十代はいつだって真っ直ぐだ。
アカデミアが異世界に飛ばされた後、またすぐに行方不明になって帰ってきた彼は以前とは別の意味で捉えにくい奴になっていた。
だけど向けられる視線だけは以前と変わらず真っ直ぐだ。いつだって私を突き刺し、揺さぶる。
「俺と一緒に行かないか」
そう言った十代の視線もやっぱり真っ直ぐで。何処に、と冗談を言うことすらも叶わない。
なんで私なのかとか、他にもアンタと一緒に行きたい人が居るだろうにとか、そんな疑問よりも前に口から零れたのは「バカじゃないの?」という一言だった。
「バカってのは酷くないか?」
「バカじゃない。私はアンタと違って進路ももう決まっちゃってるし。行ける訳無いじゃない」
「そういや名前はアカデミアに残るんだっけ」と聞く十代に「知ってるじゃん」と言えば「今思い出した」と十代は薄く笑う。
そうだ、研究生としてアカデミアに残る。明日香が海外留学に進路変更したからもう私しかいないけど。
「分かったならこれでこの話はおしまい」
「そうか、残念だな」
そう言ってまた薄く笑う十代を一瞥して、私は十代の元を離れた。帰ってきた十代のあの達観したような笑顔は好きじゃない。どうせ私が誘いを受けようが断ろうがどっちでもいいと思われている気がしてムカつく。
安定した未来の為に、幸せになる為に。そうやって生きてきたんだ。そして、これからもきっと。
だから、なんでもっと早く言わないんだなんて思ってはいけないんだ。
そうであれば良かった筈なのに。
「遅かったわね、もう行っちゃったのかと思ったよ」と声を掛ければ十代は目を見開いてえ、とかは、とか口をぱくぱくさせている。その顔を見ただけでここに来たかいがあったというものだ。十代が乗る予定であろうモーターボートの前でふんぞり返りながら鼻を鳴らす。
「卒業パーティーくらい出れば良いのに、おかけで料理食いっぱぐれたわ」
「名前、なんで……」
「失礼な奴め、十代が誘ったんじゃない」
「いや、でも」
「研究生は」と続けた十代に「ちゃんと断ってきたに決まってるでしょ」と返す。鮫島校長達に謝りに行った時ニッコリと笑いながら「なんとなくそんな気がしていた」と言われたのを思い出して眉間にシワが寄りそうだ。バレバレだっていうのか。
「進路蹴っちゃったし、これじゃきっと就職も出来ないし。ホント私も大概おバカだわ」
「……名前」
「ちゃんと責任取ってよね」
十代に手を伸ばす。
十代は迷わずに私の手を取って、笑う。最近見ていた達観したような笑顔じゃなく、出会った頃のようなあの無邪気な笑顔。
「……この短期間に何かあった?」
「ん?」
「なんか憑き物が落ちたというか、迷いごとが消えたみたいな…?」
「あー、確かにそうかもな」
「何よ教えなさいよ」
「今度な!」
手を引かれモーターボートに乗り込むと十代が振り向いてまた笑った。つられて私も笑った。
にっこりと、にんまりと、2人で笑い合う。
「名前、これからもよろしくな!」
「こちらこそ、これからもよろしくね、十代」