「愚かな小娘は知らなかったのよ。恋は、宝石のように甘い夢を見せる毒だってことをね」

 魔女は静かに呟き、目を細める。その顔には柔らかだが暗い影があった。苦い過去を噛み締めるように女はまつ毛を震わせる。

「私が、盲目ということですの?」

 レイチェルは奥歯を噛み締めた。それを見て、魔女は優しく微笑む。二人きりの空間に、焼け付くような感情が満ちていた。
 魔女はゆったりと口を開く。

「少なくとも、かつての私はそうだったわ」
「……私とあなたは似た者同士というわけですのね」
「そうかもしれないわ。貴方がとんでもない資産家の娘だったりしたら、ね」

 女はいたずらっぽく笑って見せた。決してそうではないでしょう、と言いたげな瞳だ。それはその通りだった。

「……私は、ただの小娘ですわ」

 困ったようにレイチェルは言う。

「ただ、育ての親に見捨てられた娘ですの」
「哀れだと思うわ。だからこそ、私は貴方にここで引導を渡すの」

 魔女はそっとカードを手に取った。目尻に乗せられた化粧が照明で煌めく。

「本当に、あなたはお優しいのですね」

 だからこそ、とレイチェルもカードを手に取った。

「そんなに優しくはないわよ。私は、私が幸せになるために貴方を打ち負かすのだから。……ねぇ、お嬢さん。改めて聞くわ。貴方は何のために、誰のために戦うの?」
「……今まで、私はおじさまのために戦ってきましたわ。だけど、それは違うのかもしれないのですね」

 魔女は微笑み、優しくレイチェルの言葉を促す。

「それでも、私、ここでは負けることができませんの。……だからこそ、フォールド」

 レイチェルはにっこりとそう笑い、カードを全て、机の上に開いて見せた。そこに揃っていたのは、Kのフォーカード。
 魔女はそれを見て、目を見開く。初めて、怯えたように吐息が震えた。そしてそれを押し殺すように唇を噛む。
 ふ、とレイチェルは笑う。それは思わず溢れたと言わんばかりの軽やかな笑みだった。

「やっと、あなたのそういう顔が見れましたわ」
 
 




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