1時間前、少しはこのタッグを楽しんでみようかと思ったと言ったな。あれは嘘だ。
後頭部の痛みとぐらりと傾く身体、ついでに「ゴメンなー!!」と叫ぶヨハンの声に私はやはりこいつとのタッグは難しいかもしれないと考え直していた。
「……」
「…………」
「……貴方は」
「バカなんですか?!」と眉間にシワを寄せて私の向かいに正座しているヨハンに怒れば「ホント悪かったって!」と顔の前で手を合わせる。
「なんでわざわざ私の真後ろに行ってからボールを投げたんですか、しかもボーリング玉」
浜辺にて。あのウエスト校から来た先生が提唱したとかいう特別カリキュラムなるものを受けていたのだが1試合目のヨハンの第1投が見事に私にぶつかったのだ。
「いやぁいけると思ったんだけどなー」と笑いながら頬を掻くヨハンにいけると思ったじゃない、競技用だったから良かったものをと睨めばばつが悪そうに目を逸らされた。
もう一言何か言ってやろうと口を開けた瞬間「あっ!」とヨハンが声を上げた。驚いて口を閉じるとヨハンは「もうすぐ授業始まる時間だ!」と言われ慌てて時計を見れば1限目まで後20分しかない。
立ち上がったヨハンはズボンに付いた砂を払うと「説教はまた後で聞くからさ、教室行こうぜ!」と私の腕を掴みそのまま走り出した。転ぶ!転ぶ!!
「わ、分かりましたから引っ張らないでください!」
「ん?そうか?じゃあ教室まで競争な!!」
なんでそうなる?!
なんとか授業に間に合い授業という名の地下探索(前回も思ったのだが授業として成立しているのだろうか、確かに実戦にはなっていそうだけど)も終わり再びタッグパートナーとの行動になる。
「放課後だな!」と迎えに来たヨハンに「……今朝の事ですけど」と言えばヨハンは「うっ」と呻き声を上げた。
「また後で聞くって言ったもんな……うん、よし!こい!!」
「ドローパン奢ってくれたらチャラで良いですよ」
「え?!いいの?!」
「2つですよ」
「全然良いぜ!」
「そうと決まれば早く購買行こうぜ!」とまた腕を掴まれ走らされた。落ち着いてくれ。
購買に着き約束通りドローパンを奢ってもらった。が、トメさんに「今日は2つで良いのかい?」と聞かれたせいでヨハンがこちらをジッと見ている。
「……なんですか」
「名前っていつもはいくつくらいドローパン買ってるんだ?」
「別にいくつでも良いじゃないですか」
「名前ちゃんはねぇいつもは6個くらい買ってくのよー」
「ト、トメさん!バラさないでください!」
「6個?!じゃあ2個じゃ足りないんじゃないか?」
心配そうに聞くヨハンに「お詫びで買ってもらうんですから2個で良いんです。足りなかったらまた自分で買いますし」と言えば「やっぱ足りないんじゃないか!」とムッとした表情で言われた。
「お詫びなんだからちゃんと腹いっぱい食ってもらわないとな!トメさん!ドローパン4個追加で!」
「はいよー」
「い、いや別にいいと……」
「いいっていいって!」
断るも叶わず「ほら!」と新たに4個のドローパンを渡された。困惑しながらヨハンを見ればニコニコと笑いながら「それにしてもこれ美味しいな!」とドローパンに齧りついている。
はぁとため息をついて「じゃあありがたく頂きますね」と言えば「おー!」と返ってくる。抱えているドローパンをイートインスペースの机に置きその中から1つだけ取って開け一口食むと葡萄の味がした。
なんだかヨハンのペースに呑まれているようでこれはデュエリストとしてもまずい。気を引き締めないと。