない奥手過ぎやしないかとか……いや鉄の意志と言う事にしておこう、隼の名誉の為にも。
とりあえず、これは根が深い上に隼の方にも問題があるのではないかと思い始めた。
俺は一旦目を閉じふぅと息を吐くと「……隼」と口を開いた。

「名前は確かに隼、君に対して恐ろしい程に鈍感だ。遠回しに言ったり例え直球で言おうと一度や二度言って聞かせた程度では理解すらしないだろう」
「……」
「しかし理解されないからといって言う事すら諦めてしまったらそれこそずっと理解されないのではないのか?」
「!!」
「理解されないと諦め地に膝をついてしまえば名前は恐らく一生君の想いに気付かないだろう。だが諦めなければ、いつになるかは分からないが理解してくれる日が来るかもしれない!」
「ユート……」
「何度でも言えばいい、何度とんちんかんな答えが返ってこようとまた伝えればいい。伝わるまで伝えるべきだ」

俺がそこまで言うと隼は目を閉じて「……そうだな、俺が間違っていた」と言った。

「俺は心の何処かで今のままで良いと立ち止まっていたのかもしれない。お前の言葉で目が覚めた」
「そうか」

……正直途中で自分が何を言っているか分からなくなって勢いだけの説得になってしまったのだが、どうやら納得してもらえたらしい。
落ち着いた隼は俺に礼を言うと帰っていった。これで多少は進展してくれないものかと幾度目になるか分からない溜め息を吐いた。


しかし俺は気付いていなかった。これでは根本的な解決になっていない事、そして名前の隼に対する鈍感力の強さを。
1ヶ月後、俺の部屋の扉を勢いよく開け頭を抱えながら俺に名前が如何に自分の言葉を理解しないかを語る隼の声に耳を傾けながら、俺はとうとう蝶番が壊れた扉を遠い目で見詰めていた。

「名前の奴なんと言ったと思う?!『そんな事今更言われなくたって私だって隼ちゃんの事大好きだよ!幼馴染みだもん!』だぞ?!このやり取りを何回したと……おいユート!聞いているのか?!」
「…………あぁ」




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