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友達になった留学生のジム・クロコダイル・クックという人はとても良い人だ。デュエルは強いし、声を掛ければ笑顔で返してくれるし、最近は向こうからも話し掛けてくれるし、彼のフレンドでファミリーだというカレンさんは可愛いし、デュエルが強い。うん、とても良い人だ。
そんな彼だからか最初は見掛けたら声を掛ける程度だったのに今では何かあれば彼を探して話し掛けてしまうくらいだ。
中々気の合う友人を見つけたと自画自賛してしまう。うんうん、勇気を出したかいがあったな。



アカデミア校舎内を歩きながらキョロキョロと辺りを見回す。今日は座学授業が無かったからか(始業式から始まったデスクロージャーデュエルなるもので期間中は実技メインになってしまい座学授業が減っているのだ)廊下にも教室にも人は少ない。
うーんと思わず唸る。デッキを調整したので試運転がてらジムにデュエルしてもらおうと思ったのだが肝心のジムが見つからない。男子ブルー寮にも居なかったし、今見回った限り校舎内にもいなそうだ。
ならば岸壁の所か、レッド寮かもしれない、もしかしたら森の方かもと足を動かしながらも思案していると「あら、名前じゃない」と声がした。

「ジュンコ!ももえ!」
「どうしたのよ、今日は座学無いわよ?」
「何か用事ですの?」
「用事って訳じゃないけど…あ、そうだ!2人に聞きたいんだが!」

2人の所まで早足で行き「ジムを探しているんだ!見なかったか?」と聞くとももえは「あらまぁ」と頬に手を当て微笑みジュンコは口を尖らせ眉間にシワを寄せる。

「ホンットにアンタは最近口を開けばジムジムって!この裏切り者めぇ〜!!」
「ひゅんひょ、いひゃいじょ」

ジュンコにむにーっと頬を引っ張られ変な声が出る。ももえが「名前はホントにジムが好きなんですわねぇ」と言われ頬を引っ張られたまま舌っ足らずに「ひょう、ひゅきらじょ」と返せばジュンコがパッと手を離し腕を組んで「全く、何が良いんだか」と不機嫌顔。

「ジムは良い人だぞ?デュエル強いし」
「そうですわねぇ、やはりデュエルがとても強いのが素敵な殿方の最低条件ですわね!」
「おう!ジムはとっても強いぞ!」
「……まぁ留学してくるだけあって強いとは思うけどね」
「だろう?!」
「なんでアンタが誇らしげなのよ」

またむにむにと頬を引っ張られふひぇーと声が漏れる。加減をしてくれているから凄い痛い訳ではないけどそれでもやっぱり地味に痛い。
またパッと唐突に手を離され引っ張られた頬をさすっていればジュンコがふんと鼻を鳴らし「ジムなら少し前にレッド寮の方に歩いていくのを見たわよ」と教えてくれる。
「ありがとうジュンコ!」とお礼を言えば「ほら、早く行きなさいよ」とそっぽ向かれた。


2人と別れ足早にレッド寮に向かうと見慣れてきた背中と見慣れた3人が見えた。おーいと手を振りながら駆け寄れば4人…とその足元にいたカレンさんがこっちを向いて「名前?」「よう名前ー!」「あれ苗字さん?」「苗字先輩だドン」「がう」と思い思いに呼ぶ。
……気になるのは見慣れた3人もとい十代、翔、剣山の3人がなんで食べ物を大量に抱えているかだ。

「皆で何やってるんだ?」
「いやぁカレンって何食うのかなーって気になってさー」

なるほどそれで沢山抱えてきたと。魚肉ソーセージの封を開ける十代を見ながら「あれ、でもカレンさんってジムから貰ったご飯しか食べないってジム言ってなかったっけ?」と言った瞬間、十代が差し出した魚肉ソーセージをカレンさんがバクリと食べた。
驚きの余り目を丸くしたままジムと十代を交互に見ればジムは困ったような、嬉しそうな顔で肩をすくめ十代は「俺とカレンは友達だからなー」と笑う。な、なんだって…!しかしそれは聞き捨てならない。

「…私もあげたい」
「?」
「十代とカレンさんが友達だから十代があげたご飯を食べてくれるという事は、つまりカレンさんがご飯を食べてくれればカレンさんと友達という事…やるしかない…!!」

拳を握りジムに「良いか…?」と聞けばジムは苦笑しつつも「何事もChallengeが大事だしな」と許可をくれた。良い人だなぁ。

「名前はカレンの友達のジムや俺と友達なんだからカレンの友達でもあるわけだし大丈夫だろ!なぁ翔?」
「え、えーと?」
「友達がゲシュタルト崩壊してるドン…」

笑いながら十代が「名前、ほら!」と抱えている食べ物の中から魚肉ソーセージを引っ張りだし私にくれた。
よし!と気合いを入れ包装を剥いだ魚肉ソーセージをそっとカレンさんに差し出した。息を呑む。カレンさんは魚肉ソーセージをジッと見つめたまま動かない。

「……」
「…………」

カレンさんは動かない。思わず項垂れる。
私じゃダメらしいと諦めかけたその時、カレンさんがのそりと動き魚肉ソーセージをぱくりと一口。
呆気に取られて魚肉ソーセージの無くなった手をジッと見つめたまま固まっていたが、ゆっくりと顔を上げると十代が「やったな!」と笑い翔達が「おめでとうッス!…でもアニキもそうだけどよく怖くないね…」「何度見ても冷や冷やするザウルス…」と苦笑いを零した。
固まったままぱちくりと瞬きをするとポンと肩を叩かれた。隣を見ればジムが笑顔で「Congratulations!」と親指を立てる。
じわじわと理解が追いつき、無意識に上がった口角をそのままに「やった!!」とジムに向かい両手を挙げればジムはすぐ察してくれたらしく軽く両手を挙げてくれた。パチンと子気味のいい音を立ててハイタッチ。とっても!嬉しい!!


その後、喜びの余りカレンさんにもお礼を言って大満足で帰路に着き、ジムに当初の目的であるデッキ調整デュエルどころか約束を取り付ける事すら忘れた事に気付いたのは就寝直前のことだったという。



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